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敵大将の攻撃を受けた瞬間に途切れた映像は、しばらく経っても回復しない。
その代わりに周波数帯域の合わないラジオから流れるような雑音が鳴り続けると、僕はとても不安な気持ちになってしまう。
「どうしましたか、アドルフ! 返事をしてください!」
あの普段は物静かなユリウスも、声を張り上げている……。
もしかして、アドルフはさっきの攻撃でやられてしまった……?
そんな嫌な雰囲気が流れ出した時だった。
「クソ、あんな大技を持っていたとは……」
ざざっと砂嵐が途中混じりつつも、アドルフと共有する視界と声は復活した。
だが、彼の視界は赤い霧のようなものに覆われていて、周囲の景色をいまいち詳しく見る事が出来ない。
「無事でなによりです。被害状況は?」
「動ける奴らが五割、かろうじて生きている奴らが一割、残りは死んだ!」
うそ……だろ。
さっきのブラッディなんとかかんとかたった一発で、アドルフ軍の半分近くがやられた!?
「ね、ねえ。その赤い風景って……」
「ああ? さっきの技に巻き込まれた兵士は皆粉々だ。その血煙だろうな……」
大人数との合戦だぞ!
一騎当千の無双ゲーじゃないんだから、そんな馬鹿な事あるかよ!
「俺はどうにか助かったが……。ちっ、とんだ化け物だ……」
そんな相手に勝てるの?
これじゃあ、こっちがさらに倍の一万居たとしても、ミルイただ一人に敗北してしまうよ!
「ミオリーゼ殿は無事か?」
「ああ、こちらは問題ない。もうすぐ敵大将の側面を突けるぞ」
僕が現状の理不尽さを呪っている中でも、周囲の人たちは冷静だった。
「すまない、こちらはもう戦える状況じゃない。負傷者をなるべく拾いながら撤退する」
「うむ、その方がいいだろう。後は余達に任せて欲しい」
「あなた方が抜いた敵防衛網の兵士が待ち構えているかもしれませんね。私の部隊から半分を応援に出します」
「すまんユリウス。ミオリーゼ殿、頼むぞ」
一撃で数千の兵士を倒す技を持つ敵将ミルイに、ミャオをぶつける……。
多分、ミャオが勝てなければこの戦は負けが決まってしまう。
こんな時でも、僕は見ているだけしか出来ない。
ちょっと剣を習った程度じゃ、何の意味も無い……。
「大丈夫だよ。タロ君が役立つ時はきっと来るからね」
「リリィお姉ちゃん……」
お姉ちゃんは、僕へ優しくそう囁いてくれた。
でも、正直そんな時は来るのかな?
今回ばっかりは、ただの慰めにしか聞こえないよ。
僕はリリィお姉ちゃんの目を見た。
琥珀色の瞳の中に、強い意志の輝きと憂いが見えた僕は、根拠のないお姉ちゃんの言葉が嘘ではないと察し、弱い気持ちを振り払う事が出来た。
僕を励ましてくれる優しいお姉ちゃん。
そのお姉ちゃんが憂いでるのは、どうしてだろう?




