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冷酷無比な殺人剣が綴る人殺し稼業  作者: 居合斬りって良いよね……
8/9

報復

尋問シーン難しいです

「……ゥ……ハッ!?」


 襲撃者の男が意識を取り戻した直後に視界に入ったのは、見知らぬ木造の床だった。男は周囲を見渡そうとするが、身体を満足に動かすことができず、無理に動かそうとすると肩から腕にかけて激しい痛みが襲い掛かった。


「よぉ。目が覚めたようだな」


 声を掛けたのはスキンヘッドの大男、ギーハだ。そう、男が見ていたのはギーハが営む酒場の内装だった。


「おっと、抵抗は止しておきな。無理に動くと腕が使い物にならなくなるぜ」


 男は椅子に座らされ、脚部を椅子の足に括り付けられる形で拘束されている。だが、特筆すべき点は腕の拘束だろう。男は右腕を肩の上から、左腕を脇腹から背中に回し、背中に置かれた両腕を縛られ、更に両手の親指は更に強固に縛られている、いわゆる鉄砲縛りと呼ばれる緊縛をされている。この状態では満足に手を動かすのも困難であるため、縄抜けを行いにくいという利点もあるが、最大の特徴は()()だけで拷問になるということだ。


「ッァ、ァがあァァ!!」


 苦痛に顔を歪ませ、身を捩ろうとする男。だが、動けば更に苦痛は増す。腰を拘束されてないにも関わらず、男は上半身を動かすことができずにいる。


「痛いか。安心しろ、すぐに解放してやる。俺の質問に答えるだけで良い」


 そう、この緊縛は肉体へ与える苦痛が非常に大きい。並大抵の者では数秒で根をあげてしまうほどだ。


「答えてほしい質問は一つだ。お前らの親玉は何処にいる?」


「ッ、何のこと、か。さっぱりだ」


 だが、この男は耐えた。苦痛からの解放という条件に呑まれることなく、毅然とした態度を貫いた。それを見たギーハは、酒瓶を並べてある棚からひとつだけ瓶を取り出す。


「そうか。じゃ、質問追加だ。お前、酒は好きか?」


「……それに答えて何の意味がある?」


 男がそう答えた直後、ギーハは男の腹に目掛けて鋭いボディブローを繰り出す。


「ッガハ……!」


「質問に質問で返すんじゃねえ。俺は酒が好きかどうかを聞いたんだぜ」


 一つ目の質問の際には殴らなかったのが不可解と取れるギーハの行動。だが、これはギーハなりの考えがあってのものだ。くだらない質問に疑問を呈したら理不尽な苦痛を与えられるというものは想像以上に精神的な負担が大きい。ギーハは、これにより精神の摩耗を意図的に引き起こそうとした。


「ッ……ああ、嗜む程度には呑むさ。これで満足か?」


 この対応を見たギーハはニヤリと笑う。精神が微塵も屈していないのならば、このような受け答えをせず、徹底的に白を切るはずだからだ。つまりこの男は苦痛に対しての肉体的・精神的耐性は高くないとギーハは結論付けた。


「おおそうか、それはよかった」


 そう言うと、ギーハは懐から黒い布切れを取り出す。用意した酒瓶の栓を抜くと、強い酒精(アルコール)の香りが酒場に満ちる。


「こいつは俺特製のメガチル酒だ。かなり強烈だが、まあ最期に浴びるほど酒を呑めるんだ、多少キツくとも問題ないだろう?」


 ギーハの用意した酒は拷問用に造った特製の酒だ。その特徴としては酒精(アルコール)が非常に強いということ、そしてメチルアルコール*1を用いて造られたということだ。

 ギーハは、その酒を黒い布切れに染み込ませる。


「これからはコートに防水加工をしておくことだな。()()()()が来るのかは、まあお前次第だがな」


 そう言うと、ギーハは男の腹を蹴り飛ばす。椅子に拘束されていた男はそのまま椅子もろとも倒れこむ。鉄砲縛りにされていた腕に全体重が圧し掛かり、鈍い音が響く。


「ガァァァッッ!?」


「おっと、強く蹴りすぎたか?だが気絶してくれるなよ。ここからが本番だ」


 男は凄まじい激痛に絶叫を挙げる。だが、ギーハはそれを意に介せず男へ近付く。そして酒を染み込ませた布切れを男の顔へと近付ける。

 そうして濡れた布を被せると、男の様子は一変する。そう、この酒はメチルアルコールによる毒性はもちろん、高濃度の酒精による刺激臭が嗅覚を強く刺激するのだ。動けば激痛が身体を走ると分かっていても身悶えを抑えきれない程の刺激臭が襲い掛かる。


「布だけでそのザマか。早いとこ吐いたほうがいいぜ。じゃねえと吐くのはゲロだけじゃ済まなくなるからな」


「カハッ……ハァ、し、知らん……私は、何も言わないッ、ゲホッ……!」


 むせ続けながらもなお、抵抗の意思を緩めない男。


「言わないって言ったら何か知ってるって証だろうがよ。酔いが回ったか?それとも対拷問の訓練をしてこなかったか?魔術師は敵に捕まった時の想定もしてないのかね」


 ギーハはカウンターに置いておいた酒瓶を再び手に取る。そして男の頭を踏み付け、手に持っていた酒瓶を逆さにする。重力に従って中身の液体は自由落下し、男の顔へと注がれる。そう、ギーハが行っているのはウォーターボーディングとも呼ばれる水責めだ。普通の水で行う場合は窒息を誘起するものだが、酢や酒、塩水などの刺激性の強い液体を用いれば嗅覚や味覚にも苦痛を与える、一段階上の拷問となる。

 真水でさえ鼻腔に入り込めば激しい痛みと嫌悪感が襲い掛かる。酒精が強い上、有毒であるメチルアルコールで造られた酒が入り込めば、その苦痛は真水とは比べ物にならないだろう。


「ングゥゥッッッ!!?」


 流し込まれたのは一瞬かつ布越しだ。だが、その一瞬は男にとっては永遠に感じるほどに苦しいものであった。

 濡れた布が壊れかけている嗅覚をなおも刺激し、味覚は高濃度の酒精による辛さで悲鳴をあげる。


「まだまだ酒はたっぷりと残ってるんだ。じっくりと味わってもらうからな?」


 ギーハは頬が引きちぎれんばかりの笑みを浮かべる。残虐なその笑みは、徐々に視界が薄れて来ている男の目に鮮烈に焼き付けられた。


 -------------------------------------------------------------------------------------


 残虐な拷問は、時間にして10分程度で終わった。男は自らの雇い主の所在地と知ってる限りの情報を吐いた後に再び意識を失った。

 その後ろでは、黒装束に身を包んだファイナーがギーハの背後に佇んでいた。


「相変わらずおっそろしい尋問をしやがるなあ、ええ?」


 ケタケタと小気味よく笑いながらファイナーは言う。ファイナーにとっては最早見慣れた光景のはずだが、その額には冷や汗が一筋浮かんでいる。


「そうか?()()()()酒を浴びることができた上、これから安らかに眠れンだから、むしろ有情的と言ってもらいたいもんだな」


「……どうせ俺が眠らせる役なんだろ?」


「ご名答♪」


「ご名答、じゃねえよ……」


 ブツブツと不満を垂らしながらファイナーは細く短いレイピアのような刺突剣を腰から取り出す。


「人間はどこを刺されれば即死するのか。お前はそれを知識と経験で知っているからな。こういう事にはうってつけってわけだ」


「ならわざわざメガチルを使った酒を造らなくとも良いんじゃねえか?手間がかかるだろうに」


「そこは俺の流儀みたいなもんさ。酒場に訪れた人間は等しく俺の客、ならば可能な限りは酒を提供してやるのが酒場の主に相応しい行動だろう?」


「先に死んだ二人は客じゃねえのか?」


「ウェルカムドリンクとして血酒を振舞っただろ?」


髑髏(グラス)から漏れてるじゃねえか。客に対してそんな対応してたら潰れるぜ」


 軽口を叩き合う二人。そしてファイナーは持っていた刺突剣を倒れている男へと向ける。

 弓のように腕を引き、顔へと狙いを見据えると、そのまま勢い良く剣を額へと突き刺す。男の肉体は一瞬の身じろぎをすることもなく、先程となにも変化がしてないような状態のまま絶命した。


「さて、親玉はどうやら首都西部の教会に潜んでるらしいぜ」


 首都の西部には巨大な教会がある。一神教を是としており、その影響力は政を為す人間にとって無視できないものとなっている。

 大きな組織だけあって真偽不明の黒い噂は数々と飛び交っていたが、聖魔術師の抹殺を考えていること、そして少しでも真実に触れた者は躊躇いなく闇へと葬る組織であることが二人には明らかになった。


「王国上層部の王族とかならまだしも、平和やら愛を謳う教会の奴らがこんなことしてるとはなぁ」


 ギーハがぼそっと呟く。だが、その顔は特別驚いてる様子はない。


「そうは言いながら、キナ臭いとは思っていただろ?平和だの愛だのを謳いながら勢力を広げる組織ほど胡散臭いものは無い。違うか?」


 ファイナーは嫌味っぽくギーハの呟きに言葉を返す。人間がそう簡単に善良になれないという事実を今晩の、そして今までの経験からも理解していらからだ。


「違いねぇや。悪事を行うには、善人面してたほうがやりやすいのは裏稼業の人間にとっちゃ常識だからな」


 人は悪事を行うことを宣言することは無いが、正義や善行を行う際は高らかに宣言する。そうした人間は普通は怪しまれることはない。だが、ファイナー達のような人間にとっては逆だ。高らかにそういったことを宣言する人間こそが最も怪しく、危険な存在なのだ。


「だが、ルールを破ったのなら報いを与えるのが俺達のポリシーだ。どちらにせよ、教会勢力を滅ぼさない限り俺達は狙われ続けるだろうからな」


「随分大きく出たじゃねえか。あいつらを滅ぼすのは骨が折れると思うぜ?」


 物理的・精神的の二つの意味を込められたギーハの言葉がファイナーに向けられる。


「フン、なら骨を折らせて首を落とせばいい。俺が生き残って教会勢力(あいつら)がくたばればそれで十分だ」


 だがファイナーは物怖じしない。リスクが大きい仕事をいくつもこなしているため、どんな巨大な勢力が相手でも物怖じしなくなっているのだ。その様子は何も知らぬ人間から見れば狂人にも等しい。


「そうでなくっちゃな。んじゃ、俺は店を掃除しながら待つぜ。精々生き残りやがれ」


「美味い飯を用意しておいてくれ。せめてツマミの味は薄くしてくれよ」


 そう言ったファイナーは夜闇を駆ける。ファイナーにとっては、誰が敵であっても関係ない。ただ己を害する輩を滅する為に、その世界なりの礼儀を守らぬ愚者に相応の仕打ちを与える為に今、強大な勢力を滅ぼそうとしている。旗から見れば自分勝手で言語道断な態度と言えるだろう。

 だが、そんなものを意に介してはいない。本人にとっての大義名分のため、その刃を振るおうとしている。

 夜はまだまだ、まだまだ続いていく。

*1 メタノールとも呼ばれるアルコール。主に燃料として用いられる(アルコールランプ等)。吸引や誤飲すると中毒症状を起こし、網膜の損傷による失明を引き起こす。

この尋問シーンを書く為にウォーターボーディングという拷問を自分に試してみました。

鼻の中に水が入った時点で激しい苦痛に襲われました。時間にして一秒も経ってない。

いやー、ほんとエグい拷問ですわ……


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