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それもまたシャツ生

 

 

 

 最近、思うことがある。


『……』


 補欠合格の補欠期間は、いったいどれほどなのだろうかと。


「シルヴィア?」


 もし、補欠として天使になることになったら、例えば今まさにでも、わたしは死ぬことになる。もし、戦場の最前線にいたとしても、ハデスを置いて消えることになるのだ。


「シルヴィア、着るぞ?寝ているのか?」


 戦場に、たったひとり、ハデスを残すことになる。


『ふあっ』


 考えごとの途中で身体が浮いて、ぎょっとする。


「な、なに?」

「起きたか」

「寝てないよ」


 初めて会ったときより大人びたハデスの顔が、目に入った。


「そうか?答えがないから、寝ているのかと思ったが」

「え?呼んでたの?気付かなかった」


 あれから、四年。天界からのお声掛りもなければ、戦争の終わりも見えない。


「具合でも悪いのか?いや、精霊に体調はあるのか?」

「いや、具合は大丈夫。ちょっと考えごとしてて」

「考えごと?」


 天界から見れば、四年くらい、たかが、かもしれない。

 だが、ひとから見れば四年は長い。四年あれば、大勢が死ぬ。


 もう、わたしの補欠期間なんて、終わったんじゃないか?


「ねぇハデス」

「なんだ」

「精霊って、死ぬの?」


 せめて補欠でなくなったことくらい伝えに来てくれよと思いながら、ハデスに問い掛ける。心構えがあるかないかは、大事だろう。


「さあ」

「わからないんかい」

「聖具から精霊が消えることはある。だが、それが死んだからなのか単にどこかへ行ってしまっただけなのかは、わからん」


 精霊は気まぐれだからなと、ハデスは呟いて、


「それがどうかしたか?」

「んー、精霊のいなくなった聖具はどうなるの?」

「しばらくは加護があるから、お守り程度にはなるな。だが、いずれ壊れる」

「ふーん」

「なんだ、お前も、去るつもりか?」


 やめてよ、そんな顔で見るの。


「去る気はないけどさ、やむを得ない事情とか、あるじゃん」


 転職とか、転生とかさ。


「やむを得ない事情があるのか」

「その可能性もあるってこと。だからさ、もしわたしがいなくなったら、気にせず次の聖具を探してね。結構功績挙げてるし、良いのも貰えるでしょ?」


 ハデスの眉間に、深く皺が寄った。

 ああ、最近はあまり寄らなくなって来ていたのに。


「お前以上の聖具など存在しない」

「戦場で不殺ころさずを二つ名にされる聖具は、どうかと思うよ?」


 あのとき話し掛けたのが、間違いだったのかもしれない。シャツの柄はシャツの柄らしく、黙って大人しくしていれば。


「……どこにも行かないでくれ、シルヴィア」


 そうすれば、離れがたい、なんて気持ち、知らずに済んだ。




「お前」


 目の前で倒れ伏す魔物を見下ろして、ハデスは言った。


「規格外過ぎる!!」

「わ、わたしだって予想外だよ!?」


 悪くない!わたし悪くない!と、必死に主張。


「予想外だろうが、なんだろうが、魔王を瞬殺は、ない」

「殺してないから!」


 ハデスとわたしの名は広く轟き、ついには魔王との決戦を委ねられるほどになっていた。

 そしてこちらが、倒された魔王でございます。って、三分クッキングかよ。


「と、とにかく、どうするの?」

「殺す気はない。一先ず無力化して、起きるのを待つ」

「話し合うの?」

「今までそれで、上手く行ってる」

「ハデスは馬鹿だなぁ」


 ここで殺しておけば、勇者になれるのに。

 思いつつ、重力を操って、魔王の手足を拘束してやる。


「魔法を使おうとしたら、また気絶させるよ」


 目覚めた魔王に向けた第一声だ。


「気絶させる?殺すのではないのか?」

「殺すのは主義じゃないの」

「酔狂な」


 このとき、わたしは完全に油断していた。


 だって、あれから随分経って、もう、補欠期間なんて、とっくに過ぎてるって、


『繰り上げ合格、おめでとうございまーす』


 その声が聞こえるまでは、そう思っていた。




「やあ、久し振り」


 すちゃ、と片手を挙げて、天使採用試験管理室のお姉さんが言う。


「お久し振りです……」


 あの状態で引き抜かれたことに心底動揺しつつも、なんとかそう答えた。それに気付いたらしいお姉さんが、苦笑して言う。


「ああ、心配しないで」

「え?」

「問題が起こらない程度に、修正はしてるから」


 ぽかんとするわたしの肩を、お姉さんがぺしぺしと叩いた。


「きみ、生きもの一体にしては影響力あり過ぎ。うっかりすると世界が滅びかねないレベルだったから、ちょちょっと事情説明とか、加護の付与とかして、事なきを得たの」

「……じゃあ、ハデスは」

「きみが使えてた力を受け継いでるし、きみがいなくなったのは、どうしようもない事情によるものだと理解してるよ。ついでに、きみの願いが世界平和であることも教えてある」

「いやわたし、世界平和とか望んでませ、」

「きみが消えたことで彼が壊れて魔王化する可能性があったとしても?」

「ヘイワナセカイッテ、スバラシイナァ!」


 おいハデス、なにをやらかそうとしてくれちゃってるんだ。あなた、わたし以上に平和主義だったはずでしょうが。


「ありがとうございます、本当に」

「感謝してる?」

「ええ、とても」


 頷くと、天使採用試験管理室のお姉さんは、いとにこやかに微笑んだ。


「じゃあ、天使になって馬車馬のように働いてね!」

 

 

 

拙いお話をお読み頂きありがとうございます

続きもお読み頂けると嬉しいです

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