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 翌朝。


「うーん……」

 小屋の窓から光が差してくる。

 体は気だるいけれど、起きる事は出来そうだ。


「リリィ……お姉ちゃん?」

 僕は目を開けて上体を起こすと、今まで横で寝ていたリリィお姉ちゃんは居らず、僕から少し離れた位置で壁の方を向いて座っていた。


「……昨日の夜は本当にごめんなさい」

「えっ、ああ、うん……」

 何故お姉ちゃんがそうしているのか、僕は分かっていた。

 それは、リリィお姉ちゃんが”あんな事”をしたから申し訳ないと思っている事と、近寄ればまたあのような事をしてしまうと思っているからだ。


「もしかして、昔の……?」

 冷静な今なら、お姉ちゃんがああなってしまった理由が分かる。

 ごろつき男の言っていた、悪い魔法使いの仕業だろう。


「シスターの時は落ち着いていたのに、どうしてだろうね」

 そしてリリィお姉ちゃんの言葉で、修道服そのものにお姉ちゃんがかけられた魔法の効果を封じる力があった事も察した。


 しかし、それらの予想が仮に当たっていたとして……。

 今、この場所を支配する気まずく重い雰囲気が晴れる事はない。


 だから僕は何も言えないまま、酷く悲しむお姉ちゃんを見た。

 お姉ちゃんの背中はとても寂しげで頼りなく、このまま放っておけば消えて無くなっちゃいそうだった。

 それが嫌だった僕は、立ち上がってお姉ちゃんへ近寄ろうとした。


「来ないで!!」

「お姉ちゃん……」

「私は自分の子供に手を出した、最低な女よ」

 いつもはあんなに優しくて気丈なお姉ちゃんなのに、僕を拒絶するその声はひどく震えていた。


「君を守ってあげたいけれど、私じゃ駄目みたい……」

 お姉ちゃんはそう言いつつ、ゆっくりと立ち上がると……。


「私が側に居れば、また迷惑をかけてしまう」

 そういい残し、一人小屋から出ようとした。


 今ここで呼び止めないと、お姉ちゃんとは二度と会えなくなってしまう。

 僕に対してあんなに優しかった人。

 僕の事を親身になって考えてくれた唯一の人。


 その人を引き止めるには、どうすればいい……?

 どうしよう、どうしよう……。


 僕は考えた。

 必死になって考えた。


 しかし、お姉ちゃんを引き止めるいい言葉は思い浮かばなかった。

 この時、自分自身の異性に対する経験の無さを恨んだ。


 だが僕は、考える事を諦めなかった。

 

 経験が無いからって何もしないのはもっと駄目だ。

 だから僕は……、僕はっ!


「迷惑じゃないよ!」

 結局、気の利いた言葉を思いつけなかった僕は、真っ向からお姉ちゃんの言葉を否定した。

 その言葉に反応したお姉ちゃんは、こちらを向かないまま歩みを止めた。


 かっこうのつけかたなんて分からない。

 だったらもう、僕が思っている気持ちを直接言うしかない。


「僕は……、お、お……、お姉ちゃんが……、だだだだいすきなんだー!!」

 初めて出会ったときから、リリィお姉ちゃんの事は好きだった。

 一目惚れだった。

 その気持ちを言ってしまった!

 僕は……、僕は初めて告白をした!


「何を言っているの……、馬鹿な事言わないで。私は君が知っての通り、最低な女なのよ。年の差もあるし……」

 だが、僕の率直な気持ちをのせた言葉は、お姉ちゃんの悲しい言葉に打ちのめされてしまった。


「あなたの安全は、私が命に代えても保障する。だから君は君に相応しい人を見つけて、さようなら」

「嫌だ! 僕から離れないで!!」

「はぁ……、なんで私なんかに構うの? どうせ私なんていやらしい事しか出来ない、ただの足手まといなのに」

「それでもいいから……、お願いだから僕と居てよ!」

 汚れていても、年の差があっても、そんなの関係ないんだ。

 僕にはリリィお姉ちゃんが必要なんだ。


「お願いだよ……」

 ここで諦めたら、僕はまた転生前の僕に戻ってしまう。

 ”お姉ちゃんを見捨てた情けない僕”はもういやだ。

 後悔して、取り返しのつかない思いをするなんてもうたくさんだ。

 だから、僕の気持ちが伝わるまで諦めない。


 そんな決死の説得の甲斐があったのか、お姉ちゃんは歩みを止めて僕の方を向くと……。


「しょうがない子ね……。分かったわ、君の側に居る」

 リリィお姉ちゃんは少し困った表情をして、僕の頭を撫でながらそう告げた。


「でも、タロ君が私の事を嫌になったら、すぐ別れるんだよ?」

「そんな……」

「だーめ。約束して」

「うん」

 そんな事は絶対にない、起こさせやしない。

 僕は心の中でそう誓いながら、リリィお姉ちゃんの悲しい約束に対して強く頷いた。

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