14、恋人?
久しぶりに日本に戻ってきた。紗弥華と花楓のお話です。
「心配したんだから!!」
紗弥華の中学時代からの友人の麻里は、一緒に登校する紗弥華とラントを見つけると、一目散に駆け寄ってきた。
「心配して家訪ねても誰もいないし、外国行くんだったら、そう言ってよね!」
そう。ラントのおかげで、紗弥華のいなかった数日間は、夏休み中に行く、短期留学の下見ということになっていた。
「ごめん。急に行く事になって。日曜日には帰るはずだったんだけど、体調崩しちゃって。滞在が伸びちゃったの。」
そういう紗弥華を見つめ、麻里は少し寂しそうに呟いた。
「……ごめん。本当は色々悩んでる紗弥華に気付いてあげれなかった自分に怒ってるの。ラントに聞かされるまで、進路の事も、恋愛の事も相談にのってあげれなかったから……」
「それは私が言わなかったんだからしょうがないよ。……ん?恋愛?」
「応援はするけど、今度からは私にもちゃんと相談してよね!じゃあ朝練あるから先にいくね!」
「えっ?ちょっと麻里!」
麻里は手を振りながら、校門をくぐり抜けていった。
(麻里は何の事を言ってるんだろう……。何か勘違いしてる?)
「あっ、言い忘れていたが、こっちの世界で1つ問題が発生した」
「問題?」
「それは……」
ラントがばつが悪そうに、言うのを躊躇っていると、にやにやしながらクラスメイトの男子が近付いてきた。
「おっ。早速2人で登校か?教室でイチャつくなよラント~。」
ラントにそう言うと、2人を追い越し行ってしまった。
「今の何?」
「いや、だから……」
「ちょっと紗弥華いつから付き合ってたの!?」
またもやクラスメイトの女子が紗弥華を見つけるなり駆け寄ってきた。
「えっ?付き合てた?誰と誰が?」
「何言ってんの!紗弥華とラントだよ!後でじっくり話聞くからね~。また教室でね!」
そう言うと足早に校舎へ向かって行った。
「今の何!?」
「俺が先生や生徒に話している間に、いつの間にか俺と湯沢が付き合ってる事になってた」
「え~~~!?」
予想外な事は、日本でも起こっている事に、紗弥華は今気付いたのだった。
紗弥華が弁解に1日を費やしている頃、仕事を早目に、切り上げた 花楓はキッチンでお湯を沸かしていた。
そこに、静かにシューウィルが現れた。
「そろそろ来る頃だと思ってた。お茶の用意が出来てるわ。座って」
花楓は動じず、いれたての2人分のティーカップをトレイに乗せ運んだ。
「紗弥華の様子は?」
「身体は問題ないみたい。元気に学校に行ったわ」
お茶をシューウィルに差し出しながら、花楓は会話を続けた。
シューウィルもイスに座り、花楓の入れてくれたお茶を飲み始めた。
「そうか……。私がいるのに、紗弥華を危険な目に合わせて悪かった。」
「あなたにでも、回避できない事はあるのね」
「私は魔力が使えるわけではない。ただの執筆に過ぎない。自分の不甲斐なさに呆れるほどだ。やはりアステールへ行かせるのは酷だったのだろうか……。」
シューウィルは葛藤を滲ませ、目を伏せた。
「確かに。日本には魔力を使って、命を狙われる事はない。でも、私たちはあの子に話していない事も、会わせなければいけない人物もまだまだ多いわ。……ノエルにもまだ会わせていないんでしょ?」
「ああ……。会わせる予定だったが、あんなことがあったからな。」
「私は紗弥華が傷付く事を望んでない。」
「わかっている。だが、いずれ紗弥華は全てを知らなければならない。知った上で、『これから』を決めなければならない。」
「『見捨てられた姫』なんて。ただの呪われた名だわ。紗弥華にそんな名前は似合わない。今度こそ私たちがしっかり守るわよ。」
「ああ。もちろんだ。この命にかえても、守ってみせる。」
2人はしばらく見つめ合い、固い意思を瞳を通じて確かめ合った。
シューウィルは最後の1口を飲み干すと、席を立った。
「そろそろ戻る」
「今日は随分急ぐのね。紗弥華の顔を見ていかないの?」
「そうしたいが、紗弥華が残していった侍女の件で色々揉めててね。」
「あの、操られていた子の事ね。相変わらず、あなたは尻拭いばかりね」
「それが私の仕事だ。それに……紗弥華が言ってくれたんだ。本当の父親のように信頼していると。その言葉があれば何だって頑張れる」
「あなたもすっかり親バカね」
花楓は嬉しそうに笑いながら、シューウィルの首元の襟を整えた。
シューウィルは首元にある花楓の手を捕まえて、片方の手の甲に自分の唇をそっと口付けた。
「また来る。紗弥華をよろしく頼む。」
「ええ……。」
シューウィルはそっと花楓の手を離すと、アステールへと帰っていった。
「相変わらず、口にはキスしないのね……。バカ……。」
そう呟くと花楓は、しゅうが口付けした手の甲に自分の唇をそっと重ねた。
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