3、異世界へ
紗弥華がいよいよ異世界へ行きます。
そして1週間はあっという間に過ぎていった。
花楓はなるべく紗弥華との時間を増やすために仕事を切り上げ帰って来てくれた。
紗弥華も花楓に、この1週間で考えていた事を伝えた。
まだ両親が生きてる事も異世界の存在も実感がない事。
今回は顔合わせだけにして、日曜日の夕方には帰って来ること。
もう1つは、自分はやっぱり、進学がしたいということ。
花楓は何一つ否定もせず、紗弥華の考えを受け入れてくた。
「ただいま~」
紗弥華が学校から帰って来ると、リビングには花楓と、見覚えのある男性の後ろ姿があった。
「あれ?しゅうさん来てたの?」
「はい。お久しぶりで御座います。紗弥華様」
しゅうは、花楓の働く会社の社長秘書。社長から預かった大事な書類などを時々家に届けてくれる、顔の知れた男性だ。
「お帰り。紗弥華」
「ただいま。花楓ちゃん。しゅうさん待ってね。今お茶入れますから」
紗弥華はカバンをダイニングテーブルに置くと、足早にキッチンへ向かった。
「いえ、お茶はぜひ国へ帰ってからご一緒しましょう。本日は、本職の執事として、紗弥華様をお迎えに上がりました」
「えっ?」
茶葉の入った缶を開けようとした紗弥華の手がピタリと止まった。
「お迎え?しゅうさんは執事じゃなくて社長秘書でしょ?」
「こちらの世界で不具合が起きないように、社長秘書という肩書きをお借りしておりました。本職はアステール国王直属執事。兼アステール国執事長。名をシューウィル・イイビットと申します」
「アステール国……執事長?しゅうさんも異世界……人?」
「左様で御座います」
そこに花楓がこう付け加えた。
「しゅうは、あなたの様子をお姉ちゃんやアランに教えるための伝達役をしてくれていたの」
やっと変に納得した。しゅう……いや、シューウィルは、2、3ヶ月に1回しか会わないし、紗弥華が学校から帰ってくる夕方にいつも現れた。そして親子同然の歳の差の紗弥華に、小さい頃から一貫して様呼びと敬語を貫き通していたのだ。
シューウィルが紗弥華に対して敬語なのは、社長秘書の職業病のようなものかなと思っていた。しかし違うと今わかった。
職業病などではなく、紗弥華が自分の主の娘であり、国王の娘だからだ。
「じゃあ私はもう行かなくてはならないのですね」
「お父様もお母様も王宮にてお待ちで御座います」
紗弥華は花楓に視線を送った。
花楓は沢山の涙を目に貯めていた。紗弥華は急に胸が締め付けられ、花楓をぎゅっと抱き締めた。
「日曜日。必ず帰ってくるね。飲み過ぎちゃダメよ?」
「わかってるわよ。飲み過ぎない。……必ず帰って来てね……」
「うん……」
紗弥華はそっと花楓から離れた。
「アステール国へ行きます」
紗弥華はシューウィルに決意を述べた。
「かしこまりました。では参ります。恐れ入りますが、紗弥華様、私の手のひらに手を重ねて頂けますか?」
「こう?」
紗弥華は、シューウィルの掌に自分の手をそっと乗せた。
すると、足元が光り初め、キラキラとした光りに包まれた。辺りは光りに包まれて真っ白になり、何も見えなくなった。あまりの眩しさにしばらく目を閉じていると、隣りでシューウィルがそっと声をかけた。
「紗弥華様。大丈夫ですか?到着いたしました。どうぞお目をお開け下さいませ」
(え?もう着いた?たった数十秒しか経ってないのに?)
紗弥華が恐る恐る瞼を上げると、祭壇の高台のような場所にシューウィルと2人で立っていた。ザワザワとした10人も満たない人数の中に、明らかにオーラが違うきらびやかな男女が、こちらを瞳を潤わせながら見つめている。
「しゅうさん……」
「はい。あのお二人が、あなた様のお父様『アラン・ライムス国王陛下』とお母様の『ミカ・ライムス王妃陛下』でございます。」
こうして、私は初めてアステール国へ来た。そして両親と再開したのだった。
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