5、2人の仕事
異世界での初めての朝を迎えます
「おはようございます。サヤカ様。お目覚めになられていますか?」
「う~ん……。花楓ちゃんあと5分~……。」
「サヤカ様。私はカエデではなくメリッサです。」
「メリッサ~?……メリッサ……。メリッサ!?」
寝ぼけて布団にうずくまっていた紗弥華は勢い良く飛び起きた。その様子にメリッサはスクスクと笑い、改めて挨拶をした。
「はい。メリッサです。おはようございます。サヤカ様」
「……おはようございます。メリッサさん……。」
寝ぼけていた自分が恥ずかしくなり、紗弥華は顔の半分を布団で隠した。
「お食事をお持ちしました。身体の調子はいかがですか?随分お疲れのようでしたが…」
メリッサは心配そうに沙弥華の様子を伺った。
「はい。もうすっかりいいみたいです。ご心配をおかけしました」
その返事にメリッサは安心して言った。
「それなら良かったですわ。今日は忙しいですよ~。
食べたらお風呂に入って頂いて、ドレスに着替えましょうね♪」
「ドレス!?あの、普通の服はないんですか?」
「普通の服なんてとんでもございません!今日はしっかりお洒落しましょうね♪」
(嫌な予感がする……。ドレスなんて着たことないのになぁ)
そんなことを考えながら、紗弥華がパンをかじっていると、見知らぬ侍女が、トレイを運んできた。
「失礼します。朝食用のスープとお茶を、お持ちしました。温かいうちにどうぞ。」
メリッサが、沙弥華に侍女を紹介した。
「ハリス。ありがとう。あっ、サヤカ様、先日入ったばかりの、ハリスです。人手が足りないときは、ハリスもサヤカ様の身の回りのお世話をしますので、よろしくお願いいたします。」
スープを渡してくれたハリスに沙弥華は挨拶をした。
「ハリスさん、初めまして。よろしくお願いします」
ハリスもお辞儀をして挨拶をした。
「こちらこそ、ご迷惑をおかけしないよう、尽力致します」
黒髪をまとめ少しクールなハリスは、私より少し年下のようだ。
ハリスが、顔を上げると、一瞬、彼女の身体から、黒い湯気のようなものが、見えた。
(何だろう?今の……気のせいかな)
「サヤカ様どうかなさいました?」
メリッサが紗弥華の顔を覗き込んだ。
「あっ、ごめんなさい。スープとお茶いただきますね。」
ハリスは一礼をすると部屋を出た。
それからは大変だった。食事が、終わると、あっという間に裸にされ、湯船に入ると数人がかりで身体を洗われ、マッサージをされた。
「もう……お嫁に行けない~……」
「何を言ってるんですか、次は香油を塗りますよ~♪エステ班の皆さんよろしくお願いしますね~♪メイク班さん明るめの色でお願いします~♪」
栗毛色の髪を振り回しながら、テキパキと指示を出して、楽しそうにドレスを選んでいるメリッサに、もう逆らえないと、紗弥華は渋々観念した。
あれよあれよと色々着せられ、装飾品もあらゆる所に付けられた。メイクもしたら、自分でも驚くほど、見違えた。
本当に自分がお姫様になったのかと勘違いしてしまいそうだ。
髪もロングの髪を緩やかに巻いて、ドレスはできるだけ露出と装飾のない、黄色のドレス。これだけは死守した。
「サヤカ様!本当に美しいですわ!」
メリッサは歓喜の声をあげた。エステ班とメイク班の侍女達も出来栄えに満足そうに頷いた。
「ありがとう。メリッサさん。皆さん。こんな綺麗な格好したの初めてです。」
「礼には及びません。それに私の事はメリッサとお呼び下さい」
「そうですよ。メリッサはあなたと同じ18です。」
照れながら言うメリッサにの声に続いて、馴染みの声がした。
「しゅうさん!」
「おはようございます紗弥華様。体調はいかがですか?」
「この通りピンピンしてます」
「そうですか。安心いたしました」
ほっと肩を撫で下ろすと、シューウィルは紗弥華に近付き、紗弥華の付けているイヤリングに触れた。
「イヤリングを付けているのは初めて見ました。もうすっかり大人の女性ですね。……今日は1段と美しい」
その言葉に周りの侍女達はざわつくが、シューウィルはまるで成人式を迎えた娘を見るような眼差しで紗弥華を見つめた。
その瞬間、シューウィルの身体の周りからピンクと黄色の煙りのようなものがみえた。
(今……しゅうさんの身体が色の付いた煙みたいなものに包まれていたような……)
「えっと……メリッサ達が綺麗にしてくれました。ドレスも初めて着たんですけど……似合ってますか?」
「もちろん。まるでタンポポから生まれた妖精のようだ」
「ふふっ。ありがとうございます」
(シューウィル執事長様が女性に甘い言葉を……!!しかも何あの柔らかいお顔は!!これはサヤカ様を相当溺愛してるわね……)
そこにいる誰もがそう思った。それから王宮には執事長が『舞い戻りし姫』を溺愛している。という噂が駆け巡ったのは言うまでもない。
シューウィルは侍女達の視線を気になどしない様子で話し始めた。
「実は、色々案内したい所も紹介したい者達もおります。今日は少し、慌ただしくなるかもしれませんが、大丈夫でしょうか?」
「はい。大丈夫です。あの……」
「両陛下は公務をされておりますので、今日は私が付き添うように言われました。夕食は歓迎会を開かれるそうなので、ご参加頂ければと思います」
「わかりました」
紗弥華はシューウィルの案内で王宮内にある礼拝堂に向かっていた。
しかし、昨日とは一変し、長い迷路のような通路を侍女や王宮護衛の兵士達が慌ただしく動いている。
「今日は皆さんお忙しいそうですね」
「サヤカ様がお気にするような事ではありません。夜に行われる歓迎会の準備で忙しいのでしょう」
シューウィルは紗弥華を連れてサクサクと足取りを進めた。
そこに前にからアランと美香が現れた。
国王のアランは昨日とあまり変わらない服装だかが、王妃の美香はとてもラフなワンピース姿だ。シューウィルが2人に深く一礼するのに吊られ、紗弥華もお辞儀をした。
「見違えたな。美香の若い頃を思い出す」
「おはよう。紗弥華。とってもよく似合ってるわ。昨日はよく眠れた?」
「はい。よく眠れました。素敵なお部屋を用意していただきありがとうございます。ドレスやメイクは侍女の方々のおかげです」
紗弥華は、早くこの2人から離れたくて当たり障りのない言葉を選んで返した。
「ちょうど顔を見に行こうと思っていたんだ。今日は急用で夕方まで、時間が空きそうにないんだ」
「私も急患が出て、今から様子を見に行くの。一緒にいられなくてごめんなさい」
美香が申し訳なさそうに話していると、アランと美香の所へ近衛兵がやってきて、耳打ちした。
その時、アランの体から、赤黒い煙のようなものがブワッと勢い良く現れた。そして王妃の体からはグレーがかった青の煙が。
(!?……まただ……これは見間違えじゃない)
「すまない。もう行かなければ、歓迎会までには必ず戻る。シューウィル、紗弥華を頼むぞ」
「かしこまりました。」
「また後でね。紗弥華。」
「はい」
二人は慌ただしく、去っていった。
「しゅうさん、両陛下どんな仕事をしてるのですか?」
「国王陛下は国内外の貿易や国交に関するもの、王国の要所や、王宮の人事や政など、多岐に渡ります。王妃様は、日本で医療の仕事に携わっていた経緯から、医師塔で、医療従事者に医療の知識や、技術などを、教えております。アステールの医学は日本よりもだいぶ遅れておりますので。時折、王妃自らも治療に携わる事もあるそうです。」
「そうなんだ……」
(ただイスに座ってふんぞり返ってるだけじゃないのね……)
アランと美香への印象が少し変わった瞬間だった。
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次回色々起きます。