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 転生前だったら、このまま諦めていた。

 それが自分にとってどんなに大切なものであったとしても、簡単に手放していた。


「待て!!!」

 だが”僕”は手放さなかった。

 ”手放したらどうなるか”を知っていたからだった。


「ああ?」

「”ユリお姉ちゃん”から離れろ……」

 どうしようもない大きな力によって、自分と大切な人の関係が無理矢理引き裂かれてしまうという、今まさに起こっている出来事を、僕は過去にも体験していた。


 あの時、僕は自分の無力さを許容してしまった。

 それを理由に、大切なものを手放してしまった。

 そしてその結果、後悔だけが残った……。


「はぁ? お前何をいっている――」

「つべこべいわず離れろ!! 二度と僕の前に顔を見せるな!!」

 だから、僕はもうあんな思いはしたくない!!

 大体、何で異世界転生までしたのに、ここでもこんな惨めな思いをしなきゃいけないんだ?


 僕はその思いと共に、大人に向かって叫んだ。


「……どうやら、自分の立場が解っていねえみたいだな」

「うぐっ!?」

「タロ君!!!」

「オラァ!! 生意気な口はどうした!」

「ぐぅ……」

 だが、どんなに抗っても現実は変わらなかった。

 残ったのは無力な自分と、腹部と腕の痛みだけだった……。


「もうやめて! あなた達についていきますから!! だから子供達には手を出さないで!!!」

 僕がぼろぼろにされている姿が、見るに耐えなかったんだろう。

 普段は穏やかで大人しいシスターが、まるで小さな子供のように涙を流し、声を荒げて僕に暴行を加える大人達を止めようとしている。


「お願い……します……」

「ふん、今回はリリーシアに免じて許してやる。あまりイキっているんじゃねぇぞ、ガキが」

 シスターの懇願が叶い、僕はこれ以上ぼこぼこにされずにすんだ。

 しかし、彼女の献身は僕の心を酷く痛めつけた。


「どうした……、子供一人……倒せないのか……」

 どうせ僕は転生してきた、一度は自分から命を絶った人間だ。

 本来なら死んで無になる存在だ。

 だったら別にここで殺されても変わらない。


 もうあんなに後悔するのは嫌だ、辛い思いをしたまま生きていくのは嫌だ!


「てめえ、一度死なないと解らないようだな!」

 僕の挑発を受けた柄の悪い大人は、腕を振りかぶり全力で僕を殴り倒そうとしている。


 たぶん、あれを受けたら子供の僕なんて一撃で重症か、死んでしまうだろうな。

 だけど、これでいいんだ……。

 これで悔いは無い……。


「やめてええ!!!」

 リリーシアの甲高い声が聞こえる。

 柄の悪い大人の固く握った拳が、僕の顔面に来る……!


 …………。

 …………。

 ……?


 あれ、おかしいぞ。

 痛みが無い……?

 もうとっくに、僕は殴り倒されてもいい筈なのに。


 そう思いながら、ゆっくりと目を開いていく。


「う、うぎゃああああ!!!! 腕……、俺の腕があ!!!」

 何を言っているんだ……?

 腕がどうなったんだ?

 やばい、涙で前が見えない。


 僕は涙で濡れている視界を綺麗にするため、服の袖で目をこすって確認した。


 うそ……だろ?

 僕を殴ろうとした大人の腕が、なんでかは知らないが変な方向に曲がっているぞ?


「おい!」

「お前……、何をした!?」

 いや、何をしたと言われても何もしていないんだが……。


 そうか!

 僕の史上最強のスキル”穏やかな生活を送る”が発動したのか!

 だったら……!


「これ以上、お姉ちゃんを泣かせるな……!」

「クソがッ!! う、うわああああ!!!!」

 やっぱりそうだ。

 僕は自分でも知らないうちにバリアを張っていて、柄の悪い大人達はそれを殴ったから腕がいかれてしまったんだ。


「な、なんだこいつ!?」

「どうなっているんだよぉぉッ!!」

 いける!

 これなら勝てる!

 今度こそ、”お姉ちゃん”を手放さなくてすむ!!


「いいか、二度と近づくな……!」

「ひぃ、に、逃げるぞ!」

「うわあああ!!!」

「助けてくれえ!!!」

 あっちから見れば、何の能力も才能も無い無力な孤児が、突然意味不明な力を使ったわけだ。

 そりゃあ、不気味だし逃げたくもなる。


 事実、全員が悲鳴をあげながら一目散に修道院から出て行ってしまった。


「はぁっ……、はぁっ……」

 ともかくピンチは乗り切った。

 ”お姉ちゃん”を守りきった……。


「今回は……、守れて……良かった……」

 前世では出来ずにずっと後悔していた事が、まさか転生した世界で出来るなんて……。

 何だかよく解らないけれども、本当に……よかっ……た。


 脅威が去り、全員が無事である事を確認した僕は、体の力がみるみると抜けてしまい、意識がとんでしまった。

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