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「む、そんな使いを出した覚えはありませんが……」
「えっ……?」
平和な修道院を襲った事件の真相を、知れると思った矢先。
貴族の返答はあまりにも意外で、僕は思わずシスターの方を見てしまう。
シスターも、まさか知らないと言われるとは考えていなかったらしく、口に両手をあてて驚いてしまった。
「おい、執事やメイドで勝手に出したのか?」
「滅相もございません! そもそもお館様の指示も無いのに、そのような事を独断で行うなんて越権行為も甚だしいです。一応、他の給仕にも確認は取りますが……」
忠誠心の高い家来の勝手な暴走を疑った貴族の男は、少し厳しい口調で近くにいた執事に問いかけるが、執事も驚きながら首と手を横に振って犯人ではない事を告げた。
「ふむ」
そんな態度に、貴族の男は腕を組みながら目を細めて熟考すると……。
「あー……、もしかしたら……」
「何かお心あたりでも?」
「最近、貴族の使いを自称して、不当に金品や人身を奪い去る輩が居るという噂を聞きます。恐らくはその者達の仕業かと……」
今回の事件を引き起こした、柄の悪い男達の正体を告げた。
「そうですか……」
僕は、あの事件を振り返った。
確かに、柄の悪い男達は伯の名前を言わず、”金主”としか言わなかった。
修道院を狙ったのは、院に住む子供達の格好がみすぼらしく、食べていくにも精一杯な状況ならば借金の一つや二つは抱えていると踏んだからだろう。
「いいでしょう。私兵にそちらの修道院を守るよう伝えましょう」
「よろしいのですか?」
「ええ。シスター・リリーシア、あなたの献身や善行はこの街で知らないものが居ないくらい有名ですからね。その者が脅威に晒されていると知って見過ごせば、貴族として末代の恥となってしまうでしょう」
「ありがとうございます」
「あと、貸した金銭の返済はいつでも構いませんよ。余裕のある時に返していただければ結構です」
「はい、伯のお心使いに感謝します」
こうして、予想をいい意味で大きく裏切られたシスターは、笑顔のまま伯の屋敷を去った。
修道院へ帰る道中にて。
僕はシスターの方をふと見る。
彼女は僕の視線に気づくと、何も言わずにいつもの優しい笑顔を返してきた。
「よかったね、シスター」
「ええ」
やっぱり僕のスキルが発動したんだ。
一時はどうなるかと思ったけれど、結果的に全てが上手くいっている。
「タロ、お留守番をしている子達にケーキを焼きたいので、材料を買って帰りましょうか」
「うん!」
転生して良かった、本当に良かった。
生まれ変わる前の人生を忘れられるくらいに、僕は幸福だ。
願わくば、この幸福がずっと続いてくれれば……。
そう思いながら、僕はふと遠くの景色を眺めた。
「ねえ、あれ……、なんかおかしい……?」
普段見ている街の風景に、何か解らないが違和感を覚える。
「どうかしましたか?」
その発言に、シスターも僕と同じ方向を見る。
そして……。