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第6話 不弥国

不弥国ふみこく

所在:筑紫島北東部

国主:多模(たも♂)

人口:20,000


王太子:羽矢火(はやひ♂)

四大将軍

├ 水虬(みつち♀)

├ 軻遇突智(かぐつち♀)

├ 葉槌(はつち♀)

└ 磐土(いわつち♂)


丞相

└ 塩椎(しおつち♂)


軍師

├ 久久能智(くくのち♀)

└ 野椎(のつち♀)


-----


不弥国 王都 直方


軍議の間にて


「久久能智よ、奴国が騒がしくなって来たようだな?」


「そのようですね、陛下。まあ、いつまでも大人しくしているとは思いませんでしたけどね」


「攻めてくるとして、動員規模はどのくらいで、いつ頃来ると予想する?」


「動員規模は、奴国の人口から考えておおよそ2,000から2,500。2ヶ月後の下弦の月の頃に仕掛けてくるでしょう」


不弥国の諜報部隊である『木霊』の調査により、奴国の人口がおよそ20,000に達していることは把握済みであり、動員規模もそこから想定出来る。


奴国から不弥国に至る道は、潮の満ち引きによって、海に沈んだり浮上したりを繰り返す道である。

満月、新月の際は満潮の時期となり、半月の時期が引き潮の時期であり、道が開ける。


さらに、田植えの時期を考慮すれば、2ヶ月後の下弦の頃がギリギリとなる。


「対策は?」


「海道に葉槌、香椎に磐土、久山に水虬を配置します。また、海道には野椎を軍師として補佐させます。まあ、海道のみで問題ないでしょうが」


「確かにあそこは半月の時にしか道は開けぬし、その間のみ耐えればよい。問題はないか」


「あと考えられるのが、我が国に根をはる草共との呼応ですね。むこうさんとしては、攻撃開始と共に、蜂起させ挟み撃ちしたいと考えるでしょうね」


「それはまずいな」


「わかってさえいれば対策を立てることは出来ます。すでに木霊達は草の所在を把握しています。蜂起したらすぐに焼き払うとしましょう。軻遇突智よ、犬鳴山に陣を敷き、異変があり次第すぐに制圧せよ」


久久能智はニヤリと笑い、軻遇突智を見る。


「承知。お任せを」


と軻遇突智が応じる。


「さすがだな、久久能智。これでひと安心か?」


「はい、なんの問題も御座いません」


「久久能智、少し良いか?」


これまで大人しく話を聞いていた王太子羽矢火が、口を開く。


「羽矢火様、何か?もう方針は決まりましたが?」


久久能智は不満気に答える…


久久能智は、いわゆる神童である。


知識は学んだことの理解は当然ながら、さらにそこから導き出される様々なことまで理解する。


1を学んで10を知るが当たり前であるように。


さらに、武術にも才能があり、特に槍を手にすれば四大将軍をもしのぐ実力を発揮する。


一方、そんな久久能智をもしのぐ才能を持つのが羽矢火である。


久久能智は羽矢火が苦手…むしろ嫌いであった。


「久久能智、その態度はなんだ!!」


羽矢火よりの将軍である水虬は、久久能智の態度に憤る。


が…


「水虬よ、黙っておれ、お主は関係なかろう」


多模が水虬を制する。


多模は久久能智を登用してから、まるで魅入られたかのように、何かにつけ目を掛けてきた。


それまで不屈の精神を持つ男として名を馳せていたが、まるで人が変わってしまったかのように。


「しかし…」


「水虬、良いのだ」


しぶしぶ引き下がる水虬。


「ふん、腰巾着が。大した能力も無いくせに、身の程を知りなさい」


「貴様!!」


「二人とも黙れ、王の御前だ。それに私から見れば、久久能智よ、お前もたいして変わらん」


「クッ…」


「おい、羽矢火。久久能智に失礼であろう。謝るがよい」


「…話を続けるぞ。北の方が少し騒がしいようだが、こちらへの対策はいかがするつもりだ?」


「北ですか、木霊達の報告によれば騒ぎがあったのは事実だけど、既に鎮火しているとのことですが?」


「まだ、鎮火していないと思うがな。鎮火しているとのいうのならばどういった騒ぎがあったかは把握しているのだな?」


「大陸からの難民が流れ着き、住民と小規模な争いがあったとか。まあ、巡回中の警備隊により争いは収まったとのことですが」


「その難民は、今どうしている?」


「今は大人しくなり、大陸の技術も惜しみなく供出しているようですね。木霊達の報告では、怪しいところは見当たらないとのことです」


「奴国の関与の可能性は?」


「あり得ませんね」


「理由は?」


「木霊達によれば、奴国の諜報部隊は海に阻まれ、我が国に侵入出来ていないとのこと。また、大陸からの難民は大陸語を話していたとのこと。それが争いの原因ともなりました。奴国が大陸との繋がりがあるという報告は受けていません。先にも申したとおり、北の騒動は解決済みで、奴国の影はありません。国内に入り込めなければ、策をこうじることも出来ないでしょう」


「もうよい、羽矢火よ。久久能智の言うことは全て正しいのじゃ。そうそう、邪馬台国にも奴国の動静を伝えておけ。いざという時の備えとなろう」


「…承知致しました」

(この色ボケじじいが!)


「久久能智よ、お前に対奴国防衛戦の全ての権限を与える。見事期待に応えてくれ」


「はっ、かならず」


-----


解散後


葉槌、磐土、野椎の3人は集まって話をしていた。


「ねぇ、のっち。今回の奴国迎撃作戦、不安しかないんだけど?」


「くくと羽矢火様の言い争いなんていつものことだよ。気にしたって仕方ないよ」


「そうなんだけどね。今回のことは国の存亡にかかわることでしょ。奴国の諜報が侵入出来ていないという見方は、ただの理屈だよね?」


「しかし、正しいものの見方だ」


「なんだか、赤い人が言いそうな台詞だわ…。でも、やけに説得力がある」


「赤い人は正義だからね」


「二人とも話が良く見えないよ?」


「何、いわっち?」


「…いや、いいや」


「どちらが正しいにしろ私達が海道を通さなければ良いだけだよ」


「確かにな」


「具体的にはどういう作戦で行くの?」


「はっちゃんは、海道の外に陣を敷いてもらうもらうね。出入り口付近で足止めして」


「わかった。一兵たりとも通さない」


「いや、無理はしなくていいよ。適当に相手を削ったら左右に別れて後退して」


「ん?じゃあ、その後は?」


「敵は早く海道を制圧したいはずだから、追撃はないわ。後退後、機を見て海道に攻撃中の奴国を後ろから攻撃して」


「なるほどね、了解したよ」


「いわっちは、香椎だよね?最悪は海道は放棄する。その時は間違いなく奴国は香椎に攻めてくる。なんとか持ちこたえて、海道の戦力を外からのゲリラ攻撃に転用するから」


「わかった。なんとか頑張ってみるよ」


「みんな生き延びてね?ここで力を示せば…」


「「うん、頑張るよ」」


-----


一方、羽矢火は。


まず間違いなく木霊は取り込まれてる。


久久能智はプライドが高いから自分の配下が取り込まれているなんて認めないだろうな。


ましてや、自分が読み違えてるなんて思ってもないだろう。


軍師の仕事は疑ってかかることだろうに。

疑う対象には自分自身も含まれることに気が付かないものか。


これは万が一も考えておかないとまずいな。


いっそのこと、親父を引退させ、王位を継承するか?


いや、そんなことしたら国が割れるか。

ここまでになってしまったのは、王族である私にも責任はあるか。


なんだか、めんどくさくなってきたぞ。


「磐船、いるか?」


「はっ、これに」


磐船(いわふね♀)

羽矢火の部下であり、影となる人物。


「今回の奴国との戦は間違いなく破れるであろう」


「しかし、海道を突破出来ますか?なんたかんだで、葉槌、磐土の防御力は高いものがありますし、野椎のサポートもつきますし」


「兵力の差が大きすぎる。また、狭い地域とはいえ、守りきるにはもう少し兵力が必要だよ。そして久久能智がつかんでいる草の存在はダミーだな。本命は他にいるはずだ、海道占拠後の策が読めない」


「そこまでわかってて進言…、いや無駄…ですね」


「久久能智は聞かないよ、王も…な」


「ならば我らがとる道は?」


「逃げるとするか…、この国は変わってしまった。既に愛着もない、余生をゆっくり過ごせるところへ行こう」


「羽矢火様の思うままに」


「もうじき奴国との戦争が始まる。それを契機として、西の大陸に渡る手筈を整えよ。また、渡った後の生活で不便の無いようにそちらの準備も平行して行うように」


「はっ」


-----


邪馬台国 王の間


トントン…


「天照(あまてらす♀)様、よろしいでしょうか?」


「蛭女(ひるめ♀)か…、入れ」


「どうやら、奴国で動きがあるようです」


「計画とのズレはどの程度だ?」


「今のところズレは微小かと」


「微小の詳細は?」


「奴国軍師長悠希ですが和魂の力が想定よりやや強くなっているようです」


「丞相智恵の影響…か?」


「おそらくは。後は元帥の神威の影響も出ているかと」


「神威だと?ノーマークだな。次の伊都国での戦いで排除するか…。智恵については今しばらく様子見だな。北筑紫の情勢は?」


「奴国王太子がこちらの思惑通りに動いていますね。住吉三姉妹を取り込んで、北筑紫に着実に根をはっています」


「一部経過観察もありつつ、順調ではあるか…。やはり気になるのはあの二人か、関与している形跡はあるか?」


「今のところはないとしか。ひとりは比較的分かりやすいお方なので関与はないと断言できますが、もうひと方は正直掴めません」


「…だろうな。よい、引き続きよろしく頼む」


「はっ」


-----


数日後

邪馬台国 謁見の間


忍穂耳(おしほみみ♂)、天穂日(あめのほひ♀)、天津彦根(あまつひこね♀)、活津彦根(いくつひこね♂)、熊野櫲樟日(くまのくすび♂)を始めとする邪馬台国の幹部達が空席の王座を中心にして左右に並ぶ。


そこに女王天照が、ふたりの巫女を連れて登場し、王座に座る。


ふたりの巫女のうちひとりが告げる。


「使者を通せ」


扉が開き、不弥国の使者が入場し、中央付近で跪く。


もう片方の巫女が告げる。


「面をあげて、口上を述べよ」


「ご尊顔に預かりまして恐悦至極に存じます。不弥国よりの使者としてまいりました鶏鵠(けいこく♀)と申します。お見知りおきを」


前置きが終わり、天照は用件を聞き出す。


「用件を述べよ」


「奴国が我が国へ侵攻する気配があります。我らが国王陛下より同盟国である邪馬台国へも伝えるよう言付かって参りました」


「ほう、帥升め。大人しく引っ込んでいればよいものを。して、多模殿は援軍をお求めか?」


「いえ、我が国のみで迎撃可能と見ています。此度の使いは、情報共有と我が国がこれから臨戦態勢に移ることをお知らせするためです」


「頼もしきことだな、情報共有感謝する」


話が終わりと天照は椅子にもたれ掛かる。

それを見た巫女は告げる。


「下がってよい、お役目お疲れさまでした」


使者が退出したのを見届けた後、天照は残る幹部達に向けて告げる。


「此度の争いは、伊都国まで含めた動乱となろう。我が国としては奴国、不弥国、伊都国の北部3ヵ国が統合された瞬間をついてこれを飲み込む。それまでに目障りな投馬国とうまこくを落とす」


続いて、巫女が告げる。


「忍穂耳よ、投馬国攻略の準備を致せ。侵攻時期は追って告げる」


「はっ」


返事を聞き届けると、天照は立ち上がり謁見の間から退出した。


-----


様々な思惑が絡む奴国の逆襲が始まろうとしていた。



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