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202

 御者の老人に導かれるまま、縦穴の洞窟を奥へと進んでいく。

 洞窟内は頼りないロウソクの明かりが点々としているのと、道中で無気力な人々が横たわっている姿が見られる以外は特に何もない。


 そんな陰鬱とした洞窟内を進んでいくと、少し広がった場所に到着する。


「クス子!」

 なんとそこには、うずくまったまま体を震わせているクス子が居た。

 僕は仲間との再会に思わず笑みをうかべてしまうが……。


 彼女の服装が、僕の仲間になった証である”巫女ぷりの主人公まりあの衣装”ではなく、初めて出会った時の少しよれたワンピース姿である事に戸惑ってしまう。


「あなた、誰?」

 そして、クス子の思いがけない言葉に、僕は完全に動きが止まってしまった。


「ねえ、ここはどこなの? あたしのお父さんは? 町の人はどうしちゃったの?」

「…………」

 様子がおかしいのは、鈍い僕でもすぐに分かった。

 口ぶりや格好から、多分クス子は僕と知り合う前の”クスクス”だった頃に戻ってしまっている。


「みんな何も教えてくれないし、あたしをこんなとこに閉じこめるし」

 でもどうして戻ってしまったのか?

 何故、全て忘れてしまっているのか?


「もうなんなの! こんなのやだよ!! ううぅ……」

 僕は困惑し、軽い頭痛がし始めた時。

 クス子は頭を抱えて泣き出してしまった。


「クス子……」

 正直、どうすればいいのか分からなかった。

 僕の史上最強のスキルに、記憶を取り戻すなんて効果は無いし……。


 でも、このまま放っておくわけにもいかない。

 だって、記憶が無くなったとしても、僕の仲間である事に変わりはないんだから。


「あ、あの……」

「なに……」

「え、えっと……」

 だけど僕は、今の彼女にどう言葉をかけていいのか分からず、ただ歯切れの悪い反応しか出来ずにいた。


 ええい、こんなんじゃ駄目だ!

 クス子が悲しんでいるのに、僕がどうかしなきゃ駄目だ!


 そう思っても、うまい言葉は見つからず。

 何も出来ない自分がもどかしいと思っていた時だった。


「…………」

 僕の右手が……、勝手に動いて……?

 な、なんだこれ。

 どうなっているんだ!


 自分でも自覚せずに動き出した右手は、泣いているクス子へと向かっていき。

 半分だけ伸ばした人差し指がそっと彼女の額に触れると……。


「う、うおっ! これって!」

 突然、彼女が光に包まれだした。

 その様子は紛れもなく、最初に主人公まりあの格好になった時と同じだった。


 そして大した間も置かずに光は止むと、そこには僕の仲間であるクス子が居た。


「すん……。タロくん、もう離れちゃやだよっ?」

 クス子は涙の残った青い瞳のまま、僕へそう笑顔で告げてくる。


「う、うん。クス子も戻ってきてくれて良かった」

 僕自身も、何が何だか訳がわからない。

 でも、とりあえずクス子は元に戻ってくれたみたいだ。

 今はその事を喜んでおこう……。


 そう内心思いながら、すかさず手を引っ込めた時だった。


「タロ様、大事なお話があります」

 先ほどの御者が話しかけてくる。

 そんなに畏まって、今度は何だろう……?

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