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「まぁっ、それではお屋敷に研究室があるんですか?」
「はい。よくそこで実験をしています」
「すごいわ・・・とても賢い方なんですね・・・・」
「いえ、ただ文献に書いてある魔術を試すだけですので」
「それでも文献に書いてある解説を理解するだけでも大変かと思います。ジェニファー様はすごい方ですわ」
「(なんか照れるな・・・・)」
先ほど談話室でも執事や使用人と話したジェニファーだったが、そこでも同じように褒められた。決してジェニファーの魔術好きについて嫌な顔をしたり、『お嬢様なのに』と言うことはない姿に、ウィリアムだけでなくコールマン家の皆はとても寛大な心を持っているのだとジェニファーは少しだけ顔を綻ばせる。
今は別の部屋、というか調理室の横にあるスペースでシェフも交えて会話をしている。あまり大勢いるとかしこまってしまうが、先ほどの部屋も、このスペースも数名しかいないのでとても安心できる。
それが執事や使用人の計らいで、わざとそうしてくれているということに気づかないジェニファーはただただ褒められてにやけるということを繰り返していた。
そのジェニファーの表情に執事や使用人、そしてシェフが顔を綻ばせる。ウィリアムが好きになるのも分かる、と皆そう思っていた。
使用人と執事が顔を見合わせる。そしてにこり、と笑うとジェニファーに視線を向けた。
「ジェニファー様にお会いになる前のウィリアム様はそれはそれは可愛らしい男の子ですよ」
「え・・・・・」
「それはもう、待ちきれないというように顔を綻ばせていらっしゃるんです」
「・・・・そ、そうですか」
「外出から戻ってらっしゃるともっと嬉しそうにしています。口元に手を置いて目を細めるんですよ、それはもう美しいお顔で」
「・・・・・・」
「よっぽどお嬢様のことを愛していらっしゃるんですね」
「そ、そんな・・・・!」
恥ずかしそうに俯くジェニファーに使用人がぐっと拳を握る。ウィリアムとジェニファーの婚約、そして結婚を望んでいる使用人たちは、ぜひともその愛の巣で働きたいと思っている。そして二人の幸せそうな姿を顔を蕩けさせながら暮らしたいとも思っている。
そのためならいくらでも協力する。『ウィリアムを応援し隊』の結束は固い。そしてウィリアムもその隊に協力的である。今回も眼鏡の執事がジェニファーに手紙を書きたいと言っても、それを止めず『早く会いたい』と加筆するほどだ。
照れているジェニファーに追い討ちをかけようと使用人が口を開く。しかしそれよりも前に慌ただしくドアが開かれたかと思えば、顔を真っ赤にした使用人が肩で息をしながら駆け寄ってくる。
「ウィ、ウィリアム様がアメリー様とアニエス様を連れてこちらに参ります!」
「な、なんだって!?まだ仕事をしている時間だろう!」
「アメリー様がおやつを食べたいと言われたんです!」
「まずい・・・・!ジェニファー様、移動しましょう!」
「は、はい・・・・」
この格好で会うのはまずい。ジェニファーも素早く立ち上がると執事やシェフに挨拶をして使用人と共に調理室を出る。その先にウィリアムの姿がないのを確認すると、足早に廊下を進んで行く。
「お兄様、アメリーはプリンがたべたいわ」
「プリンか、あったかな」
「プリンじゃなきゃだめよっ」
「ふふ・・・はいはいお姫様」
「アニエスもプリン食べたい!」
「うん、ちゃんと二人分用意するよ」
後ろから聞いているだけで耳が幸せになる声が聞こえる。大天使と天使が確実に後ろを歩いている。ぜひともアメリーとアニエスを見たいジェニファーがちら、と振り返ろうとする。それを前を歩く使用人が必死に止めようと腕を伸ばした。
「ジェニファー様っ、どうぞそのままお歩きを・・・・!」
「は、はい」
「可愛らしい光景ですが・・・が、我慢です・・・・!」
使用人たちもアメリーやアニエスをあやしているウィリアムを見たいが必死に我慢しているらしい。角を曲がり、別の部屋に入ったところで使用人が胸を押さえてげっそりとする。ジェニファーも同じように胸に手を当てると、いつもより速い鼓動を掌で感じた。
「あ、危なかったわ・・・・・」
「お姫様たちのおやつを運ばなかったのは誰よ・・・・・」
「お、お嬢様、どうぞこちらにおかけください」
「ありがとうございます・・・・」
だだっ広い部屋に置かれた小さな椅子に座らせてもらう。ジェニファーは落ち着いてきたので部屋を見回してみる。右の壁だけ一面鏡が取り付けられていて、その向かいの壁にはいくつか絵画が並んでいる。その他には何もない部屋だった。
何に使うのだろうか、と考えているとその視線に気づいた使用人がにこりと微笑む。
「ここはアメリー様とアニエス様のバレエレッスン室です」
「(すごいな・・・あんな小さいのにバレエ習ってるんだ・・・・)」
一応、ジェニファーも幼い頃母の勧めでバレエをかじったことがある。だけど生産性のない行動をすることに何の意味があるのか分からなかったので、すぐに飽きてしまった。レッスンをしている時間があるのなら魔術を学びたいと思っていたからだ。
その頃から普通のお嬢様ではなかったな、と遠い目を浮かべているとその部屋に執事や使用人がわらわらと入ってくる。誰かがジェニファーの居場所を伝えたらしく、話をする部屋を変更したようだ。
そのまま先ほどのように挨拶から始まり、仕事内容やウィリアム様について使用人たちが話をしていく。
「(ん・・・・・?)」
話の中に、じっとこちらを眺めている使用人を見つける。その使用人のシャツには金の刺繍が少し入っている。もしかしたら使用人の中でも位の高い女性なのだろうか。
その女性と目が合う。にこりと微笑まれたので私も愛想笑いを浮かべる。するとその使用人がこちらへと歩み寄る。そして椅子を引くと隣に座った。すでに他の使用人や執事はウィリアムの話をするのに夢中になっていてこちらに気づいていない。
使用人が膝の上で手を重ね、一度会釈をしてくれる。そして少しだけ皺の入った目尻を下げると嬉しそうにジェニファーに話しかけた。
「ジェニファー様、初めてお話しますね」
「はい。今日はお招きいただきありがとうございます」
「みんなジェニファー様とこうやってお話をするのを心待ちにしておりました」
「・・・・それはとても嬉しいです」
「・・・・・・・」
「・・・・・何か?」
ジェニファーの表情をじっと見つめる使用人に首を傾げる。その間使用人は「これは確かにウィリアム様のタイプど真ん中だわ」と思っていた。
こほん、と咳払いをして使用人が話を続ける。
「ジェニファー様は、ウィリアム様の晩餐会にも参加したと聞いております」
「ああ・・・・はい」
「その時、手品を披露なさったと聞いているのですが」
「あ、は、はい」
オルトゥーの依頼を解決するために手品を確かにしたジェニファーは口籠る。まさか人様の前で手品をするとは思ってもみなかったが、そのおかげもあって依頼を解決できたと思う。
その時のことを思い出してジェニファーが小さく笑う。その様子に使用人も目尻を下げると一度視線を落とし、重ねた手をじっと見つめた。
「私は、ジェニファー様に感謝しております」
「え・・・・・?」
「私はウィリアム様が生まれたばかりの頃、この屋敷に参りました。我が子のようにウィリアム様を思っています」
「・・・・・・」
「幼いウィリアム様は快活な子で、よく木登りや川遊びをお兄様となさっていましたよ」
「わんぱくですね」
「はい、私もよく手を焼いておりました」
「ふふ・・・今のウィリアム様とは違いますね」
「そうなんです、どのようにしたらあのような色っぽい方に成長するのか・・・・」
「(やっぱり使用人の人たちも色っぽいって思ってるんだ・・・)」
「起きかけの時なんてもう特に寝ぼけていらっしゃるから色気がすごくて・・・・」
「はは・・・・・」
「何人の使用人が襲いかかりそうになったか分かりません」
「(もう言葉になりません・・・)」
「・・・・でも、こうやってウィリアム様について語り合うのも久しくなかったように思います」
急に雰囲気を変えて使用人が呟く。どこか遠くを眺めながら何かを思い出しているように使用人が眉を顰める。その様子に、色っぽすぎる天使を笑うしかなかったジェニファーも顔色を変える。
使用人が再び重ねた手へと視線を落とす。そして眉を顰めながら呟く。
「ある日を境にウィリアム様が笑わなくなりました」
「・・・・・」
「屋敷の人間も、どうにかしてウィリアム様を笑顔にさせようとしたのですが、なかなか難しく・・・いつしかウィリアム様の話をしないようになりました。話をすると、昔の可愛らしいウィリアム様を思い出して苦しくなるから・・・・・」
「・・・・・・」
使用人が苦しいと胸に手を当てる。その様子を見ているとジェニファーも辛くなってくる。細かい情報はないものの、時折見せるウィリアムの寂しそうな表情を知っているので余計にそう感じる。
ジェニファーが使用人の手に自分の手を重ねる。すると使用人が顔を上げ、眉を下げたまま優しく微笑んだ。
「ジェニファー様がウィリアム様を救ってくださっているんですよ」
「・・・・・・・・」
「そのことを、私たちはとても幸せに思います。またあの頃のように表情をころころと変えて幸せそうに外出から帰宅なさるウィリアム様を見ていると、涙が出るほどに嬉しいのです。その全てがジェニファー様のおかげだと私は思っています」
「い、いえ・・・・私は何も・・・・」
「ええ、何もしていないかもしれません。でもジェニファー様は確かにウィリアム様の傍にいらっしゃる。ただお傍にいてくださるだけで、ウィリアム様も私たちも幸せなんです」
「・・・・・・」
「ですから・・・・・」
「・・・・・・」
「ですから早くウィリアム様と婚約してくださいっ・・・うぅ・・・!」
「(なんでそうなる・・・・)」
うっうっと泣きながら婚約してくれと言う使用人に、今までの雰囲気がぶち壊しだとジェニファーはがっくり肩を落とす。なんだかケイトを目の前にしている気がした。
使用人の言葉にジェニファーはため息をつきながらも、それでも憎めない人だと優しい目でジェニファーは使用人を眺める。ジェニファーは幼い頃のウィリアムを知らない。だけど、今日だけでウィリアムの過去を知ることができた。小さい頃はわんぱくで、最近は朝が弱いらしいウィリアム。なんだかその成長記録を見せてもらったような気がする。
来てよかったな。
使用人服なんて着させられたから困惑していたけれど、それだけの価値があったとジェニファーは思う。
「うっ・・・早く奥様と呼ばせてください・・・・!」
「(まだ言うか・・・・・)」
ぼろぼろ泣いている使用人に持ってきていたハンカチを手渡す。それを受け取って使用人は余計に涙を流した。一度泣き出したら止まらない人なのだろう。その肩に手をおいてジェニファーはただ泣き止むのを待つしかなかった。
そして、いつの間にかウィリアムの話をしていた執事や使用人たちも、ジェニファーと使用人を優しい目で見守っていた。
しかし、そこに小悪魔なのか小さい天使なのか分からない声が響く。
「みんな何やっているの?」
「アニエス、待ってよぉ」
執事と使用人、そしてジェニファーが目を見開く。なぜかプリンを食べているはずのアニエスとアメリーが部屋に入ってきたのだ。皆一様に立ち上がり、アニエスとアメリーへと歩み寄る。どうやら話し声が聞こえたので気になって部屋を訪ねに来たらしい。
まだ顔を引きつらせている執事が屈み込んでアニエスへと声をかけようと口を開く。
「アニエス様、どうしてこちらへ?おやつの時間ではないのですか?」
「食べおわっちゃった!」
「そうなのですね。おかわりされますか?」
「ううん、お兄様が一つにしないとむしばができるよって言うの。だから食べないわ」
「そうですか・・・・ウィリアム様は今どちらに?」
「おしごとにもどるって言ってたよ」
「そ、そうですか・・・・」
皆がホッと胸を撫で下ろす。アニエスは皆の表情に首を傾げていたが、ウィリアム同様とても可愛らしい顔をしているので皆胸の前で手を合わせて「可愛すぎる」と内心呟いた。
そこに遅れてやってきたアメリーが使用人へと駆け寄る。だけど足がもつれたのか、その場で転んでしまった。そこはちょうどジェニファーの前で、ジェニファーは慌ててアメリーの脇の下に手を入れると立たせる。膝を少し擦りむいたようだが、血は出ていなかった。
だけど痛かったのか、アメリーが今にも泣きそうになっている。ジェニファーはぎょっとしてアメリーの膝に手を翳す。あまり得意ではないが、軽い傷なら治癒魔術で治すことができる。
温かい光が膝を包む。そうしているとアメリーがきょとんとしながらジェニファーの頭巾を被った頭を眺めた。
赤みが消えた膝を見てジェニファーが顔を上げる。可愛らしい天使が少しだけ涙を溢しながらこちらをじっと見つめる。ああ、泣いてしまったのか。とジェニファーは天使に微笑みかけながら人差し指の腹で目尻を拭う。そしてぽんぽんと頭を撫でた。
「もう痛くありませんか?」
「うん・・・・・」
「よく泣かなかったですね、偉いです」
「・・・・・・・」
「(・・・な、なんだろう、すごく見られている気がする・・・)」
一応丸眼鏡をかけているが、元はジェニファーのままだ。じっくり見られたらばれてしまうかもしれない。慌ててジェニファーは立ち上がると、使用人の近くまで下がる。だけどどうしてもアメリーはジェニファーをじっと見つめた。
そして、ジェニファーを小さな手で指差し、アニエスへと顔を向ける。
「アニエス、お人形さんがいるわ」
「(ひいぃぃぃぃ・・・・・・!)」
ジェニファーだけでなく、執事や使用人も両頬を掴んで今にも叫びそうになっている。
無表情なジェニファーを生きる人形だと信じ込んでいるアメリーがアニエスを呼ぶ。そしてもう一度お人形さんと、と言うとアニエスもこちらを見た。
「ほんとうだ、お人形さんだわ。どうしてしよーにんのかっこうをしているの?」
「お、オホホホ!アニエス様!アメリー様!そろそろお部屋に戻りましょう!私とおままごとしましょうか!」
使用人が気を利かせてアニエスとアメリーの視線まで腰を曲げて微笑む。だけどアメリーとアニエスはジェニファーから視線を逸らさず、ふるふると首を横に振った。
「ううん、お人形さんとおままごとする」
「アニエスも」
「アニエス、お兄様もよびましょう?きっとよろこぶわ」
「そうねっ」
「(だ、だめぇぇぇ・・・・・!)」
この場にウィリアムが来ようものなら「どうしたのその格好」と言われるに決まっている。
ジェニファーが混乱して固まっていると、使用人で両腕を掴んでその場を離れる。それをアニエスとアメリーが追いかけようとするが、執事がにこにこと苦し紛れに微笑んで止める。
「お人形さん!」
「どこ行くの!かくれんぼするの!」
「ははは!人形ならお部屋にありますから、一緒に遊びましょう!」
「やだ!」
「どうしてお人形さんを連れてっちゃうの?」
「そ、それは・・・・・」
「もうお兄様に言っちゃうもん!」
「(やめてくれぇぇ・・・ジェニファー様との貴重な時間が・・・・)」
執事の手を抜けてアメリーとアニエスが部屋から飛び出す。それを慌てて追いかける執事、腕を掴まれて逃げ出すジェニファーというコールマン公爵の屋敷では前代未聞の逃走劇が始まる。
アメリーとアニエスがウィリアムの執務室へと入る。それをあと一歩のところで仕留め損ねた執事が悲痛な顔で眺める。
アメリーがデスクに座るウィリアムの腰に抱きつく。それを資料を見ながら受け止め、頭をぽんぽんと叩くウィリアムだったが、何か言いたげにアメリーが見てくるので優しい目を向ける。
「アメリー、どうした?」
「お人形さんがつれてかれちゃった!」
「は・・・・お人形さん・・・?」
「お人形さんがね、しよーにんにつれてかれちゃったの!」
「・・・・ジェニファーはまだ屋敷に来ていないよ、来ているなら知らせが・・・・」
そこでウィリアムがドアの前で顔を真っ青にしている執事へと視線を向ける。その視線を受けた執事がぴんと背筋を正してウィリアムにお辞儀をする。
アメリーの頭を撫でていたウィリアムが組んでいた足を下ろし、執事へと歩み寄る。アメリーとアニエスもウィリアムの両腰に腕を回してじとっとした目を執事に向ける。
「ウィ、ウィリアム様・・・・・」
「ジェニファー、来ているの?」
「・・・・いえ、まだいらっしゃっておりません」
「・・・・・・・」
「ウィリアム様のお仕事が終わる頃に馬車を向かわせますので」
「・・・アメリー、執事はこう言っているけど」
「ちがうもん!ほんとうにお人形さんだったよ!」
「・・・・・・」
執事とアメリーであれば、アメリーの言ったことを信じるウィリアム。子どもは嘘をつかない。ウィリアムは顎に手をおくと数日前のことを思い出す。
そういえば、執事が急にジェニファーへ手紙を書きたいと言った。この前屋敷でお茶会をした際のお礼について綴られていたから特に気にせずいたが、もしかしたらあの手紙が何か関係しているのだろうか。
ウィリアムも執事や使用人がジェニファーを良いお嬢様だと言っていることを知っている。おもてなしをしたいと言っていたし、もしかすると、もしかするのか。
「・・・もう仕事は切り上げるからスペンサー家まで連れて行ってくれるかな、迎えに行く」
「そ、それは・・・・馭者にお嬢様をお連れするよう伝えておりますのでウィリアム様は屋敷でお待ちください」
「・・・・・私は早くジェニファーに会いたいんだよ?」
「ゔ・・・・・」
ふわりと前髪を揺らし、その隙間から美しい深緑の瞳をこちらへ向けるウィリアムが執事の顔を覗き込む。その美しさに執事が言葉をつまらせ、一歩後ろに下がった。もはやその美しさは凶器である。
じり、とウィリアムが執事に歩み寄る。そして天使のような柔らかい微笑みを浮かべる。けれど、その柔らかい微笑みとは裏腹に少し低い声をその美しい唇から漏らした。
「いいよね?行っても」
「そ、それは難しいかと・・・・」
「どうして?」
「・・・・・・・・」
「もう屋敷にジェニファーはいないからじゃないのかな」
「(しくじったぁぁぁ・・・・みんなすまん!)」
「・・・・アメリー、アニエス、お人形さんを探そうか」
「うん!」
「お人形さん助けようね、お兄様!」
「そうだね、見つけ出したら怖がっているだろうからいっぱい抱きしめてあげよう」
「うん!いっぱいキスしてあげようね!大丈夫だよって言いながら!」
「ふふ・・・・そうだね、いっぱいしてあげよう」
そう婀娜やかな表情で微笑むウィリアムに執事は頭を抱える。そして近くで様子をうかがっていた使用人へと駆け寄る。ことのあらましを伝えると、使用人たちは顔を赤くしたり青くしたり忙しない。
「ともかく!ウィリアム様たちよりも先にジェニファー様を見つけよう!そして洋服を着替えていただいて、さも今到着しましたとエントランスからお入りいただくんだ!」
「そ、そうね、きっとウィリアム様お怒りよ。私たちより先にジェニファー様と楽しくお話をしていたんですもの!」
「しかも奪っているようなものよ!きっと雷が落ちるわ!」
皆で背筋を凍らせながら走る。使用人同士の連絡網は何よりも早い。きっとウィリアムよりも先にジェニファーを見つけられるだろう。
その日の公爵家の屋敷は、いつになく足音が鳴り響いた。
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