13、辞令
体調が回復してきた紗弥華の元へ、アランが連れてきた人物は?
読んでいただけると嬉しいです。
ラントたちが日本へ帰ったその後、3日間は驚くほど穏やかな時間が流れた。
2日間も眠ると言うのは予想以上に筋肉や体力が落ちるのか、回復魔法が使える医術士センリルが紗弥華の治療に当たった。美香とメリッサも付きっきりで看てくれた。
センリルは女医で、回復魔法を使い、体力や筋力を回復させてくれた。
治療法は身体に手を触れるだけ。触れるだけで悪い箇所がわかるらしく、触れた手からは、暖かいストーブに手をあてたような、体温より少し高い熱を感じた。ものの数分で治療は終わり。それを薬を飲むように朝晩行った。医学の知識や技術が日本より遅れているのが良くわかった。
点滴や注射をしなくても元気になるなんて、まさにファンタジーやゲームの世界のようだ。
花楓も異世界の風習には戸惑っていたが、私が部屋で休んでいる時は、美香と話をしたり、食事をしたり、久しぶりに姉妹水入らずで過ごしていたようだ。
そして私が歩けるようになった頃、部屋を訪ねる者がやってきた。
「体調はどうだ紗弥華。」
「陛下、はい。もうすっかり元気です」
入って来たのは、アランとシューウィルだった。
「それは良かった。この者の処分が決まったので紗弥華にも報告にきた。入れ。」
その声に促され、ハリスと近衛隊長ベルガンが部屋に入ってきた。
ハリスは以前と比べ物にならないほど、痩せ細っていた。取り押さえる際に暴れたのだろうか。身体も擦り傷や切り傷が見えた。
ハリスは傷だらけの両膝を床に付け、頭を下げた。
「ハリス!」
紗弥華は痛々しいハリスの姿に一目散にハリスへ駆け寄った。
触れたハリスの身体は、痩せ細った骨格と生々しい傷の存在を紗弥華にしらしめた。そして紗弥華は、ハリスの横に置いてある大きな鞄が目に入った。
「こんなに痩せて……。その荷物は?」
「謝罪とお別れを伝えに参りました。サヤカ様。」
「謝罪とお別れ?」
「ハリスは国外追放となった。」
アランがピシャリと、言い放った。
「国外追放!?どうして!?」
「王族を殺そうとする事は死刑に値する」
「死刑!?私は王族ではありません!ただの女子高生です!」
自分を庇おうとする沙弥華にハリスは言った。
「サヤカ様、私は両陛下の御慈悲で死刑を免れました。これは当然の事なのです。」
「私はそんなものは求めてないわ!!ハリスは何も悪くない!!国外追放なんて!」
見兼ねたシューウィルが紗弥華をなだめる。
「サヤカ様、お気持ちはわかりますが、両陛下も考えた末の決断なのです。」
「でも!処罰がどうしても必要なら、別の処罰を!陛下!」
「……良いだろう。お前がそこまで言うなら」
「陛下!」
その言葉に驚き、ベルガン近衛隊長が、声を上げた。
アランは構わず、紗弥華に問いかけた。
「サヤカ。お前なら、どんな処罰が妥当だと思う」
そう聞かれた紗弥華はしばらくハリスを見つめ、ゆっくりと答えた。
「私がハリスに、言い渡す処罰は……。あなたは今後、私の専属侍女兼護衛をしてもらいます。」
「サヤカ様……?」
紗弥華の言葉に、一同は驚き、言葉を失ったが、我慢ならないと言わんばかりにベルガンが声を荒げた。
「何を!王宮の専属侍女は王宮侍女の中でも選ばれた優秀な者しかなれません!しかもたった数日前に王宮に入ったばかりの娘に護衛など!!」
今度は紗弥華が、冷静にハリスに問いかけた。
「ハリス?あなたははもしかして剣術が使えるんじゃないの?」
「えっ?……どうしてそれを……。」
「私の友人にも同じ剣道という武術を習っている女の子がいるの。あなたの手の平はその子と良く似てるの。あなたの手の平のまめは剣術をやっていた証ではないの?」
それを聞かれたハリスは、堪えていた涙をこぼし、話し始めた。
「もっ、申し訳ございません!私は…本当は侍女ではなく近衛兵になりたかったのです!しかしながら、前例がないと両親にも反対されて、せめて近くで近衛兵の仕事や訓練を見るため王宮侍女になりました」
震えながら絶え間なく涙をこぼすハリスの背中をさすりながら、紗弥華は優しく告げた。
「じゃああなたが前例になればいいじゃない。私の住んでた世界はでは、街を守る警察官に女性も多くいるわ。男性と変わらず働いて、犯罪を取り締まっている。女性だからといって、あなたがなりたいものになれないのはおかしいわ」
「サヤカ様……」
そして沙弥華は強い眼差しをベルガンに向けた。
「もちろん、腕はあなたが確認して頂いて構いません。ベルガン近衛隊長。訓練が必要なら、私の名を使えるなら使って訓練してください。」
(たった数日。しかも専属ではない侍女の手の平を見ただけで、それがわかったというのか?バカな。たかが18歳になったばかりの小娘に)
戸惑うベルガンにアランが呼び掛けた。
「ベルガン」
「はっ。陛下」
黙って見守っていたアランが辞令を出す。
「前例のない話だ。お前には迷惑をかけるが、諸々頼む。これは、サヤカ、並びに私からの辞令とする。」
「陛下!」
何かを言おうとしたベルガンをアランは目で制した。ベルガンは苦虫を噛んだような顔で頭を下げた。
「……御意にございます」
「陛下……。ありがとうございます!」
喜んで礼を言う紗弥華にアランは少し口角を上げた。
「メリッサ、ハリスを医療棟へ。だいぶ痩せているし、傷も多いようだ。必要な処置をと伝えよ。」
「かしこまりました!」
メリッサはハリスの鞄を持ち。身体を支えた。
立ち上がったハリスをアランが呼び止めた。
「ハリス」
「はっはい!」
ハリスは上擦った声で返事をし、怯えた様子で頭を下げた。
「我が娘だ。心して勤めよ」
「!!……御意にございます。このご恩は一生忘れません!」
アランは静かに頷いた。
「神官や家臣が色々文句を言うだろうが、私が何とかしよう。シューイル、ベルガン行くぞ」
「かしこまりました」
そして、嵐のようにアランは2人を連れて去っていった。
「良かったね。ハリス」
紗弥華はハリスに微笑んだ。
「サヤカ様……。本当に……本当にありがとうございます……!」
再び涙をこぼし出すハリスにサヤカは告げた。
「ハリス。私は正式なアステールの姫でもないし、またすぐ異世界に戻るの。あなたに異世界に来てもらうこともあるかもしれない。たくさん迷惑をかけると思うけど……私を側にいてくれる?」
「もったいなきお言葉……サヤカ様のおおせのままに……」
読んでいただいてありがとうございました!
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次回からは日本に戻ってきた話から始まる予定です。