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ユッコの手を握った僕は、彼女のイメージ通りになるよう強く願った。
「…………」
「…………」
誰も何も喋らない。
穏やかな風景とは裏腹に、緊迫した空気が流れる。
「…………」
「…………」
それでも、僕はみんなが何を考えているか分かっていた。
この大陸が元通りになる事。
魔王が来る前の、絶望的な恐怖や理不尽な支配とは無関係な世界の再来。
だから僕は願い続けた。
心の中で何度も反復したし、いつもよりも集中して願ったつもりだ。
「……ふぅ」
「変わったの?」
「……わからない、手ごたえがないんだ」
いつもなら、スキルが成功した時は漠然と感づけていた。
けれど、今はそれがない。
マリーさんの時のように一人ならどうにかなったけども、元の状態に戻るという事は数千数万……それ以上の人の命が蘇る事になる。
そんな神様でもおいそれと出来ない事、いくら異世界転生者で特殊なスキルを持っているとは僕なんかには無理だったのかな……。
そう思い、ユッコの手を離して落胆しようとした。
その時だった。
「おーい! 誰かいないかー!」
遠くから人の声が聞こえてくる。
「にゃにゃ?」
「遠くから人の声が!」
僕の仲間たちもその声がする方を向くと、僕もつられてそちらを向いた。
「おーい! おーい!!」
この大陸の人たちは、魔王の手によって全て命を奪われてしまった。
それなのに、ぼろぼろの鎧を着た顔に傷のある歴戦の戦士風の男が、手を振りながらこちらへ駆け寄ってきたのだ!
「あなた方は!」
「むむ、これはユッコ殿ではないか!」
どうやら戦士の男は、ユッコの知り合いらしい。
お互い出会うと表情を緩ませ、再会を喜んでいる。
「ねえ!」
「む、これは……!」
それと同時に、地平の先から次々と人がこちらへ向かってくる。
この状況、これって……。
「やった! 願いが叶ったんだ!!」
僕のスキルはちゃんと発動したんだ。
この大陸の人々が帰ってきた!
「私……、夢でも見ているの?」
死の大地と化した場所が元に戻り、居なくなった人たちが帰ってくる。
それら自然の摂理を反した事が二度も立て続けに起きているわけだ。
すぐに信じろなんて無理な話だし、叶えた僕自身も驚きを隠せない。
「いいえユッコさん、現実ですわ」
でも目の前のある光景は決して夢や幻なんかじゃない。
マリーさんの言う通り、これは現実なんだ。
僕の望む通りになったんだ!!




