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聖女と翼をもがれた天使  作者: まくのゆうき


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家族の行方

家を離れて数日、天使は聖女から聞いた場所を探して彷徨っていた。

ここまでの道中はヒッチハイクだ。

お金をほとんど持っていなかった天使は、荷馬車を捕まえては行き先を聞き、手伝いをすることを条件に近くの街まで乗せてもらうことを繰り返していた。

荷馬車の中で荷物を確認すると、こっそりと両親が入れてくれたのか、何泊か宿に泊まれるだけの路銀が小さな布袋に入れられているのを見つけた。

けれど宿に泊まるのは最後の手段。

荷馬車が野営をしたり夜通し走るのなら、そこに便乗しようと決めて、そのお金は大事にカバンの奥へとしまい込んだ。

翼があれば飛んで移動することもできるのだが、片翼がないためそれは無理だ。

そうしてようやくたどり着いたのが彼女の生家があるという街で、天使は苦戦することになった。

まず街にあまり人の気配がない。

見つけた人に片っ端から声をかけてみたものの、聖女の家族のことを知る人になかなか巡り会えなかった。



街でしばらく聞き込みを続けてわかったのは、聖女の生まれがこの街で間違いないということだった。

けれど、なかなか具体的な場所の特定にはつながらない。

どうやらこの街は聖女誕生の地という情報だけが知れ渡っているだけで、街の人が聖女の知り合いというわけではないらしい。

中途半端に情報を持ち、知った気になっている者から話を聞くことになるため、聞き込みにも時間がかかる。

そして中には聖女のアイテムと称したものを売りつけようとする者もいて、それらを交わすのも一苦労だ。

そんなことを繰り返して街の中をうろうろしていると、片隅のテントから声をかけられた。


「あんたかい?聖女の家族を探してるってのは」


街で聞きまわっていたことを聞きつけたのか、天使にそう声をかけてきたのはかなり高齢そうな男性だった。


「そうだけど……。何か知ってるの?」


天使が警戒しながらテントに近付くと、老人は言葉を発す代わりに、彼女を手招きした。


「ねえ、知っているなら教えてちょうだい。聖女の生家を探しているの」


すると老人は首を横に振ってから声を潜めた。


「あそこにゃ、近付かんほうがいい。聖女の生家は王族の関係者が出入りしていて物々しい」

「それは監視されているということ?」


天使も同じように小声で返すと、老人は首を立てに振った。


「表向きは聖女の家族の身の安全を守るためと言っとるが、お嬢ちゃんの言う通り、ありゃあ監視というに相応しい。無理に会わせろと言おうものなら、不敬だと捕まっちまうからな」

「そうなの……。ねぇ、無理はしないわ。だからお願い、場所を教えてくれないかしら。どうしても確かめなければならないことがあるのよ」


天使が真剣にお願いすると、老人は少し考えてから口を開いた。


「まあ、教えるのは構わんが……。気をつけるんじゃよ」


そう切り出した彼は、聖女の生家の場所を紙に書きながら説明し、最後にその紙を少女に渡した。

少女はその紙を大事に受け取ると、両手でしっかりと端を握った。


「ありがとう。もし何かあっても、あなたのことはその人たちに絶対バレないようにするわ」

「そうしてくれるとありがたい」

「それじゃあ、行くわね」


天使はその紙を頼りにもう一度街を歩くことにした。



ようやくそれらしき家のことを知っている人を見つけたものの、土地勘がないため、その場所にたどり着くのも一苦労だ。


「確かこの辺りって聞いたんだけど……」


聞いた情報を頼りに街の中をうろうろしながら、時折、つい独り言が漏れる。

けれどもそうして数時間、周辺を歩きまわった末、ようやくそれらしき建物を見つけた。

そしてその中には人の気配がある。


老人の話では、民衆が近づけないよう大げさなくらいの警備が敷かれているようだったが、その様子はない。

聖女の話でも、家族は人質にされているということだったから、先程の老人の話が嘘とは考えにくい。

となると、この場所ではないのだろうか?

天使は少し悩んだが、とりあえず訪ねてみることにした。


「ここみたいたけど……特に見張りはいないわね」


見た感じ周囲に人はいない。

けれど中に人がいるのなら聞けばいい。

もし間違っていても何かしらの情報を得られるだろう。

天使は迷うことなく、その家のドアをノックした。



「こんにちは」


ノックをしてからそう声をかけると、少しして相手を警戒したようにドアが少し開いた。

その隙間から相手を確認し、それが若い女性一人だと分かると、今度はドアを開けて一人の女性が出てきて、後ろ手ですぐにドアを閉めた。

それから突然現れた若い女性の訪問者に、出てきた年配の女性は困惑したように尋ねた。


「あの、あなたは?」

「私、実は聖女様とお友達になって、預かりものを届けに来たの。ここじゃ出せないから入れてくれないかしら?」


聖女という言葉を聞いて表情が強張ったが、すぐに女性は笑顔を繕って、天使を中に招き入れた。


「わかりました。どうぞ……」


中に招き入れられた天使は、中の様子を気にしながら女性に声をかけた。


「中には監視とかいないの?」


その質問に少し驚いたような表情をしたが、やはりすぐに無表情に戻して言った。


「さすがに中まではおりません」

「ご家族はみんな元気なの?」

「ええ、なんとかやっております」

「そう……」


和やかと言うには程遠い、どこか業務的な冷たさすら感じられることを不審に思いながら天使が家族の近況を尋ねようとすると、それを遮るように女性が天使に尋ねた。


「あの……それで預かりものというのは?」


彼女が自分を中に招き入れたのはどうやら自分が聖女からの預かり物を持っているかららしい。

それを察した天使は、とりあえず家族全員の安否を確認するため、全員の姿を見たいと伝えることにした。


「それはご家族が皆揃ってからがいいわ。他の人たちはどうしているの?」

「いえ、それは……」


女性が明らかに動揺したのを見て、天使は自分の勘に間違いのないことを確信した。


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