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1 まだ空は明るいですか?

「おーきーろーッッ!」


甲高い神沢ナツキの声が家中に響き渡り惰眠を許してはくれない。


「お兄ちゃん、眠いからほっといてくれ……」


「時間ないから早く起きろッッー!」


掛け布団とともにベッドから落とされ、カーテンを勢いよく開け慈悲も容赦もない現実を突きつけるように朝日が照らしてくる。


「ご飯は食卓に置いてあるから、あと薬も忘れずに持つこと」


「ああ、分かったよ」


あくびをしながら適当に返事をする。廊下を走る音とともに「行ってきまーす」とナツキの声が聞こえる。


今年中二の妹、ナツキは兄とは違い部活動に汗を流し青春の真っただ中にいる。


夕食中に「明日から朝練が始まる…ハァ」と不満げにぼやいていた。それはきっと不満ながらもやりがいを感じている証拠だ。


妹に起こされて寝坊するわけにはいかない。冴えない頭を起こしながら二度寝を誘う布団の誘惑を振り切りリビングへ。


食卓にはかなり手の込んだサンドイッチと薬がおいてあった。ありがたくおいしい朝飯を食べ学校へ向かう。


家から自転車で十五分の学校までは南街道を駅から商店街へ。


空色一色に澄み切った空からは春から夏に変わることを示唆しているようだ。


いい天気にいい気温、ゆったりと流れる春風により快適なサイクリング日和。


商店街通りを抜ければ百メートル以上も続く桜並木が見えてくる。


桜森高校のシンボルである桜並木は創立記念に学校を覆うように植えられ春には校門から生徒玄関に花びらの絨毯を作る。


五月雨の今は咲き終わった寂し気な桜並木が静かに生徒を迎えているようだった。



                      ※



クラスのホワイトボードにはテストの順位一覧表が張り出されていた。


今のご時世には珍しい掲載発表。一教科ごとの点数まで事細かに開示される。


だから誰が学年一位だったとか私は何点だった、みたいな会話で溢れいつも以上にうるさい。


「おはよー、またまた学年五位おめでとさん」


席に着くなり隣の席の如月が声をかけてきた。


中学が一緒であり二年連続で同じクラスになったため気づけば話すようになっていた。


「何かあったのか?今回は特に騒がしいな」


「シオンはさ、霧雨ミホさんって知ってる?」


「知らないな、有名人か?」


「実はね、今回の学年一位が霧雨さんなんだよ!」


胸を張り自慢げに語っている。


別に学年一位が霧雨?さんでも不思議でもない。学年一位が毎回同じ人の方が珍しいのだから。


「それで私は霧雨さんを知らなかったからどこのクラスの人なんだろうって友達と話してたんだけど誰も

知らないし…」


クラス副委員長をしてる如月が知らないのだ。クラスメイトの名前も曖昧な僕が知ってるはずもない。


「それでそれで、もしかしたら転校生かもって盛り上がってるんだよ」


男子は美少女に、女子はイケメンに期待を寄せているわけだ。


青春謳歌というべきだろう。


「シオンは可愛い子に転校してきて欲しくないの?」


「まぁきて欲しいけど、この時期に転校の可能性は低いぞ。まだ新学期始まって間もない」


今日は五月十四日、この時期に転校。謎の転校生が来ることになる。


「うーん、もしかしたら何か事情があったのかも」


うんうん、と頷き納得しているがどんな事情だよ。


「もしかしたら友達がおらず皆が知らないだけかもしれない」


「高二にもなって友達いないのシオン以外いるわけないじゃん」


「偉人曰く本は心の友と言うぞ」


如月が憐みの目でハァとため息して


「そんなんだから友達作れないんだよ」


正論で返す言葉がない。


確かに高校二年生にもなって友達できないのは僕だけかもしれない。


チャイムが鳴り担任の佐伯先生が教壇に立つ。クラス全体が静かになり日直のあいさつで朝のホームルームが始まった。


佐伯が一日の予定と連絡事項を言い終わると一旦は静かだったクラスがざわめき始める。


その流れでクラス委員長のお調子者が周りの期待を背負い先生に質問した。


「先生、霧雨さんって美人の転校生ですかー?」


クラス全体から笑いが溢れる。その質問を予想していたのか佐伯は完璧な受け応えをした。


「霧雨さんは去年病気で出席日数が足りず留年したクラスメイトだ。あと一か月もしたら来れると思うからその時はよろしく頼む」


その言葉と同時に朝のホームルームは終了した。



                     ※



クラス担任の佐伯先生はかなり若い。実年齢は知らないが見た目は20~25といったあたりだ。


だがその年に反し校内ではかなりの存在力がある。生徒会担当、学年主任、将棋部顧問などの仕事をこなし、数学の教科担任でありクラス担任でもある。


「何故呼ばれたか自覚はあるな」


「部活の件ですね」


ゆっくりと先生を見る。今日は放送で呼ばれるぐらい怒りが蓄積して険しい顔で叱咤を受けると思ったがそうではないらしい。穏やかな表情で少し考えているようだった。


「そろそろ、部活に参加したらどうだ」


数分の沈黙。放課後の職員室はとても静かで僕は異質だ。


「その年で挫折したら絶望で立ち直れないのはわかる。だが若いからこそやり直すこともできる」


一つの溜めもなく決まり文句のように淡々と言われた。


だが目をそらしてしまえば、逃げてしまえば挫折することも自分に失望することもない。


「君の意思は変わらないか…」


「何度聞いても結果は変わらないと思います」


「顧問の前でよく言えるものだな。それは本心から思っているのか?」


「……」


「まあいい、この件は黙認してやるから少し頼まれてくれないか」


「一体、何をさせる気ですか?」


嫌な予感がした。悪い予感に限って昔からよく当たってしまう。


「そう構えなくて大丈夫だ」


「その頼みごとの内容は何ですか?雑用、雑用、雑用ですか?」


これまでの嫌な経験が物語っている。きっと雑用に使われると。


「残念ながら外れだ。頼みごとの内容は…」


歯切れが悪くなる。悩んでいるのだろうか。


「どうかしましたか?」


「いや、朝話した霧雨ミホのことは覚えているな」


「確か留年生の?」


「そうだ、霧雨に勉強を教えてやってはくれないか」


「はい?」


唐突なお願いと疑問で少しの間呆気にとられていた。



初投稿で緊張しながら書いております。脱字などありましたらコメントなどで教えていただけるとありがたいです。

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