そいつは必ず手を離す
ある日、目を覚ますとそいつはいた。
ぎりぎり手の届かないくらいの距離を保ちながら
じっとこっちを見ていた。
そいつは古びた弓をゆっくりと構え、
番えた矢の先端をゆっくりとこちらに向けてきた。
逃れようと動き回っても
闘おうと追いかけ回しても
そいつとの距離は一向に変わることはなかった。
どこへ行ってもついてくるそいつに
いらつき、脅え、怒りもしたが
長く、とても長く、時間を経るにつれ
そいつの存在はやがて、さして意味のない
特別注意を払うべきものではないもののように、思えてきていた。
そんな日々が続いたある日
ある日、胸に矢が突き刺さった男を見つけた。
男は死んでいた。
そして思った。
そいつは決して矢を外さない。
そして思い出した。
そいつは必ず手を離す。