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煙の手記  作者: うゆごみ
1/5

プロローグと出会い

 灰色の煙で覆われた古い建築の蒸気街が現れる。僕の生まれ育った街だ。中心部には煙の高さが届かないほどの時計塔が建っている。

 飛行装置とゴーグルを身につけ、煙のすぐ上を飛んでいく。このまま飛べば目的地の時計塔にたどり着ける、そう思った矢先、突如風向きが変わり、眼下の蒸気街の煙が赤黒く染まった。

 地平線の先には次々と空から星が墜ちている。墜ちた場所は円形に土砂を巻き上げている。流星群は蒸気街にも到達した。逃げようと僕は空に視線を戻すと、目の前に星が迫ってきていた。

 何とか避けようとしたがそのまま直撃してしまい、意識を手放した――


 夢からの目覚めは最悪で、ベッドから落ちていたようだ。ここのところ落ちてばかりなので、そういう運命にでも取り憑かれたのかもしれない。


 ベッドに戻ろうとすると、物音を聞き取ったのか何処からか人が近づいてきた。

 声を出そうとしたが、喉の痛みで出せなかった。それは不思議なシルエットをしていた。人の体に頭は電球よ歪な組み合わせだった。

 電球頭は無言で僕の体を持ち上げベッドへ戻した。そして丁寧に布団までかけてくれたのだ。布団をポンポンと叩いた。


 部屋にはいくつかのベッドやパーテーションがあった。さらに独特の薬品の匂いが強い。体には包帯が巻かれているし、ここは病院なのではないかと確信した。途端に生きている事への安堵と感謝の念が沸いた。


 なんとなくピッチャーを指さすと意思が通じたのか、電球頭がコップに水を注いでくれた。

 コップを持ったまま静止していたと思っていたら、電球頭が光った。すぐにゴリゴリと音が聞こえ、角張った指先から水へ粉が入れられた。

 頭が光った事にも驚いたが、何より大地には自律している機械人形など存在していなかった。ここは夢の中なのではないかと疑った.

夢の中ならば怪しい粉を飲んでも問題ないと思い、一息に飲み干した。猛烈に喉が乾いたのでピッチャーの水も飲み干した。


 電球頭がピッチャーに水を足して戻ってくる頃には眠気に襲われていた。外は明るくなっていたものの、飲まされた薬の影響か数分のうちに眠ってしまった。


 次に起きたのは夕方だった。全身が熱く、手足もしびれて上手く動かせなかった。怪しい薬を飲んだからか、脚を失った影響だろうか?

 確実なのは昨晩の事は現実に起こったということだ。

 空いているベッドに鎮座している電球頭を見つめた。


 外が暗くなるころには痺れが引き、自由に体を動かせそうだった。怪しい薬の効果だろうか?


 身体が元気を取り戻したことに後押しされ、部屋から出ることにした。

 痺れが引かないうちにベッド横には車椅子があるのを見つけていた。この部屋から勝手に出てよいものか迷っていたが、すぐ戻れば大丈夫だろう。車椅子は非常に軽く、簡単に手繰り寄せることができた。


 この部屋の外はどうなっているのだろうか?

 未知の場所を探索できるワクワクと申し訳ない背徳感。最後に見た風景は地面だったから、土しか見えない可能性はあるけれど。用もなんとか足し、ドアを開けた。


 ドアの先は土でも海でも樹海でもなく、そこは少し長めの廊下だ。装飾品すら置いていないスッキリとした廊下だった。


 がっかりしながら部屋を出た。曲がるのに苦戦していると、駆動音とともに電球頭が動き出した。電球頭は車椅子に慣れていない僕の車椅子を押し始めた。てっきり強引に外出を止められると思っていたが、杞憂だったらしい。左を指さすと廊下に沿って押してくれた。


 廊下を見渡すと僕と電球頭以外誰一人いなかった。気づくと電球頭は行先を照らしていた。廊下には電球頭の硬い足音だけが響いた。ドアと共に無数の表示板があり、その分だけ病室があるようだった。

 廊下の突き当たりには窓があった。夜だったこともあり、景色はほとんど見えなかった。


 来た道を帰っていると、反対方向から人が向かって来ていた。


「320号室のエセルさんだね?今向かうよ」


ハツラツとした声が廊下に響く。手を振ってきたのでゆっくり振り返した。

 自分の部屋番号は覚えてなかったが、勝手に外出したことはバレてしまっているようだ。彼女とはかなり距離があるが僕からは表情すら確認できていない。怒られたとき用の言い訳を考え始めた。


 近づくにつれ、向かってくる彼女は正確に人とは呼べない事が分かった。

 顔は人間のもの|(とびきりの笑顔なのが少し怖い)、頭に2本の角が、腰からは尻尾までも生えている。極めつけに脚は鳥のようだった。話を聞くうちに彼女はこの病院の職員だとわかった。

 胸にある盾と杖のマークが病院を表しているらしい。


 外出した言い訳をしようとしたが、声が出ないので必死にジェスチャーで弁明した。


「そんなに慌てなくても喰ったりはしないさ。部屋から出たことならその電球頭が知らせてくれるしな」


 特に外出しても問題はなかったようで、むしろ動けている事に驚いていた。声が出ないのはどうやら薬の影響らしい。外側の傷は治しやすいが内側は難しいそうだ。


「エセルさんを運んだ時は死にかけで大変だったんだよ。先生も一ヶ月は起きないとも言ってたし」


 僕自身の知らない驚異の生命力を説明されていると、いつの間にか部屋の前まで着いてしまった。


 部屋の前で彼女と別れ、うとうとしながら電源の落ちた電球頭を眺めていた。すると彼女が部屋に入ってきた。そしてノートとペンを手渡された。


「しばらく声を出せないだろうから筆談にでも使ってくれ。その機械は文字でも命令できるからね」



「それと何故空から落ちて来たのか書いておいてくれ。君は初めて見る種族だが、話が通じるのであれば文字も似たようなものだろう」


 雑な理論だが僕もそう思えたので、大げさに頷いた。そしてベッドの電灯をつけ、適当なページを開き早速ありがとうと文字で返した。


 彼女はニヤリとしてから布団をポンポンと叩き、部屋を出ていった。


 その後はワクワクでしばらく寝付けなかった。



01


 朝起きると医者が来ていた。

 目を開けると視界が鱗で埋まっていたので、また変な夢を見ているのかと思ってしまった。朝の挨拶より先にざっくりとしたプロフィールを書いてくれと、紙を渡された。見慣れた文字で項目が印刷してあった。

 医者は忙しいようで、プロフィールを書いた紙を受け取るとすぐに部屋から出ていった。しばらく戻ってこなかったので、もらったノートに経緯を書くことにした。昨晩の会話から崩壊という単語が出てこなかったことが気にかかり、崩壊の歴史から書くことにした。


 名前:エセル・メイソン

 年齢:19

 性別:男

 生まれ:ローア国南の大時計の街


◇崩壊の歴史

 大地の崩壊は海から進んでいった。最初は海運都市の灯台が海に沈んだ。落としたクッキーのように亀裂が入り、ゆっくりと数日のうちに海へ消えていったそうだ。数百年前にあった港湾都市の全ては海に飲まれてしまったらしい

 大地は海に囲まれていて、他に陸地は無い。正確に表現すれば発見できていない。波は荒く渦潮が多く発生し、長距離の航海が困難なためだ。


 僕のいた国では、約二百年前から有り余る溶岩を活用するために陸地が造成されている。特殊な配合の彩魔鉱で土台を組み、そこに再加熱した溶岩を注ぎ込む。そうして住む土地を確保していった。二百年前から工法は変わっていない。


 しかし工法にも限界があり、現在では陸地の造成より大地が崩壊する方が速いといわれている。

 大地で最も安全なのは山の近隣、次いで内陸部。山は人が住めるように改造してしまっているし、高層の建物も徐々に増えていっている。最近では安全地帯を増やすために内陸部から補強がされている。崩壊まで猶予のある内陸部は半分ほどが補強できている。



 ローア国では計画的に海側から山側への計画移住を行っている。山側では今までのように学校で研究などが難しくなるとのことだった。女友人のツテで軍事演習場の一角を借りることができた。明後日には移住が始まってしまうので、僕達の研究した蒸気式飛行装置『AERO(アエロー)』を試すにはその日が最後のチャンスだった。


 飛行場と近い位置で入念に準備できたかいもあり、2人は何事も無く飛び終えた。最後はくじ引きどおり僕の番だった。


 飛行装置『AERO(アエロー)』は腰に小型の蒸気機関、その上に蒸気タンクを載せた飛行装置だ。そして足元には回転翼がある。蒸気は左右の固定翼と両足、背中から噴出され、手元のボタンで全ての噴出と強さをコントロールできる。


 体をベルトで固定し手元のボタンを押せばエンジンの振動が伝わってくる。重心が取りにくいが両手を動かせるコントローラーを採用した事によって改善された。

 十分にも満たない飛行時間だったが満足だった。高さは二人と同じ二十五メートルを飛んでいた。

 蒸気タンク分の重量の調整が難点だったが上手くいった。

 蒸気タンクの積載を倍に、移動速度が落ちる代わりに持続性を高めた物だ。今回は二人と同じ飛行時間だったが熱暴走も起こりそうにないので飛行時間伸ばせるだろう。


 着陸準備にかかったところ、地面がぱっくりと割れた。二人に叫んで伝え避難してもらう。

 着陸地点から離して置いていた装置が二つとも穴に落ちて行くのが見えた。加速して装置を回収しに行く。地割れは五メートル程もあったが装置は深い場所にあった。幸い装置を着けた状態でも取りに行くことができた。上昇中のところで再び大きな地震があった。


 一つだけ回収できた装置を渡す事ができた。蒸気タンクとベルトの装着を手伝い、揃って空へ脱出した。それから一分も経過しないうちに地面が飲み込まれ始めていた。


 市街地に向かう途中で地割れから爆発が起き、破片が燃料タンクに直撃した。きっと装置の赤魔鉱レッドクォーツの影響だろう。直撃した破片のせいで燃料が漏れ出していることが音で分かった。

 直後に大きく失速した。加速中だったのもあり失速の衝撃は大きかった。二人には急いで市街へ向かうように言った。


 嫌な予感を感じて即座に燃料タンクを投棄したが1歩遅かった。背中の鉄版を隔ててなお強烈な衝撃が走る。地面に真っ逆さまだった。幸か不幸か激突予定の地面が底すら見えない程深く割れたのだ。

 幸いにも地面までは距離があった。せめて頭から突入するのは避けようと思い、残り少ない燃料を使い両足を地面へ向けた。パラシュートは間に合った。着陸より前に再度爆発が起き、瓦礫が頭に当たり意識を手放してしまった。


 以上が僕がここにいる経緯だ。土中や海からどうやって抜け出したかは推測を立てることすら難しいが。



 医者がノートに書いた内容を読み終えるとちょうど昨夜の彼女が現れた。

医者によると彼女は空から落ちてくる僕をキャッチしたとの事だ。


医者は診察があるとのことで別れ、彼女が施設を案内してくれる事となった。

施設は縦に長い事が何となく分かった。階段が多く、同行したYTにはとても助けられた。


「そうだ、名前を教えていなかったな。俺はヴェナ。病院で働いて長いから、ここのことなら何でも質問してくれ」


 まずはどこに案内してくれるのかを尋ねた。ちょうど鐘が鳴ったのを聞いて彼女は嬉しそうに食堂だと答えた。

初投稿です。ふわふわな内容でやっていきます。

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