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 僕の運命を変える日。

 それは、何の唐突もなく訪れた。


 その日はそもそも特別な日ではなかった。

 シスターと一緒に修道院の掃除をした後、近所の花畑へいき白い花を摘む。

 修道院内に飾る分以外は、花冠にしたりして遊ぶ。


 それは、穏やかで平凡な、少し退屈だけどとても幸福な日常。


「おーい! ここの責任者を出せや!」

 そんな日常を破る声が、修道院の入り口から聞こえてきた。

 僕はその声がした方を見た。


 そこには、がたいのいい男の大人達が五人居た。

 柄こそ悪いが身なりはしっかりしていたので、野盗ではなさそうか。

 だが、物々しい雰囲気を出している。

 そのせいか、祈りを捧げていた人達は、こちらと目を合わせず去っていってしまった。


「なんでしょうか? ここは神聖な場所です、大声は控えてください」

 普通の大人達が関わりあわないように去っていく中。

 責任者であるシスターのリリーシアは、彼らの強気な態度に屈することなく、毅然とした態度で接した。


「お前さんが責任者か」

「はい。そうですが何でしょうか?」

「ほう……、そうか。お前が責任者ねぇ……」

 柄の悪い大人の一人が、シスターの全身を舐めまわすように見つめる。


「借りた金返せや、こっちはお前らと違って慈善事業違うんだぞ」

 周りの仲間達は、柄の悪い大人達が何を言っているのかは理解出来なかったが、大人たちの高圧的な態度のせいで、震える体を寄せ合っていた。


「あと数日後に商会からの収入があります。それまで待って下さい」

「ああ? 待てるかボケがッ!」

「そもそも、返済の期日はまだ先のはず、何故今なのですか?」

 シスターはそんな子供達の不安を取り除こうと、大人達に負けないようどうにか強い態度を保っている。

 だが僕は、シスターが無理しているように見えた。


「金主が、取り急ぎ返済して欲しいとのご要望なんだよ!」

「何故……」

 そもそも、何故こんな状況になってしまったのか?

 確かに貧乏で満足に食べられない時も無いわけでは無かったが……。


「シスター、借金してるって本当なの……?」

「……黙っていてごめんなさい。最近、お布施や私の仕事の収入が少なかったから、仕方なく借りたのです」

 僕がその理由をシスターに聞くと、シスターは視線を落としながら悲しそうな表情でそう告げた。

 そんな彼女の表情を見た僕は、胸が異様にざわめいた。


「……今はここにお金はありません。この子らを見れば解るでしょう?」

 借金の取立てに来ても、とる物が無い。

 使っている家財一式も極端に古いため、大した価値はないと思う。


「そうだな、確かに金は無さそうだな」

 そうなると、金を返す方法は……。


 まさか!


「きゃっ! な、何を!」

「金が無きゃあ、労働力で返して貰わんとなぁ?」

 それは、僕が予想した最悪の展開だった。

 前の世界のフィクションでよくある、借金のカタに妙齢の女性を引き取っていく。

 当然、子供達だけで修道院はやっていけず、近い内に院は潰れてしまう。

 連れて行かれるシスターのリリーシアも、……潰れるだろう。


「痛い……、離して……」

「嫌だね。お前にはこれからしっかり借金分働いて貰うんだからよお!」

 シスターは必死に抵抗していた。

 だが、大の男の力は強く、到底敵うわけも無い。


「ううっ……」

「怖いよう……」

 こんな危機的な状況にも関わらず、他の仲間達は涙を流して恐怖に怯えるだけ。

 ……子供だから当然だし、期待をする方が間違っているか。


 そうなると、あとはもう……。


「は、はなせ!」

 僕は転生してきた。

 その時、史上最強のスキルを願った。

 もしもそのスキルが、穏やかな生活の保障ならば、このピンチは切り抜けられるはず!


「あぁ? なんだクソガキ?」

「タロ君!」

「し、シスターが……、い、嫌がっているじゃないか……」

 ああああ、でも怖い。

 昔かつあげされた記憶が蘇る……。

 こわいこわいこわい……。


「嫌がっている? こいつが?」

 反抗した代償として、暴力が振るわれると思っていた時だった。

 僕の言葉に対して柄の悪い大人達は、きょとんとした顔で無言のまま、他の大人たちと視線を合わせた後に……。


「ギャハハハハハ!!!」

「ワハハハハ!!!」

 突然、修道院に響くくらいの大声で笑い出した。

 今まで散々脅してきた連中のあまりのかわりっぷりに、仲間達は泣き止み体を震わせている。


「な、なにがお、おかしい?」

「いやだって、リリーシアが純真な子供を騙す能力があったなんて初耳だからさ~」

 この大人たちの言っている意味が解らず、僕はシスターの方を見た。

 シスターは、僕達から視線を外したまま口を固く閉じていた。


「ど、どういうこと……だ?」

「ヒヒヒ、じゃあ教えてやるよ。特別にな」

 僕はそれらの真意を聞くと、大人達はヘラヘラしながら僕の質問に答えようと口を開いていく。

「やめて! それだけは!!」

 だがこの時、今まで穏やかで物静かだったシスターは、大きく高い声で彼らを制止しようとした。

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