9、クラスメイト。俺が探す?
紗弥華が真実を知る前に、ひっそりと、物語はすでに動いていました。ラント視点でのお話になります。
紗弥華が真実を知る半日前。紗弥華のクラスメイトのラントリアは、校舎裏で人知れず、執事のアルード・シードと話していた。
ラントリアは、自分の金髪を変に思われないように、『外国から来た帰国子女』という肩書きで、高校生として過ごしていた。
彼の正体を知るものはこの世界にはいない。
「アステールの姫が戻ってくる?あの『見捨てられた姫』か」
「はい。ですが、その呼び名を口にするのは、国交に関わります。」
「まさか本当の話しだったとはな」
「長年に渡って昔話のように密かに広まった話です。その真実は、わたくしも把握しきれておりません。ですが、戻ってこられるのは事実のようです」
「それで?その『舞い戻りし姫』の話をなぜ俺にする?まさかその姫を嫁にしろとでも言うんじゃないだろうな」
最近、ラントも18歳になり、今まで音沙汰がなかった両親から、事あるごとに、縁談を催促されていてうんざりしていた。
結婚なんて、する気は微塵もないからだ。
うんざり顔のラントとは対照的に、表情を変えず、アルードは淡々と答えた。
「まだそこまでは。ですが、これをお伝えするように仰せつかった方は、両陛下ではありません。」
「父上たちではない?まさか……」
「ヘルシュフォン神官長様です」
その名前を聞いてラントの表情が一気に引き締まった。今まで空半分で聞いていたラントは、真っ直ぐにアルードに視線を向けた。
「……何と言われた」
「『異世界にいる魔宝石のネックレスをした女性を姫の元へ連れていきなさい。』と」
「俺が!?どこにいるかもわからない女を探せと?」
「御意にございます」
「神官長様は俺を探偵やスパイか何かと勘違いしてないか?」
「そうかもしれませんね。ですが神官長様は、当て付けにものを言うお方ではない事を、あなたが一番ご存じのはず」
確かにそうだが、予想外の言葉にラントリアは耳を疑った。この広い地球という世界から、どうやってたった1人の女性を探せばよいのか。全く検討がつかなかった。
「……『舞い戻りし姫』が戻るのはいつだ」
「7日後にございます」
ラントリアは暫く考えた。後1週間で自分は何が出来るだろうか。
しかし、やらなければならない。これにもきっと何か意味があるはずだ。あの時のように……。
「父上に近日中に帰国すると。そしてすぐにアステールへ向かうので出国許可をと伝えてくれ。アルは先に帰って出国準備を頼む。」
「かしこまりました。神官長様にもラント様のご意志と何か助言がないか、今一度伺ってまいります」
「ああ。頼む……」
どこか不安そうなラントリアに、アルードは優しい眼差しでそっと告げた。
「…大丈夫。ラントならきっと見つけられるよ」
「アル……。」
その言葉と表情に、ラントは深く安堵した。小さい頃から誰よりも一緒にいたアル。彼は優秀な執事だが、いつも側でラントを見守って来たの兄のような存在だ。誰よりもラントの事をわかっていて、今のラントには、この言葉を告げるのが最適だと彼にはわかっていた。アルの見つめる眼差しは、まさに、勇気の出ない弟をそっと励ます兄の顔だった。
「では、手筈を整えてまいります。」
ラントの安堵した表情を確認すると、アルは執事のアルード・シードの顔に戻り、深々と一礼をした。
すると、どこからか現れた円形状の光りがアルードの体を包んだかと思うと、ふっとアルードは姿を消した。
アルードが消えた姿を見送り、ラントリアは1人つぶやいた。
「後1週間か……」
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