17
突然、リリィお姉ちゃんの修道服が輝きだした。
「きゃあっ!」
「えっ? リリィお姉ちゃん??」
僕は何が起こっているのか分からないまま、どうすればいいか慌てて考えている中、大した間をおかずに光はおさまっていく……。
「そ、その格好……」
そして光が完全におさまると、リリィお姉ちゃんの服装はがらりと変わっていた。
群青色の縁取りがされた真っ白な衣装は大きく胸元と背中が開けていて、スカートには深々とスリットが入っている。
肌の露出がほとんど無かった修道服とは正反対に、お姉ちゃんの豊かな肉体を存分に強調していた。
僕はこの衣装を知っていた。
間違いない、僕が転生前の世界で人気だったライトノベル”ムーンライト・リンカーネーション”内に出てくる女神セレスティーネが着ているドレスだ。
僕はその作品もそのキャラクターも好きで、たくさんのグッズを集めている。
まさか、史上最強のスキルは”好意を抱いた異性の格好を自由に出来る能力”ということ……?
「何だか分からないけれど、服装変わったね。買わなくて良かったかも?」
「う、うん! そうだね!」
「でも、ちょっとえっちぃかな……」
リリィお姉ちゃんはほんの少し頬を赤らめ、胸元を隠しながら上目遣いでそう告げる。
「だけど、似合ってるよ!」
「ふふ、ありがとうね」
僕はそんなお姉ちゃんが心底可愛いと思ってしまい、こみあげる何かをぐっと押さえながらそう言うと、お姉ちゃんは胸を隠していた腕を解き、僕にそっと微笑んでくれた。
「とりあえず、服装はなんとかなったけれど……」
「リリィお姉ちゃん、なるべく街から遠くへ行こう。それで、二人で静かに暮らせる場所を探すんだ」
史上最強のスキルが服装を変えるだけなら、今の状況は全然良くなっていない。
どうしてあの時、ごろつき達を追い返せたのかは結局分からずじまいだけども、ともかく今は逃げるしかない。
「僕も頑張るから!」
「タロ君は強いね、お姉ちゃん頼りにしてるね」
「うん!」
リリィお姉ちゃんも、僕ときっと同じ考えだったに違いない。
僕の頭を優しく撫でながらそうそっと言うと、僕はお姉ちゃんの手を握って歩き始めた。
僕達はしばらく歩き、日も落ちてあたりが暗くなった頃……。
寂れた農村の小屋を一晩だけ貸してもらうと、お姉ちゃんは体を横にしてすぐに寝息をたててしまう。
月明かりが差す薄暗い小屋の中、僕は穏やかなお姉ちゃんの寝顔を確認すると、体を寄せ合って目を閉じた。
このまま何も無く朝が来る。
僕はそう思っていた。
しかし、僕の予想しなかった事件が起ころうとしていた……。
「う……、うぅ……」
夜も更けた頃、吹き込む風の音しかしなかった小屋の中に、お姉ちゃんの呻き声が聞こえる。
「はぁっ、はぁっ……」
お姉ちゃんはとても苦しそうで、何かをぐっと我慢しているようだ。
「どうしたの? リリィお姉ちゃん」
僕は心配になり、重い瞼をあけて声をかけつつお姉ちゃんの方を見た。
「お姉ちゃん……?」
お姉ちゃんは、自身の震える体を抱きしめている。
もしかして、病気かな?
そうだったら薬なんてないし、僕は治す力なんてない。
かといってこのまま放っておくわけにもいかない。
僕は、小屋を貸してくれた農家の人を呼ぶために、起き上がろうとした時だった。
「うわぁ!!」
突然、今まで震えて苦しんでいたリリィお姉ちゃんが、僕の上へと乗ってきた。
「ど、どうしたの……! お姉ちゃん?」
リリィお姉ちゃんは息が荒く、月明かりしかないのにも関わらず頬を赤らめているのが分かるくらい興奮している。
僕は、何が起こったのかまるで分からず、ただ困惑するだけだった。
「はぁっ、はぁっ、ごめんね……タロ君……」
「んぐううう!?」
そんな時、リリィお姉ちゃんは一言謝ると、自身と僕の口を合わせる。
「えっ、な、なんで……」
転生前の僕は、異性に恋人としての愛情をもたれた事はない。
だから、そういう事をするのは初めてであり、綺麗なリリィお姉ちゃんとするのは本来ならば最高に嬉しかった。
けれど、展開が突然すぎて、頭の中が真っ白になってしまい何も考えられずにいた。
「分からないの、分からないけれど、我慢できないの。……ごめんね」
瞳を潤ませ、リリィお姉ちゃんはそう告げた。
それが、転生前には体験出来なかった特別な夜の始まりを意味していたのは分かっていた。
僕はなんだかよく分からないまま、リリィお姉ちゃんを受け入れ、お姉ちゃんもまた僕を受け入れた。
正直困惑していた、だけどとても幸福に満ちたひと時だった。
特別な夜は更けていくにつれ、僕の意識を、精神を、欲望を蕩かしていった……。