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 小屋を貸してくれた農夫への挨拶を済ませると、僕とお姉ちゃんは二日目の逃避行を始めた。


「どうして私なんかと居るのかな……」

 その道中にて、リリィお姉ちゃんはふとそう漏らした。


「同じ年頃の女の子だっていっぱいいるよ? タロ君は不思議な力あるからきっとモテるよ?」

 お姉ちゃんの言うとおり、この世界には他にも異性はいる。

 だから、自分でも効果がよく分からない史上最強のスキルがあれば、ひょっとしたらお姉ちゃんの言うとおりになるかもしれないと思った。


「僕はリリィお姉ちゃんがいい」

 でもやっぱり僕はお姉ちゃんが好きだった。

 過去に何があったなんて関係ない。

 今のお姉ちゃんはとても綺麗で清楚だから、何の問題も無い。

 あと……、あんな事しちゃったから責任とらないとだし……。


「分かったよ。じゃあついて行くね」

「うん」

 この時に見せたリリィお姉ちゃんの笑顔は、いつもの儚い感じとは違い、どこか温かみを感じた。

 きっと僕の言葉に喜んでいるんだろうなと思い、僕はお姉ちゃんの手を握った。



 その日の夜。


「今日は野宿になっちゃったね」

「うん」

 見ず知らずの人を泊めてくれる良い人は、そう都合よく見つからない。

 結局、今日は小高い山の縦穴で一晩を明かすこととなった。


「早めに寝て、明るくなったら出発しよう。おやすみなさい」

「おやすみ、お姉ちゃん」

 当然、今まで野宿なんてした事はない。

 だから、一応石の欠片とか虫とか居ない事を確認したとはいえ、地面に直接横になるという行為が、どうにも違和感しか湧かなかった。


 そしてそれ以上に、リリィお姉ちゃんが昨日の夜のようになってしまったら……。

 そう考えてしまうと、ますます眠れなくなってしまう。


「すー……、すー……」

 歩きつかれたお姉ちゃんは、体を横にしてすぐに寝息をたて始めた。

 暗い洞窟の中だったので、お姉ちゃんの顔を見ることは出来なかったが、昨日みたいにいきなり襲われるような気配はなかった。


 それでも僕は、いつ来てもいい心構えのまま、眠れない夜を過ごしていき……。



 翌日。


「おはよう。タロ君」

「ふわ~ぁ、おはようお姉ちゃん」

 結局僕は、あまり眠ることが出来なかった。

 頭が少しぼうっとしていて、あくびが止まらないや……。


「眠そうだね、寝れなかったの?」

「うん、お姉ちゃんが昨日の夜みたいになるかなって気にしてたら……」

「ごめんね。一緒に行くの嫌になったかな?」

「ううん、それは無いよ」

「ふーん……」

 この時リリィお姉ちゃんは、なんとも意味ありげな表情をしながら、ここを出立する準備を始めだした。


「でも、何とも無かったよね? まちまちなの?」

「ううん、そんな事はないよ」

 お姉ちゃんの言うとおりなら、毎晩あんな感じになってしまうらしい。

 でも、そうはならなかった。

 どういう事だろう?


「タロ君の不思議な力のお陰かも?」

「そうなのかな?」

 もしもそうだと、僕の史上最強のスキルは”好意を抱いた女の子が困っていたら、それを解決する”という事になる。

 服装が変わったのも、それで理由がつく。

 けれどそれが本当なら、そもそも修道院が燃やされるなんて事にはならないし……。


 未だに、僕が与えられたスキルの詳細は謎のままだ。

 僕は眠気が残る頭で自分の力について考えつつ、縦穴から出てリリィお姉ちゃんとの旅を再開した。

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