第8話 不弥国攻略戦 海道攻略
後書きに参考地図を入れました。
不弥国進攻 前日
奴国 王都 軍議の間
王である帥升が入場し、席に着く。
王の右側に丞相である智恵が、左側に軍師長である悠希が立つ。
「始めよ」
帥升が開始を促す。
「いよいよ、明日不弥国攻略戦を開始する。これより海道攻略の編制を発表する」
総隊長:神威元帥
参謀:悠希軍師長
第1陣:玄武隊 500
隊長:玄武大佐霧也
第2陣:朱雀隊 500
隊長:朱雀大佐朱音
第3陣:青龍隊 500
隊長:青龍大佐美鳥
遊撃:白虎隊 500
隊長:白虎大佐白斗
本陣:近衛隊 100
隊長:希鈴少将、副隊長:博見大佐
「基本戦術は、2ヶ月前に話をした通り。玄武隊が壊し、青龍隊が止めを指す。朱雀隊は援護にまわり、白虎隊は遊撃だ。隊の連携が初戦の海道攻略の鍵になると心得よ」
「「「「はっ!」」」」
「敵はまずは海道の外、海の道の出口付近で待ち構えてくるはずだ。兵力差があるため突破は容易となるだろう。突破後は逃げる兵を追うことなく海道に向かう。後は随時変化に合わせて指示を出す。それと略奪行為は一切禁止する各隊徹底しろ、もし破ったら楽には死なせんぞ」
「「「「「はっ!」」」」」
かくして、不弥国攻略の初戦、海道攻防戦が始まる。
決戦当日 不弥国サイド
すでに、各将はそれぞれの配置場所に移動しており、開戦を待つばかりであった。
塩椎は丞相府にて、緩やかに増加傾向にある国民の統治について頭を悩ませていた。
久久能智は相談にのると称して丞相府に顔を出していた。
「軍師よ、今日にも開戦をするかも知れない情勢でこんなところにいても良いのか?本来ならば、犬鳴山辺りで指揮をとるべきでは?」
「問題ないわ、奴国の力と行動は把握済みよ。そんなことより、何にそんなに頭を悩ましているのかしら?」
「…我が国の人口は約20,000~25,000人位になっている。問題は正確な人口が把握出来ていないことで、それにより生じる不都合がある」
「年貢や徴兵の誤魔化し。ただ我が国の収入は充分であり、兵力も足りていると思うけど?」
「正確な人口がわかれば適切な年貢や徴兵の割合にすることが可能であり、不正を働く者と真面目な者との差をなくし、平等に管理出来ることになる」
「確かにあなたのいうとおりね、でも、不正を働く者は私の木霊達によって摘発しているわ」
「目に見えない形での管理・監視では全てを把握するのは不可能だよ」
「あら、木霊達の力を過小評価しているのかしら?」
「あまり過信するなと言うことだ。年貢や徴兵のことだけではない、密入国者の発見も難しいのが現状だ。遅いかも知れないが、この防衛戦後、国内の管理体制を見直すことにするよ」
「私に許可なく勝手なことをしてほしくないのだけど?」
「内政の管轄は丞相府が持っているのでな」
「くっ…、覚えてらっしゃいね」
久久能智は捨て台詞を残して、丞相府を後にした。
「…もう少し人としてのあるべき姿について教えるべきだったか。自分が育てたもののみを信じ、自分の否を認めない。そんな者の末路は…」
同時刻 不弥国 海の道の出入り口。
迎え撃つは、不弥国 四大将軍 葉槌。
「みんな、準備はいい?」
「はい、迎え撃つ準備は出来ています」
「よし、みんな生き延びてまた会おう!」
「「「「「はい!」」」」」
奴国 南部地区 海の道入口付近
いよいよ、不弥国への復讐の時が来た。
悠希の中にどす黒い感情が渦巻く。
どいつもこいつも破壊してやる。
不弥国などただの通過点にしか過ぎん。
全て破壊し尽くしてやる!!
「…き…、…きよ…、悠希よ!」
「っ。神威さん、何か?」
「…大丈夫か?」
「申し訳ありません、少し気が高ぶっていたようです。もう大丈夫です」
既に準備が整っているようだ。
幻夢よ、いるか?
ハッ!
北の手配はどうなっている?
問題なく進んでいます。
後は狼煙が上がれば一斉に…
よし、こちらの出撃と合わせて狼煙をあげろ。
ハッ!
「では、元帥。出陣しましょう」
ちなみに、先の幻夢と悠希の会話は、回りはともかく神威にも聞かれていない。幻夢くんの気配を断つ技量は半端ないのだ。
「皆のもの、聞くがよい。いよいよ、我が国不弥国への進攻を開始する。諸君も思うところはあるだろう!もう遠慮することはない、存分に暴れるがいい!!出陣!!」
オオオオオオッッッッ~!!!
まずは、玄武隊が突撃する。
その左右に2手に分かれた朱雀隊が並走する。やや朱雀隊が先行しているか。
不弥国側の弓の射程に入る。
「玄武隊はここから先は全力で駆けつつ防衛柵を撤去する!弓ごとき全て払い落とし可及的速やかに撤去せよ!!行くぞ、全力前進!!」
オオオオオオッッッッ~!!!
「朱雀隊!目標、敵陣中央部。投石準備!」
一方、不弥国陣営。
「来たよ。弓隊、斉射準備!!」
葉槌指揮の下弓隊が斉射準備に入る。
「まだだよ、もう少し引き付けて…今だ、斉射!!」
バババババババッッ
弓が一斉に放たれる
「投石放て~っ!」
ビュン、ヒュッ、ビュン、ビュン…
ほぼ同時に、朱音が号令を発し、投石器により拳大の石が放たれる。
「次、弓。目標敵陣中央部の少し奥。斉射準備出来たものからどんどん放て~っ!」
朱音は続けて指示を出し、奇しくも葉槌も同じ指示を出す。
「次、準備出来次第、どんどん続けて!」
そんな中、霧也率いる玄武隊は。
「怯むな、突っ込め~!」
オオオオオオッッッッ~!!!
巧みに矢をかわしさらに間合いをつめていく。
そして、ついに柵の一部が破壊され穴が開く。
それを見た青龍隊 美鳥はチャンスとばかりに、突撃命令を下す。
「よし、今だ。青龍隊、突撃~っ!」
ウオオオオオオッッッッ~!!!
破壊された柵を目掛けて、青龍隊が一気に突進する。
「不味いわね…。弓隊は後退せよ!長槍隊は前に防衛陣を構築。歩兵は左右に展開!まだまだいける、頑張るよ!」
ウオオオオオオッッッッ~!!!
不利を悟った葉槌は、弓隊を後退させ、長槍部隊を中央に配置、左右を歩兵で固める。
「どけどけどけ~っ!」
ビュンビュンビュン!!
青龍大佐美鳥が、自身の槍をブン回しながら不弥国長槍隊に風穴を開けていく。
チッ、まるで嵐のようね。化け物が!
葉槌は美鳥の圧倒的な武力を見て呟く。
そして。
「私が出る!」
葉槌は先頭になって突っ込んでくる美鳥に向かって挑みかかる。
「私は不弥国四大将軍がひとり葉槌!いざ勝負!!」
葉槌は長剣を上段に構え美鳥に迫る。
「上等、私は奴国青龍隊隊長美鳥。いざ勝負!」
美鳥は槍を構え迎え撃つ。
葉槌は諸手左上段、美鳥は中段半身の構えで互いに間合いをつめる。
間合に接したとき、美鳥が入身になろうとする。
すると葉槌は右足を踏み出すと同時に、諸手左上段から美鳥の正面に一気に打ち下ろす。
美鳥は左足を左斜め前に、右足をその後ろに進めて、体を左に開くと同時に、葉槌の剣を頭上で受け、そのまま槍で受け流して葉槌の正面を打つ。
ドカッ…
美鳥は、さらに左足から1歩ひいて上段にとって残心を示す。
葉槌はその場にゆっくりと崩れ落ちる。
「不弥国将軍 葉槌、討ち取った~!降服するものは武器を捨てよ。さもなくば、殲滅する!」
美鳥は大音声で、不弥国兵に告げる。
「将軍~!! ちきしょうがぁ~!将軍の仇だ!みんな死んでも殺せ~!!」
ウオオオオオオッッッッ~!!
「よし、刃向かうものは殲滅せよ」
オオオッッッッ~!!
一方的な殺戮が展開されていた。
それを悟った不弥国葉槌隊の副隊長は、遅蒔きながらが指示を出す。
「くっ、全軍退け~!」
残った不弥国兵士を殲滅した奴国軍。
「このまま海道に向かう。順次進め!」
「「「「「はっ!」」」」」
海道へは僅かな距離なので、すぐに砦が見えてきた。
「全軍、初戦と同じ体形で待機。警戒を怠るな!」
全軍に指示を与えた悠希は、少し考えて。
「鴉魔、いるか?」
「はっ、これに」
「不弥国側の生き残りはどこに向かった?」
「海道のやや北海岸沿いにある林です」
「白虎大佐 白斗をここに呼べ!」
「はっ、直ちに」
近くにいた伝令兵を白斗のもとに送る。
「悠希よ、何か気になることでもあるのか?」
「神威さん、いや先程の戦いで一部の兵の撤退がスムーズだったんですよ。もしかしたら、事前に指示が出ていた可能性があります」
「撤退と見せ掛けて、機を見て背後から仕掛ける…か?」
「鴉軍も撤退した兵が同じ場所に集まりつつあるのを確認していますし、間違いないでしょう」
悠希と神威が話をしていると、白斗が到着した。
「軍師長、お呼びとのこと」
「白虎隊を連れて、海道の北部にある林に行くように。恐らく撤退した不弥国軍がいるはずだ。これを殲滅せよ」
「はっ、直ちに」
「鴉魔、鴉軍から道案内をつけよ」
「はっ」
これでよし。
そうしたら、海道の攻略に移りますか。
葉槌を討ち取ったから、ここには将軍クラスはいないな。
ただ、なかなか知恵の回るやつがいるようだな…。
幻夢よ、誰かな?
恐らく野椎と申すものかと。
へえ、使えそうなネタは?
情に脆いところがあるのと、香椎の岩槌とは恋仲です。
…覚えておくよ。ありがとう。
いえ。
「さて、神威元帥。海道を制圧しましょう」
「うむ」
悠希は、全軍に聞こえるような大音声で告げる。
「全軍に告ぐ。只今より海道攻略を開始する。やることは先程と同じだ。各自の奮闘を期待している」
オオオオオオッッッッ~!!!
遠くから、玄武大佐霧也が悠希を見ている。
悠希がひとつ、頷くと…。
「玄武隊、出撃用意」
それに呼応する形で、朱雀大佐朱音も。
「朱雀隊、出撃用意」
「「出撃~っ!!」」
ウオオオオオオッッッッ~!!!
行くぜぇ~!どりゃ~っ!
はっはっは~っ!
先の戦いでの大勝により、士気は最高の状態であった。
「来たわね、葉槌の仇きっとうつ」
野椎は迫り来る奴国軍を見つめ、決意を新たにする。
「迎撃準備、投石・弓、構え~っ!」
まず第1の罠。
先勝に浮かれた頭で対応できるかな?
「今だ、火を!」
もう少しで投石、弓の間合いに入るかと思われた時、野椎は合図を送る。
ボッ!ブワ~ッ一気に火柱が走る!
「なっ!なにぃ!?」
まさに、玄武隊と朱雀隊が通過しようとしていた地面から火柱が上がる。
事前に野椎が命じて燃えやすい枯れ葉などに油をつけて道を作っていたのだ。
虚をつかれた奴国軍の足が止まる。
「投石、弓隊、放て~っ!」
ビュンビュンビュン!!
バババババババッッ!!
うわぁ!ぎゃっ!
「続けて、どんどん放て~っ!」
オオオオオオッッッッ~!!!
ドーン、ドーン、ドーン!
「ん?ひっ退け~!」
悠希は、劣勢とみるや、躊躇せず退却の太鼓を鳴らさせた。
引き上げて来た、玄武隊、朱雀隊に傷の手当てと小休止を、青龍隊には警戒をするように指示をして、霧也、朱音を呼び出した。
「「申し訳ありません」」
霧也、朱音は、頭を下げる。
「頭をあげろ。半刻後に再度しかける。戦えないものは、後方支援に引き取らせよ」
「はっ。…あのよろしいので?」
「ひとつひとつの勝敗は別に気にしないよ。今回は相手がうまくやっただけさ、私も読みきれなかったしね。ひとつ、苦言を呈するならば、あの場で足を止めるようなことは今後しないことだ。あそこは一気に行くべき局面であり、そうすれば被害を最小限におさえられたはずだ。覚えておいてくれ」
「「はっ、二度と繰り返しません」」
霧也、朱音が自分の隊の元に戻る。
暫し休憩。
「悠希様!」
「うぉっ!」
鴉魔があらわれた!
神威はビックリした!
「…。神威さん、少し慣れて下さいね。で、鴉魔、どうした?」
「はっ、白虎隊が敵を殲滅。まもなく帰還します」
鴉魔が、北に隠れていた不弥国兵を殲滅したようだ。
殲滅…、容赦なしだな。
「よし、白斗には帰還後、ここに来るよう伝えよ!」
「はっ」
…悠希様。
幻夢か。
海道の砦工作完了しました。
こちらから見て正門よりやや右手の位置です。
ご苦労。
それと、敵火計の跡地より50歩ほどの距離に罠があります。どうやら足場が悪く、走っての移動で足をとられるようになっている模様。
対策は?
知ってさえいれば問題ないかと。
それもそうだな。よし、下がれ。
はっ!
「悠希様、白斗、参上いたしました」
「ご苦労様、白虎隊の被害状況は?」
「一部の者に軽傷があったのみです」
「よし、白虎隊は海道の裏手、香椎方面の道に兵を隠せ。海道が落ちたら香椎に撤退するはずだ、そこを捕らえよ!」
「はっ!直ちに移動します」
「おっと、宗像方面に進むと見せてから、香椎方面に戻るようにな」
「なるほど、香椎方面に向かうのを悟らせないようにですね。承知いたしました」
さて、これで香椎攻略も目処がたったな。
そろそろ時間だ。まずは海道を攻略するか。
「各隊隊長を集めよ!」
伝令が各隊に走る。
さほど時間もかからず各隊隊長が集まる。
「いいか、先程の火計があった付近から約50歩のところに敵の罠がある。足元が悪く、足がとられやすくなるものだ、予めわかっていればとくに問題なかろう。全員に周知せよ」
「「「「「はっ!」」」」」
「今度こそ一気に海道を落とすぞ。玄武隊、狙いは正門のこちらから見て正やや右よりだ。予め工作隊により脆くなっているので一気に突き破れ!」
「はっ!」
「朱雀隊は援護、青龍隊は待機」
「「はっ!」」
「直ちに準備せよ」
「「「「「はっ!」」」」」
各隊隊長が持ち場に着くのを見計らい、悠希は、突撃の太鼓を鳴らさせた。
ドーン!ドーン!
「玄武隊、先程の汚名を返上するのだ!行くぞ、全力前進!!」
オオオオオオッッッッ~!!!
「朱雀隊!進め~っ!」
オオオオオオッッッッ~!!!
「来たよ。弓隊、斉射準備!!」
葉槌指揮の下弓隊が斉射準備に入る。
「まだだよ、さっきの火の跡が目安だよ。もう少し引き付けて…今だ、斉射!!」
バババババババッッ
弓が一斉に放たれる
「投石放て~っ!」
ビュン、ヒュッ、ビュン、ビュン…
ほぼ同時に、朱音が号令を発し、投石器により拳大の石が放たれる。
「次、弓。目標敵陣中央部の少し奥。斉射準備出来たものからどんどん放て~っ!」
朱音は続けて指示を出し、奇しくも葉槌も同じ指示を出す。
「次、準備出来次第、どんどん続けて!」
そんな中、霧也率いる玄武隊は。
「怯むな、正門よりやや右手だ。突っ込め~!」
オオオオオオッッッッ~!!!
「ん?正門からズレてる? なんで?」
野椎は奴国軍が正門ではなく微妙に左手にズレていることに気が付いたが、理由がわからないまま敵が近付いてきた。
その時、ドンッ…
地響きがし、砦の1角が崩れ落ちた。
「これを狙っていた?なんてこと、いつの間に?」
崩れ落ちたのは奴国軍が目指している正門の左手だ。奴国軍の仕業なのは明白であった。
「まずい、全軍撤退する。香椎まで退け~!」
野椎の撤退命令と同時に、奴国玄武隊が突入に成功した。
「神威元帥、ここはお任せしても?」
「追撃か?わかった、ここは近衛隊と私に任せろ!」
「後方支援の弥都波に連絡して、乃愛にでもここを任せてしまって下さい。その後、香椎で合流願います」
「承知した」
ふぅ、なんとか今日中に海道を攻略出来たか。
宗像、北九州も、今頃落ちてるかな。
情報が封鎖出来ていれば良いのだが。
海道攻略が完了し、悠希は、近衛隊を残して、香椎に向かった。