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+第十章 誰を呼んでる?


 酔っ払いに絡まれたところを芳郎に助けられてから、真言は通と一緒に芳郎の住むマンションでお茶を飲んで帰ってきた。もちろん、通子の弟という設定を維持したままである。

 ぼろを出さないようにと緊張したせいで、もう、なんだかとっても、ぐったりである。

 真言は事務所の自分の席について、机に突っ伏した。

「何か、疲れた」

「俺も疲れたわ。一日あのお嬢の世話だぜ。お前は来たと思ったら、おっさんにナンパされてるし」

 ナンパされたんじゃない、からまれただけだ。

 気づいていたなら、助けてくれればよかったじゃないかと思う。真言は顔を上げて、清吾を見やった。

「お、何だ? 俺にモノ申したいことでもあるのか?」

 ある。あるが、今はもう疲れたので口を開きたくなかった。

「別に」

 簡単な言葉でごまかす。

「お前、それ口癖な」

 真言はその発言に眉を顰めた。

「どういう意味ですか?」

 机から身を起して聞いてみる。清吾は中指で眼鏡を押し上げる仕草をした。

「そのまんま。お前、よく言ってるぜ? 別にって」

 そうだろうか。真言が首をひねっていると、化粧を落とし、着替えを終えた通が部屋に入ってきた。肩まで伸びた髪はいつものように、後ろでくくっている。

「マコッチー」

 通が冷蔵庫を開けて、声を上げた。

 何の呪文だろうかと、真言が冷蔵庫の前でしゃがんでいる通をみると、また通が声を上げる。

「マコッピ。聞いてるー? おーい。マコピッピー」

 真言ははっと目を見開いた。

「通さん、もしかして僕呼んでます?」

「そうそう。マコッチ、マコッピ、マコピッピー」

 どこか歌うようにリズムを取りながら、通は真言に顔を向けた。

「通さん、三段活用みたいに言うのやめてください」

 疲れた声が出た。通は笑顔を真言に向けた。

「はいはい。マコピン。紅茶でいい?」

 今度はマコピンかと思いながら、真言は頷いて見せた。

 通は冷蔵庫から、ペットボトルを三本取り出し、ミネラルウォーターを清吾に、ミルクティーの入ったペットボトルを真言に手渡した。通自身は炭酸飲料である。炭酸飲料のペットボトルの蓋を開けるとき特有の音が部屋に響く。

「清吾。今日はどんな感じだった? 岸谷玲香さん」

 通はペットボトルに一度口をつけてから、自分の席に着いた。清吾は机の上に足を乗せ、椅子の背もたれにだらしなく寄り掛かる格好で口を開く。

「ああ。あの女な。何考えてるかよく分かんねーな。いろいろ、聞いては見たけど、こっちが調べた情報と対してかわんねーし。まあ、芳郎への憎悪は感じたかな」

 清吾が珍しくまともなことを言っていると、驚いた真言の横で、通は頷いた。

「そうだね。あの人初めから芳郎のこと良く思ってなかったみたいだし。ま、貰えると思ってた遺産を横取りされたようなもんだから、良く思ってなくて当たり前か」

 嘆息しながら、通は言った。清吾が肩をすくめている。

「どうして、殺したりしたんだろうね」

 真言はついそう口を滑らせた。清吾と、通は同時に真言に顔を向けた。

「マコマコは、岸谷彩香さんは依頼人の言うように殺されたと思ってるんだ」

「確証は何もねぇだろ。事故死で片付けられてんだし。何でそう思うんだ?」

 清吾に聞かれて、真言は目を伏せた。

「別に、なんとなく」

「ほら、また言った」

 え? と、顔を上げて見れば、清吾が意地の悪い笑みを浮かべていた。

「何? 何のこと」

 通が興味をひかれたようにそう言った時。奥の部屋へ続くドアが開いて、茉莉が出てきた。

 先ほどまで電話していたようだが、どうやら終わったらしい。

 茉莉は、どこか楽しそうな表情で、三人の顔を見まわした。

 そして、こう告げる。

「皆、明日しかけるわよ」

 茉莉の声に、真言たちは一度顔を見合わせ、口ぐちに了解と声を上げた。


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