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聖女と翼をもがれた天使  作者: まくのゆうき


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城への侵入

都に着いて商人と別れた少女は、馬車を降ろされたところから、とりあえず城らしき建物を目指して歩いていた。


「確か、商人の話ではお城の一室にいるってことだったわよね……」


都には貴族が集まっているのか、広く豪奢な庭付きの建物がたくさんある。

どれも城とまではいかないが、立派なものばかりだ。

そんな建物を横目に見ながら、天使は少し小高い場所に見える正に城といった建物を見失わないようにしながら足を進めた。


やがて少し道が上り坂になったかと思うと急に目の前が拓けて、大きな門と、警戒する兵士、それを囲う塀が目に入った。

塀といっても高い壁ではなく、牧場などにありそうな柵や、高い垣根くらいの高さなので、これならばどの位置からも城を見ることができる。

そして商人が言っていた通り、城を見に来ている観光客らしき人がちらほらいて、その塀に手をついたりして中を覗いている。

警備をしている兵士は鬱陶しそうに見ているものの、特に彼らを注意する様子はない。

天使はとりあえず城と呼ばれる建物を把握すべく、塀に沿ってその周りを一周してみることにした。



天使が建物をじっくりと観察しながら塀の周りを回っていると、少し陰になっている一部屋から見覚えのある光がこぼれているのが見えた。


「あの窓……」


天使が光を見たのは一階の窓の前に木の立っている部屋の一室だ。

大事な客人を一階の火の当たらないような部屋に押し込めるだろうか、もしかしたらあの光がこぼれてきたのは、その部屋で聖女の言っていた貴族の治療がこっそり行われているだけなのではないか、天使の頭の中に色々な憶測がよぎった。

けれど、間違いなく城にいる時、聖女はあの部屋に出入りすることがある。

少なくとも今はあの部屋にいる。

それだけは間違いない。

周囲に人がいないのなら、こんな低い塀など乗り越えてさっさと確認に行くところなのだが、残念なことに周囲には兵士だけではなく観光客もたくさんいる。

兵士ならば巻けばいいが、一般人を巻き込むわけにはいかない。

天使は一度逸る気持ちを押さえて、再度よく周囲の様子を確認した。

観光客のいなくなる夕方から夜あたりに確認にこなければならないため、塀の内側だけではなく塀の外側の目印になりそうなものを確認する。

そしてそれとなく観光客に紛れて街の中心部に戻ると、そこで日が暮れるのを待つことにしたのだった。



辺りが暗くなる頃、天使は静かに城の近くに戻ってきた。

正面から行くと門にいる兵士に見つかり、こんな時間にこの場所にいることを怪しまれる可能性があるため、彼らに見つからないようにわき道からこっそりと城の塀に近付いた。

見通しはいいものの、暗いため少し離れたところであれば目が届かないと踏んだ聖女は、塀の高さまで頭を下げて、周囲を確認しながら先ほどの目印を目指した。

そしてここからが勝負だ。

塀から建物の近くにある木まで少し距離がある。

その間で兵士たちに見つからなければ、少なくともあの部屋に近付くことはできる。

もし聖女がそこにいなければ見つからないように戻って今日は諦め、翌日また様子を探りに来るしかない。

だが今日見つかってしまったら、明日忍び込むハードルが上がってしまうかもしれない。

だから見つかるわけにはいかないのだ。



天使は周囲に人がいないこと、兵士がこちらを見ていないことを確認すると、静かに塀に上って、そこからできるだけ音をさせないよう庭を走って、建物の近くの木を目指した。

そして一度木の隙間に身を隠して建物の様子を伺った。

この間、外から侵入を知らせるような声もしていないし、建物の中からこちらを伺っている者もいないようで、見つかった様子はない。

聖女は息を整えると建物の近くまで移動し、昼に光がこぼれていた窓からそっと覗きこむと、そこは聖女の居室のようで、彼女が薄暗い部屋の中で本を読んでいるのが見えた。

幸いにも机が窓の側にあり、彼女が顔さえ上げてくれれば自分の存在に気付いてくれそうな位置にいる。

けれど、すぐ隣の部屋からも気配を感じるのであまり大きな音を出すわけにはいかない。

だから天使は、根気よく窓を爪でコツコツと叩いてみることにしたのだった。



コツコツと、根気よく窓を爪で叩いていると、顔を上げた聖女がその音に気が付いて窓の方を見た。

そしてその音を出している指が、自分の部屋の窓を叩いていることに気が付いた。

部屋から見ると、窓の下の見えない部分から手が伸びていて、明らかに自分を呼んでいるのだが、薄暗いこともあり少し気味悪く感じていた。

だが、しばらく様子を見ていても一向にその音は止まる気配がない。

せめて何者がいるのかくらいは確認した方がいいだろうと、聖女は立ち上がると窓を開けず、上から覗き込むようにその相手を確認しようとした。

けれどもその相手はちょうど死角になる位置にいるのか、聖女の部屋からは頭しか見えず、顔を確認することはできない。

ただ角度が変わったことで、そこにいる人物が髪の長い、スカートを履いている少女であることだけはわかった。


「もしかして……」


窓から訪ねてくる少女に一人だけ心当たりがある。

それにその人一人しかいなくて、もし別人だったり、危害を加えられそうになったら大声を上げればおそらく助けが来る。

聖女はここにいるのはきっとあの時訪ねてきた少女だと信じて、静かに窓を開けることにしたのだった。



見ないで何度も叩いていた窓が急に開いて、指が当たらなくなったことに驚いた天使は黙って窓を見上げると、聖女が上から覗き込んでいた。


「あ、ようやく気が付いてもらえたのね」


天使がそう言って立ち上がると、聖女は机の上のものを移動させてから手を差し伸べた。


「ここからでいいかしら?机の上の物は避けたわ」

「ありがとう」


天使は聖女の手を借りて、高い位置にある窓に足をかけた。

彼女の体が部屋の中に滑り込んだのを確認すると、聖女は素早く窓を閉める。

そしてドアにも鍵をかけて、机から降りてそこに立っている天使に言った。


「ちょうど夕食が終ったところだから、たぶん人は来ないと思うけれど……」

「隣の部屋には人がいるようだったわ」

「そうなのよ。だからあまり大きな声で話しはできないの」

「わかったわ」


こうして天使は、城にある聖女の部屋への侵入に成功したのだった。

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