6、魔力
紗弥華が見えていた煙りのようなものの正体がわかります。
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「お会いできて光栄にございます。神官長のフォレストにございます。以後お見知り置きを」
長い髭を生やした老人は、深々と紗弥華に挨拶をした。昨日祭壇にいたあの老人だ。
ここは王宮内にある神殿。昨日の祭壇と違い、ここは王宮にいる者は誰でも出入りでき、祈りやを捧げたり、婚儀や葬儀が行われる場所だそうだ。
「初めまして。昨日はご挨拶も出来ずに、すみませんでした」
「とんでもございません。ある程度の話は、執事長から伺っております。ご苦労なさいましたでしょう。わたくしもサヤカ様のご意志を尊重してまいる所存です。その証と言っては何ですが、こちらをどうぞお受け取り下さいませ」
フォレストは紗弥華にガラス細工に似たものが付いたネックレスを差し出した。ひし形にカットされたそれは、紗弥華には見覚えがあった。それは、花楓がいつも身に付けているネックレスとそっくりだったのだ。
「これは?」
「魔宝石でございます。あなたをお守りするように願い(魔力)を込めました、必要であれば、願うことで、異世界へと戻れます」
「本当ですか!? 」
その瞬間、紗弥華の手の上の魔宝石が強く光った。
「また出た……」
「サヤカ様どうかなさいましたか?」
「神官長さんの身体から白い湯気のような煙りのようなものが……」
紗弥華の目の前にいるフォレストは白い気体に包まれていた。
「ほう……。サヤカ様にはやはり魔力がおありのようですね」
「私に?まさか。今まで魔力なんか使った事はありません」
「それは、サヤカ様の住んでいた異世界が魔力を使わない世界だったからではないでしょうか。アステールへ来て何か変わった事は起きませんでしたか?」
確かに、自分の住んでいる地球には、魔力は存在しないはず。見たことあるのは、テレビや本の中だけだ。
「時々見えたんです。神官長さんの身体からでているようなものが。人も色も違いましたけど。気のせいかと最初は思っていたんですけど……」
フォレストは意味ありげに頷いた。
「それが魔力です。サヤカ様は人の感情や物の状態などが色の気として見える、『識別』の力がある可能性が高いです」
「識別?」
「はい。私に見えた白の気は、『誠実、純真、物であれば、新鮮、純度』などを、表します。逆に黒は『恨み、妬み、殺気、物は腐食、不純、毒』等を表します」
「えっ……殺気?」
「もしかして、黒色の気が見えたのですか?」
シューウィルが、心配そうに紗弥華に問う。
「朝……侍女のハリスと、国王様に……。ちょうど、近衛兵さんが国王様を迎えに来られた時でした。国王様に赤黒い気と同時に王妃様はグレーがかった青でした」
「赤と言うのは『怒り』を意味する気です。陛下にとって良くない知らせがあったのでしょう。それに、『心配』した王妃様に青の気が、出た。グレーは白と黒の気が混ざりあってできた気です」
(だから、あんなに朝急いでたのか……。それなのに、わざわざ私の顔を見にきたって事?)
「侍女も気になりますな。サヤカ様の魔力はそんなに強くないはずです。それでも黒の気が見えてしまうと言うことは、心配ですな」
「ハリスは先日入った侍女だとメリッサに聞きました。まだ仕事に慣れてないのかもしれません」
朝、少ししか会ってないけど、ハリスはそんな悪い子には見えなかった。サヤカは勘違いであって欲しいと願った。
「そうですか。……サヤカ様。識別の力があると言うことは、『人の心がわかる』のと同じ事。正しい使い道をなさって下さいませ。そして、うまく使わないと、魔力は体力と平行して1度に使える力が限られています。異世界へと戻る際は、魔力を多く使います。どうぞお気をつけ下さいませ」
「ありがとうございます。神官長さん。あの……ちなみに、ピンクと黄色の気はどんな意味が?」
「ピンクは『好意、愛情など』、黄色は『優しいさ、嬉しさなど』です」
それを知って、紗弥華はチラッとシューウィルを見た。
目の合ったシューウィルは何だかわからないと言った表情で紗弥華を見つめ返した。
その様子にフォレストは声を立てて笑った。
「本人は無自覚のようだからの。シューウィル執事長には見えるぐらいが丁度良いかもしれんの」
「何の話なのか全くわかりませんが」
不服そうなシューウィルに、紗弥華も思わず笑ってしまった。
「フォレスト神官長さん。ありがとうございました」
二人は、神殿を後にした。
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