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僕は仲間を救いたい。
その気持ちは変わらない。
「もう戦うのをやめよう」
だけど、ユッコも救いたい。
この人もまた、魔王の犠牲者なのだから……。
「な、なにを……」
反撃してくると思っていたけれど、ユッコは意外にも戸惑っていた。
「今まで……、殺しあってたんです……よ?」
確かにその通りだよ。
あなたは僕たちを酷い目にあわせようとしてきた。
今までだって、魔王軍を率いて人々を苦しめてきた。
「だからもう、終わりにするんだ」
この人にやられた人らは、僕の今の行為を見たら怒るんだろうな。
だけども、本当の敵は……。
お姉ちゃん……。
あの人を敵と思いたくない。
あの人を敵に回したくない。
僕は振り返り、リリィお姉ちゃんの方を見た。
彼女は顔をあげながら、こちらに心配そうな眼差しを向けている。
「さあ、僕の手を握って」
ユッコは苦しみながらも、怯えた小動物のように手を震わせながら、ゆっくりと僕の手を握ろうとしてきた。
よし、そのまま……、まっすぐ……。
あと少し……。
「何をしているのかな?」
「ま、まおうさま……」
「お姉ちゃん!」
もうちょっとで届こうとした時だった。
黒い衣装のお姉ちゃんの幻が再び現れると、ユッコは手を引っ込めてしまった。
「私についていくんじゃなかったの? ふふ」
僕たちの様子を見た黒い衣装のお姉ちゃんは、いつもの優しい笑顔を向けたままそう告げた。
「んああああああああ!!!!!」
「ユッコ!!」
その瞬間だった、ユッコの体を這いずっていた触手が激しく脈打ち動き出した。
「あぁっ!! ああぁ……っ!!!」
ユッコは頼りない声をあげながら、触手に飲みこまれていく……。
「さあ、いきなさい。うふふ……」
「お姉ちゃん!!!」
彼女の合図でユッコの触手が突然動き出した。
一体……、何のためにこんなことを。
ユッコは苦しんでいる、救いを求めている。
それなのに……、お姉ちゃんは……。
これじゃあ、部下をないがしろにしたトリスタンと同じじゃないか!!
僕がそう憤っていた時だった。
触手の激しい動きがおさまり、ユッコの姿が露わになっていく。
「はぁっ……、はぁっ……、はっ……、はぁっ……」
だが、その姿は今までは違っていた。
全身をびくびくと震わせ、頬を赤らめながら曇った瞳でこちらを見つめている。
耳の穴に触手が入っているのを見ると、多分本格的に操られてしまったんだろう。
「う……悪夢」
「くそっ!!」
そして彼女は、何のためらいもなく再び触手をけしかけてきた。
僕へ襲い掛かる触手はみるみると集まり塊となっていき、巨大な芋虫のような形になり僕を見下ろしていた。




