4 信用と信頼とAria
「起きてってば」
霧雨を如月と尋ねてから二日後の昼休憩、自分の席で惰眠をむさぼっていると躊躇ない如月の声で起こされた。 変な体勢で寝てたので節々が痛い。
「眠いからまた今度な」
「何でいつもそんなに睡眠不足なの? バカなの?」
「こら、余計な一言をいわない。 眠いのはナツキの奴が朝練で朝早いのに同じ時間に起こすからだ」
正確にはナツキが家を出るときに起されるのだが、僕からしたら結局は朝が早いので大差ない。
「ふーん、ナツキちゃんも大変だね」
「あれ、この流れだとこっちの方が大変なの伝わってない!」
必死の弁護もスルーされてしまう。
「ところで今日の放課後よろしくね」
「うん? 何かあるのか」
「それは実際に見てからのお楽しみってことで」
「放課後教室に残っていればいいの?」
「うん、それでいい。じゃあまた三限後にね」
その言葉とともにゆっくりと瞼を閉じ快眠を放課後までむさぼることにした。
六限目のチャイムが鳴り解散を告げられると颯爽と「さぁ行くよ」と手を取られ引っ張られる形で連行される。 眠い頭を抱えながらついた先は生徒会室。
きっとまた佐伯先生が絡んでいるのであろう。
「やられた」 クラスメイトを使って連行するのは卑怯だ。 逃げれない。
中に入ると同時に生徒会長二年A組篠崎達也が声を上げる。
「それではこれより文化祭実行委員会議を始めます」
会議の幕開けとなった。最初はスローガン決めと役割決め、順序よく進んで行く。
如月から聞いた先生からのお願いは篠崎の手伝いをしてやってくれという事だった。生徒会初仕事のため先生がフォローしながら進めるのが道理だが今は進路会議で忙しく手伝えないとのことだった。
この時期の生徒会はめちゃくちゃ忙しいらしい。 あと三週間で文化祭のすべての準備を終えなければならない。 だからこんな会議は早く終わらせて作業に入らないといけない。
が、会議の進行を見る限り初とは思えない手際の良さと器量でこなしていく。
「俺たちが手伝わなくてもよさそうだが」
「先生は篠崎君の心配はしてないから会議に行ってるのだと思うよ。多分手伝うのは書類制作とかの雑用をしろって意味かも」
「またはめられたわけか……」
「それはきっと信頼だよ」
と篠崎が会議がひと段落したらしく顔を出してきた。
「信頼はされてないと思うけどな」
きっと先生は信頼ではなく信用しているのだ。両者の言葉は似て似つかぬものだ。
「シオンはまだ部活に出てないからここにいるわけか」
「悪かったな、毎日何もせずのんびり過ごすのが趣味なんだ」
「部活に出る気はないのか?」
「……。 本気で言ってるのか?」
「今のは生徒会長としての言葉だ」
「そうか」
「親友としては今も昔も悪くも良くも日常を過ごしてるならいいよ」
安堵のこもった言葉と表情にはいつもの篠崎が伺えた。
「会長これどうしましょう」と声が掛かり篠崎が「またな」と笑顔で向かっていく。
「今日のところは何もなさそうだし帰るか」
「そうだね」
生徒会室を後にする。今後手伝うことは雑用ぐらいしかないだろう。
篠崎以上に信頼が似合う生徒はいない。誰もが信頼しそれに確実に応える篠崎。
――――――これがうまくいかなければ生徒会長なんてできない。
以前篠崎が口にしていた言葉。それは篠崎以外には言えない”信用”の言葉だ。
※
「今日は何だかとても眠そう」
「ちょっと慣れないことをしたからかな」
「超面白そう! ねえねぇ、なにしたの?」
「今日のノルマをクリア出来たら教えてあげるよ」
「けち」
プー、と頬を膨らませ、かわいい顔をしてもダメなものはダメである。
だが勉強を教えるのも残り僅かになっていた。霧雨の容量は良く教えればスムーズに吸収し、テンポよく理解してくれる。
週に三回教えるだけでここまでできるようになるとは思わなかった。
きっと学校に通えるようになれば僕の学年五位の座を脅かす存在になる。
そんなことを思い浮かべて口元が緩んでしまう。
「何笑ってるの? 気持ち悪いよ」
「悪かったな。いや教える範囲ももうすぐ終わりだなと思って」
「そっか…もう少しで終わりなんだね」
「もうすぐで退院なんだろ、ならまた学校で会えばいいさ」
「うん、今度の精密検査で大丈夫だったら三週間後には行けると思うよ」
「三週間後か…ちょうど文化祭の日だな」
「文化祭!」
目をキラキラ輝かせながら声を張り上げはしゃいでる。まるで初めて遊園地に連れて行ってもらった子供みたいだ。
「シーーッ!」
「あっ」と手を口で押えるが興奮を抑えきれていない。
「はしゃぎすぎだろ……」
「私、高校生活で一番してみたかったのが文化祭なの!」
去年は台風で天気が荒れる予報だったので事前に延期が予定され七月上旬、ちょうど先輩が入院中に開催され出れなかったらしい。
「まぁ文化祭なんて授業が潰れるぐらいしか利点はないよ」
「文化祭って、これぞ青春って感じじゃん」
ぶんかさ~い、ぶんかさ~い、と四拍子で口ずさみテンションが高い。
文化祭の話をしながらペンを走らせ方程式を解いていく。
入り相が過ぎたころ、ドアが開き看護師さんがもうすぐで面会終了時間だと告げた。
「またな」
「今度は四日後に来て」
「随分間が開くな」
「それまで実行委員に集中してね」
「分かったよ」
病室を後に霧雨は心配してくれたのだと気づく。そこには彼女なりの配慮があって気遣いがある。
そのおかげで今は不安に駆られることはないだろう。
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