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「おい」
「ん?」
僕は返事をしつつ振り返る。
するとそこには、先ほどとは別の兵士が居た。
今度は一体なんだろう……。
「お前、両親の名前は?」
げげ。
一番聞かれたら困る質問してきた。
全然疑い晴れてないじゃないか!
「えっ、あ、あの……」
どうする……?
適当に答えるか?
いや、実在しない人物だって言われたら即アウトだ。
「どこの区の者だ?」
「区……?」
「そうだ、お前の家がある区を答えろ」
古代ローマの街って区画で管理されているのか……?
初めて知ったよ!
くそ、もっと勉強しておけばよかった!
……とりあえず今は後悔している場合じゃない。
どうにか答えないと。
でも、どうやって答える?
適当な答えじゃ絶対にばれるし……。
「……もう少し話を聞く必要があるな。ちょっとこっちへ来い」
「うう……」
そうやってもじもじまごまごしている中。
兵士は慣れた手つきで僕の腕を縛りあげてしまう。
「おかしな真似をしたら大声を出して応援を呼ぶぞ?」
「は、はい……」
結局捕まってしまった。
僕にはもうどうする事も出来ないのか?
でも、ここは幸い路地裏で人気は居ない。
声を出される前に史上最強のスキルで……。
「能力を使ってもだ」
「!!」
その言葉を聞いた瞬間、僕は戦慄した。
何故どうして能力の事を知っている?
異世界転生者が特殊なスキルを持っているのは、同じ転生者だけなはずなのに。
それも、僕が転生者だって分かってないと言えない言葉だ。
この人……、何者なんだ?
でも、これがきっかけで情報収集出来るかもしれない。
兵士だったら、リリィお姉ちゃんの居場所も分かるだろうし。
ここは大人しくついていくか……?
僕は兵士をまじまじと見ながらも、彼に連れて行かれてしまった。




