表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/433

16

 僕は、シスターの温かくて柔らかい場所で抱かれていた。

 それは本当なら、とても幸福な事だった。


 しかし、僕の胸の中にはある不安があった。


「ねえシスター、俺達に逃げ場はあるのかな」


 結局史上最強のスキルは”穏やかな生活を送れる事”じゃなかった。

 やっぱり、あのだらしない女の嘘だったと認めるしかない。


 そうなれば、僕はただの子供だ。

 何も持たず、何も出来ない。

 転生する前と同じ……。


「今はまだ大丈夫かもしれない。でも、私達を捕まえようとする御触れは、やがて世界中に広がってしまう」

 シスターの言っている意味は分かっていた。

 あの異端審問官という大人は、国の偉い人の命令で来ている。

 つまり、僕達は国そのものを敵に回してしまった……。


「でも、大丈夫だから。私に任せて」

 それでもシスターは、僕をぎゅっと抱きしめてくれた。


 この人はたとえ自分の全てをなげうっても、僕を守ってくれるはず。

 でも、僕は弱気な言葉しか言えない。

 そんな自分がとても情けなくなってしまい、思わず泣きそうになった。


「うん……。分かったよ。シスター」

 けれど、どうにか涙を堪えてシスターの言葉に対して真っ直ぐな返事をする事が出来た。


「うーん。なるべく正体は隠しておきたいから、その呼び方もだめよ」

「じゃあ、どう呼べばいい?」

「……神父様は私の事を、リリィって呼んでいたわ。だからタロ君も同じ様に呼んでね」

 自分の名前を言う時、どこか戸惑っていたような気がしたけども……。

 気のせいかな?


「うん、分かったよリリィお姉ちゃん」

「えへへ。お姉ちゃんって初めて呼ばれるけど、ちょっと照れちゃうね」

 僕から見れば、リリィはお姉ちゃんと呼んでもおかしくはない年頃なはずだ。

 確かに今までシスターとしか呼ばれなかったから、馴染みが無いんだろうなあと思いつつ、少しはにかむお姉ちゃんに可愛さを感じながら僕も笑顔を返した。


「服装も変えたほうがいいわね……、まずは村を探しましょうか」

「うん」

 そう言いつつ、休んでいたお姉ちゃんは立ち上がると、僕にそっと手をさしのべる。

 僕はその手をぎゅっと握り、手を繋いだまま雑木林を抜けた。


 そして、運よく小さな村を見つけた僕達は、そこでリリィお姉ちゃんの服を探した。


「うーん……」

「買えなかったね」

 しかし、服は変えなかった。

 理由は三つあった。


 一つ目は、リリィお姉ちゃんの体型にあう服が無かった。

 お姉ちゃんは胸が大きく、お店にあった服は物理的に入らなかった。


 二つ目は、ぼろぼろの服を着た僕を連れたシスター姿のお姉ちゃんがうろうろしていた事で、お店の人が不審がってしまった。

 街での騒ぎを知っているかは分からないけれど、あのままお店に居たら大事になっていたかもしれない。


 三つ目は、仮にお姉ちゃんに合う服があったとしても、買うにはお金が足らなかった。

 元々、ケーキの材料をなんとか買える程度しか、持ち歩いていなかったのだ。


「このままの格好じゃ、人の目につくのも危ないのに……」

 このまま逃げ続けるとしても、街や村に入れず買い物も出来ないのは厳しい。


 やっぱり、僕達はもう終わりなのか……?

 そう思い始めた時だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ