2、真実。どうして私はここに?
第2話です。紗弥華の生い立ち、両親について明かされます。
読んでいただけると嬉しいです。
何があろうとも、朝日は変わらず昇ってくる。
紗弥華は結局一睡も出来ないまま朝を迎えていた。
死んだはずの両親が生きてる?しかも異世界で?
異世界って何?
1週間後に迎えに来るって……。
何回考えても頭の中には何も整理できなかった。
整理できるどころかぐちゃぐちゃだ。
何が本当で何が嘘なの?
花楓ちゃんが本当に酔っ払ってただけ?
今日が土曜日で本当に良かった。こんなんじゃあ学校になんか行けやしない。
紗弥華はベッドからゆっくり起き上がると気だるい体をリビングに運んだ。
リビングには花楓がもう起きていていた。
「おはよう……」
「……おはよう……」
こんな気まづい空気は、小学校の時、紗弥華がずっと行きたかった遊園地の約束を花楓が二日酔いでキャンセルした以来だ。
「今日仕事は?」
「急遽有給取った」
「そうなんだ……」
弾まない会話を終わらせると、紗弥華は静かにイスに座った。
そこに花楓がそっとティーカップを差し出した。
「ハーブティー。少しは落ち着くはずよ」
「ありがとう」
辺りはカモミールの香りに包まれた。
一口飲むと温かさが全身を駆けめぐりほっとした。
花楓はダイニングテーブルに置かれた自分のティーカップにもハーブティーを入れると、ゆっくりとイスに座り、目の前にいる紗弥華を見つめ、意を決したように話し始めた。
「昨日はごめんなさい。酔っ払って帰った上に大事な話をちゃんとしないで……」
謝る花楓の表情はいつもの元気はなく、目下は黒かった。花楓もまた紗弥華と同じように眠れていない事が容易にわかった。
「本当の事なの?お父さんとお母さんが生きてるって。」
「ええ……本当よ」
「どうして隠してたの?」
隠していた……。その言葉に花楓は言葉を詰まらせる。
「お姉ちゃんの結婚には反対する人が多かった。誰もが反対する、決して許されない相手だったの」
「許されない相手?お父さんは犯罪でも犯したの?」
「違うの。アランは王子で、後に王の座に就く後継者だったの」
「王子!?じゃあ、私のお父さんは外国人!?2人とも外国にいるって事!?」
花楓は一瞬躊躇ったが、強い眼差しで紗弥華に告げた。
「……外国と言えば外国だけど……。その国の名はアステール。でもこの地球上にはその国は存在しないの」
「まさかそれが……」
「そう。異世界。アランは異世界から来た迷い人だったの」
花楓の話はこう続いた。
何かの手違いでこちらの世界に来てしまった父アランは、道端で気を失っているのを、看護師だった母に助けられ、自分の働く病院で世話を始めた。全く話が噛み合わず、トイレの行き方もわからなかった父を見て、誰もが最初は記憶の混乱か記憶喪失だと思っていた。ただ母だけが彼の話を熱心に聞き、世話をしたのだという。住む場所がない彼を母は、以前は花楓と母とで住んでいたこのマンションに連れてきたそうだ。
連れて帰ってきた時には、2人は、もう恋に落ちていた。
まさか異世界人だと知らない花楓も、居心地の悪さからしばらくは友達の家を点々としたそう。
「そしてある日、電話がかかってきたの。アランと結婚するって。その時初めてアランが異世界人だと知らされた。最初は二人が何を言っているかさっぱりわからなかったわ。」
それはそうだと紗弥華は思った。今聞かされてる自分だって、花楓が言っている事がさっぱりわからないのだ。
「何度も止めたわ……。でも、2人の意思は固かった。お姉ちゃんはアランと一緒に異世界へ行ってしまった……」
「ちょっと待って……じゃあ私が産まれたのは?」
「あなたはアステールで産まれたの」
「そんな!でも、私はずっとここに住んでるわ!」
矢継ぎ早に紗弥華が声を荒げると、花楓は目線をゆっくり下に下ろした。
「お姉ちゃんが帰ってきたのはその1年後だった」
「えっ?」
「泣きながら……まだ3ヶ月しかたたないあなたを抱いて」
「3ヶ月……」
花楓は続けて教えてくれた。
異世界の国では、王子が帰って来たことに大変喜んだのだが、母を連れてきたことは多くの人が戸惑った。特に自分の娘をアランの妻に、つまり後の王姫にさせようとしていた者達や本人から。
ケガをさせようとしたり、食事に毒や薬を盛る輩まで出始めた。
無事に出産は出来たものの、自分と子供の身の危険を感じた母は日本へ逃げてきたそうだ。
「でも、アランの事が心配だったようね。1週間もしないうちに姉は再びアステールへ戻ったの。
『必ずこの子が安心して暮らせる王宮に。国にするから、この子が18になったら、必ずアランと迎えにくるから』って……」
今まで母親のように慕ってきた花楓の話が、最初は何もかも理解できなかった。本当に酔っぱらって作り話をしているのかとさえ思った。でも、紗弥華は胸が締め付けられていた。自分の生い立ちを知ったからだけではなく、花楓の表情が、明らかに辛い思い出を呼び覚ませているのは確かだったからだ。強張った顔が何よりの真実を語っていた。これは本当。酔っ払いの作り話ではない。
両親は生きている。アステールという異世界で。
そしてもうすぐ私に会いに来る。
読んでいただいてありがとうございました。
まだこれから構成を練っていくので、頑張りたいと思います。
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よろしくお願いいたします。
次回。いよいよ、異世界へ突入。