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 もう終わりだ……。

 僕は何も出来なかったどころか、ごろつき達の反感を買ってしまい他の仲間も、住む家も、シスターも失ってしまう。

 なんだよ……、史上最強のスキルは最悪のスキルじゃないか……。


 そう思っていた矢先。


「うわあ!」

 今まで座って泣いていたシスターは急に立ち上がると、囲んでいた異端審問官の男を突き飛ばし、僕の手を引いてその場から逃げようとした。


 異端審問官達は、この追い込まれた状況から僕とシスターが逃げ出すとは思っていなかったらしく、また魔女の子と忌み嫌われた僕に関わろうとする野次馬も居らず、僕達はどうにか人々の包囲を抜ける事に成功した。


「元売女が魔女の子を連れて逃げたぞ! 追え! 追えー!」

 彼らはすぐに僕達を追おうとした。

 だが、他の民衆が都合よく邪魔な位置に立っていたお陰か、あるいは異端審問官が重装備すぎて俊敏に動けなかったのか、僕達は捕まることなく無事に街を出れた。



 そして、息も絶え絶えになりながら街から離れた雑木林へと身を隠す事が出来た僕達は、追っ手の気配が無い事を確認した後に、盛り上がっている木の根に座って一時の休息をとろうとした。


「はぁっ……、はぁっ……」

 足も痛いし、胸も苦しい。

 こんなに走ったのは前の人生でも無かった。

 でもとりあえずは逃げ切れてよかった……。

 シスターも無事そうだし……、うん?


「シスター……」

 僕は彼女とふと目線が合ってしまう。

 この時、彼女の瞳に涙が溜まっている事に気づき、走った時とはまた別の胸の痛みを感じた。


「あなただけは私が絶対に守るから……、私の命に代えても守り抜くから……」

 そう言われながら、僕はシスターに強く抱きしめられてしまう。

 いつもなら、豊満な胸に顔をうずめられてラッキーと思うところだったが、今はそれ以上に別の感情が心の中に強く湧いていた。


 だから、僕はシスターから敢えて離れると、彼女の悲しい眼差しをしっかり見据え……。

「シスターも一緒に生きるんだ。そうじゃないと嫌だ!」

 僕の率直な気持ちを、声を裏返らせながら告げた。


「タロ君……」

 修道院で苦楽を共にしていた仲間達はもう居ない。

 この世界で、僕の家族はシスターだけだ。

 シスターは僕の大事な人なんだ……。


 もしも本当に、史上最強のスキルを持っているのなら……。

 頼むから、シスターとずっと一緒にいさせてくれ!


「ごめんなさいね……。しっかりしなきゃね……」

 僕の強い思いが届いたのか、今まで悲しそうな表情しかしなかったシスターが、どうにか笑顔を見せてくれた。

 そしてその笑顔を見て胸の中がほんわかと温かくなった僕は、シスターへと再び抱きついた。

 シスターはそんな僕を拒絶する事も無く、何も言わず優しく頭を撫で続けてくれた。

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