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いよいよ新大陸の冒険……。
今までゲームでしか体験しなかった出来事が、始まろうとしている!
僕は、リリィお姉ちゃんの手をぎゅっと握った。
お姉ちゃんも、僕の手を握り返してくれた。
「タロ君。とりあえず進んでみよう」
「う、うん」
確かに……。
このまま感慨深い気持ちのまま立っていても始まらないよね。
「お、お姉ちゃん」
「なあに?」
「ぼ、ぼぼ僕がお姉ちゃんを守るから!」
僕自身の心は熱いまま、握った手を離したら消えてしまいそうなくらいに、どこか儚くて綺麗なお姉ちゃんを見たままそう告げた。
「ふふ、期待しているね」
リリィお姉ちゃんは、いつも通りの笑顔を見せてくれた。
僕もいつも通り、胸がドキドキしてしまい思わず視線を逸らした。
僕は恥ずかしい事を言ったような気持ちになると同時に、お姉ちゃんの笑顔を直視出来ない自分の未熟さを思い知ると、海岸近くにあった小道へ歩いて行った。
新大陸の小道にて。
「すごい森だね」
確かにお姉ちゃんの言うとおりだ。
派手な色の植物がそこら中にあって、けたたましい獣の鳴き声が響いている。
「うん、何だかジャングルみたいだ」
もっとも、僕は実際に行った事はなくって写真やテレビでしか見た事ないけれど……。
「ジャングル?」
「あ、えっと……、僕が転生前に居た世界に南国って場所があるんだけども、そこにある森がこんな感じなんだ」
「ほおほお、そうなんだ。タロ君は物知りだね」
「あ、ありがとう……」
前の世界では、子供でも分かるような当たり前の事を褒められてしまった僕は、内心喜びつつも少し照れくさくなってしまった。
それにしても……。
「リリィお姉ちゃん、薄着で良かったね」
南国なのは景色だけじゃない。
この暑さもだ。
日差しは強くて気温も高いはずなのに、じめじめしているわけじゃない。
「そうね、暑いからちょうどいいよ」
まさかお姉ちゃんの着ている、胸と背中が大きく開いた、スカートにスリットが深々と入ったえっちな衣装が役立つなんて!
改めて見ると、すごい格好だなぁ……。
それを着こなすお姉ちゃんのスタイルもすごい。
うーん。
僕はそう思いながら、お姉ちゃんの方を見て無言のまま頷いた。
「そうだ、飛んで周り見たほうがいいよね?」
「あ、うん」
「行ってくるね」
お姉ちゃんの言葉によって、今まで闇雲に歩いてしまった事に気づいた僕は、内心反省しつつもお姉ちゃんを見送った。
そして、大した間をおかずに飛んでいったお姉ちゃんは、再び僕の前へと降り立つ。
「ただいまー、お待たせ」
んー、やっぱり女神だ……。
前の世界で”ムーンライト・リンカーネーションに出てくる女神セレスティーネのコスプレ”って公開したら、人気出てただろうなぁ……。
はっ、いけない。変な事考えちゃ……。
「お姉ちゃん、おかえりなさい」
「道なりに行った先に、テントのようなものがあるよ。多分そこに人が住んでいるんだと思う」
「じゃあそこに行ってみよう」
僕は自身の不埒な思考を振り払うように、小走りで人の集まる場所へと向かおうとする。
「はいはい、そんな急がなくても大丈夫だよ」
お姉ちゃんはそう言うと、少し困りつつも笑みを見せて、僕の後を付いてきてくれた。




