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わたしは自分のことがキライ


 キイキイと自転車を走らせながら星の少ない夜を過ごす。今日もいないんだろうなと思いつつも、わたしはナナさんを探していた。初めて出逢った時のナナさんの瞳の色を思い出すだけで怖くなる。

「このまま死んでもいい」

 そんなことを言われても、きっと驚かない。そういう雰囲気が漂っている人だった。

 キイキイキイ。自転車の速度を上げる。それから暫くしない内に見覚えのあるコートを着た人を見つけた。







「………」

「あの…ナナさん?」

「最悪だよ…」

 蹲ったままナナさんが唸る。体調が悪いのだろうか、と聞くのはやめておいたほうがいいかもしれない。そんなの見ればわかるでしょ?と言われそうだから。

「背中、擦りましょうか?」

「いいよ」

「それでは失礼して…」

「やらなくていいよ、って意味。わかるでしょ?」

「あ、ハイ」

 と言いながら背中をゆっくりと擦る。わたしのことを殺しそうな勢いの目で睨まれているけれど無視をした。親切はやったもの勝ちだ。ざまあみろ。



 数分経ってナナさんが口を開いた。

「一人にして」

「私も、一人になりたいです」

「……言ってることと、やってることが違う」

「そうですね。私も自分で何やってるんだろうって思います」

「はぁ……」

 大きなため息。今夜はなんて寒いのだろう。わたしたちは何でこんな場所で息をしているのだろう。ポツポツと考えていた時、ナナさんの声が掠れて聴こえた。


 もう、しにたい



 わたしの手が、止まった。


 呼吸のことも忘れてしまうくらい。

 時間が止まるというより、音が消えて、ただ静かに時計の秒針が動いているだけの世界。そんな感じ。

「…どうして死にたいんですか?」

「いや…もう、いい」

「え、ちょっと」

 急に立ち上がったナナさんはフラフラの体で動こうとした。腕を掴んで静止するので精一杯。

 わたしは何を焦ってしまったのだろうか。本当に力になりたい時は、ただ待つしかないのに。

「あの………ごめんなさい…」

「………」

 もし、掴んだ手が振りほどかれたら…と思うと、震えて、しまう。でもわたしの願いは叶わなかった。ふ、っと振りほどかれた。それから、手を握られてしまった。

「………」

 ナナさん?

「5分だけ…」

 そういうナナさんの顔はよく見えない。どうやら、もう一度チャンスはあるみたいだ。わたしは目を瞑って一つ深呼吸をする。ただ、共感するだけ。それだけを考えて、わたしは続ける。

「何もかも嫌になりますよね」

「……こんな顔があるせいなのかな?私の性格のせいなのかな?」

「そうですね………何のせいなのか、分かりませんね」

「耐えきれない毎日なんて地獄でしかないよ…」

「逃げ出したくなりますよね」

「一人になりたいんだけど…でも、本当は誰かに聞いてもらいたいなんて思っちゃう」

「誰かに聞いてほしいですね」

「もう、こんな面倒な私なんてキライ」

 スッ、と繋いでいる指に力が無くなっていくナナさん。どうしてもこの手だけは離したくないと思ってしまった。

「わたしが、聞きますよ」

「……え…」

「今日だけじゃないです。いつでも聞きます」

 今、自分の顔が熱くなっているのがバレてないか考えないことにする。

「そんなことは…出来ないよ。恋人じゃないんだから」

 じゃあ…だったら…

「だったら付き合いましょう」

「………はい?」

「いや、だから…わたしとナナさん。付き合いましょう。それで解決です」

「いやいやいや」

 そう言いながら繋いでない方の手を振って否定される。なんかショック。

「だって…私のことなんて好きじゃないでしょ?」

「え?わたしはナナさんのこと、少し好きですよ?」

「…………いやいやいや」

 ちょっとだけ距離を取ろうとするナナさんに、一歩、近付いてみる。そうしたら、またナナさんは一歩後退る。わたしは付いていく。それの繰り返し。顔を見られないように逃げるナナさんが可愛く見えてきて“少し好き”どころじゃなくなっていく。

「あのーナナさん?返事は?」

「あ、貴女のことなんてキライだよ!」

 わたしは胸が踊った。別にドMとか、そういう性癖があるわけではない。ぎゅう、と握り返してくれたから。それだけで気持ちが分かってしまったのだ。

「フフッ。奇遇ですね。わたしも自分がキライなんですよ」

 いたずらっぽく笑ってみる。

「あぁ!もう!ほんとキライ!キライ!」

「はい」

 こうして逃げるナナさんに付いて歩く瞬間が、なんかデートみたいで楽しい。





 深夜、夜遅くに出歩く悪い子のわたしたちは恋人になってしまった。これから先、どうなっちゃうのだろうとか考えもしない。これから先は、どうにかなっちゃうのだ。照らされた光に群がる虫でも生きちゃってるんだ。だったら、仕方ないよね?



わたし「ナナさんってツンデレですよね」

ナナさん「……もう、デートしない」

わたし「ああああ!う、嘘ですゴメンナサイ!ナナさんは清楚で真面目で、わたしの自慢の彼女です!」

ナナさん「……ふーん。そっか」

わたし(あ、ちょっと嬉しそう…)

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