第5話 出陣に向けての準備
模擬戦から1月が経ち、帥升は、神威と悠希を連れて練兵場を視察していた。
その練兵場では、徴兵により集められた各地区の兵士達が各々入り乱れて乱取りを行っていた。
中でも一際目を引くのが、隊長同士の申し合わせであった。
青龍大佐美鳥 vs 朱雀大佐朱音
白虎大佐白斗 vs 玄武大佐霧也
乃愛少将 vs 沙羅少将
美鳥の槍を朱音がかわし隙をついて短弓で弓を放つ。時に美鳥の突きをかわし懐に飛び込んだ朱音が剣で斬りかかる。
斬りかかられた美鳥は微塵も動揺を見せず突きを放った槍の軌道を強引に変更させ剣を防ぐ。
白斗は木刀を中段に構え霧也と対峙する。
霧也は小太刀を構えジワジワと間合いを詰める。白斗が小太刀を牽制し打ち込みにかかると不十分と見た霧也が間合いを切る。
乃愛が沙羅の正面を打ち込みにいくが、沙羅は体さばきにより躱す。すかさず沙羅が乃愛の正面を打ちにいくが、今度は乃愛が体さばきにより沙羅の打ちを躱す。
「中々、白熱した戦いだな」
「大佐同士、少将同士はほぼ互角、少将と大佐の間に若干の実力差がありますね」
帥升が感想をもらすと、神威が現時点の力差を解説する。
ふと、悠希が練兵場の一画に目をやるとそこには1人で10人の兵を相手にしている光景があった。
「神威さん、あれは?」
「悠希…、王の前だぞ」
「失礼いたしました、神威元帥」
「はははっ、良い。このメンバーでいるときくらいは気楽に話そう」
「…、そうですね。お言葉にあまえましょう」
「で、神威よ。私も気になるな、あれは?」
「元々近衛隊の副長を任せていた希鈴(きりん♀)と言うものです。自身の武力や部隊の指揮能力、戦術理解度どれをとっても優秀で、沙羅や乃愛をしのぎます」
「そんな者が黄龍の下に?」
悠希はやや意外そうに神威に問う。
「実力は黄龍を上回っていたよ、黄龍自身は気が付いていなかったけどな。後釜はこいつで良いと思っているのだが、12才という年齢が気になる」
「なるほど、では補佐をつけますか?ちょうどよい人材が参謀府にいますよ、武力はそこそこだけど指揮能力や戦術理解は抜群で、面倒見がよく人を育てるのがうまい」
「それは助かる先を見据えると希鈴の成長は我が国にもメリットが大きい」
「帥升様、いかがでしょうか?」
「二人が認めるならば問題なかろう。調度よい、ここに呼び出し顔合わせさせよ」
練兵場から希鈴を、参謀府から1人の男を呼び出す。
「お初にお目にかかります、希鈴と申します。よろしくお願いいたします」
「博見(ひろみ♂)と申します。よろしくお願いいたします」
二人が揃ったところで、帥升が告げる。
「希鈴よ、本日より少将の地位を与え、近衛隊の隊長に任ず」
「はっ、有り難き幸せ、精一杯勤めさせて頂きます」
「博見よ、お主を大佐に任命する。近衛隊の副隊長として希鈴をよく補佐せよ」
「はっ、有り難き幸せ。誠心誠意努めます」
「博見よ、よろしく頼む」
希鈴は立ち上がり博見に右手を差し出す。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
博見は希鈴の手を力強くに握って答えた。
この調子ならば、そろそろ、軍事行動を起こしても平気そうか。
幻夢。
ハッ
帥合はどうなってる?
現在、相島にて修業中であり想定より早く力をつけています。
鴉軍は旨く不弥国側の諜報部隊を取り込めていそうか?
問題なく。
わかった。
幻夢は音もなく気配を消す。
頃合いかな。
「悠希よ、如何した?」
「いえ、そろそろ立ち上がる時かなと」
帥升が緊張に震えながら、なんとか口にする。
「ならば…」
「はい。半年後、我が奴国は不弥国攻略に動きます。その為の軍議を開きましょう」
奴国 王都 軍議の間 ~
参謀府より悠希、丞相府より智恵、理恵、元帥府より神威、希鈴、沙羅、乃愛、美鳥、朱音、白斗、霧也、博見が集まった。
そこに、王である帥升があらわれる。
帥升は席に着くと悠希に開催を促す。
「始めよ」
それを受けて、悠希は話を進めていく。
「我が国は、半年後に不弥国に対して進攻を開始する。まずは各々に指示を出すので準備怠りないように」
「おおっ、いよいよか…」
「神威元帥、不弥国攻略の戦術について相談したい。しばらく参謀府への出仕をお願いします」
「承知」
「智恵丞相、兵站を含めた後方支援の相談も戦術と合わせて行いたいので、その席には同席願います」
「承知しました」
「理恵、各部隊への武具の支給は可能か?」
「問題ありません、予備も含めて準備可能です」
「兵糧はどうだ?」
「2,000の兵の半年分は確保しています」
「智恵丞相、もうひとつ。お抱え絵師に不弥国の最新の地図の作成させて下さい。護衛はこちらで用意します」
「了解よ」
「乃愛少将、これから先は気分を高揚させたもの達が問題を起こす可能性が高まる。警備体制を強化するように」
「はっ!」
「沙羅少将、不弥国側も我が国の動きから臨戦態勢となるだろう。警戒レベルをあげると共に、挑発があっても決して反応しないよう徹底せよ」
「はっ!」
「希鈴少将、博見大佐。近衛隊の掌握状況はどうだ?」
「問題なく。いつでも行けるように準備が出来ています」
「ならばよい。近衛隊も、徴兵部隊の模擬戦に参加せよ。徹底的に鍛えてやれ」
「はっ、遠慮なく行かせて頂きます」
「青龍大佐、朱雀大佐、白虎大佐、玄武大佐よ。聞いた通り近衛隊も模擬戦に加わる。半年後の来るべき日に備え、命令系統の精度向上を中心に訓練を続けるように!場合によっては大尉以下の役付きの見直しも行え!」
「「「「はっ!」」」」
「あとは…鴉摩いるか?」
スッ …「はっ、ここに」
今まで誰もいなかったところから返事と共に人があらわれる。
「不弥国に関する情報を再度洗い直せ、草の根活動も念入りにな!」
「はっ」 … スッ
鴉摩は返事と共に姿が見えなくなった。
「では、各自来るべき時に備えよ、解散!」
1ヶ月後、参謀府で、神威、智恵、悠希が話し合いの場を設けていた。
「不弥国側ですがあちらの四大将軍とやらを分散させて配置してくるものと思われます」
「普通はあまり分散はさせたくないものだよな?」
軽い口調で応じる神威。
昔からこの3人で話をする時はこんな感じにざっくばらんに話をしている。
それはお互いに肩書きが代わっても変わらない習慣だった。
「まずは私達をなめているのが1つですね。先の戦で奴国弱しとでも思っているのでしょう」
「なるほどな、まあこっちがやり易くなるなら歓迎すべきことか。で、どんな感じで行くんだ?」
「まずは海道を突破しないと始まらないので、ここを一気に突破します。そして、香椎、久山と攻略し、部隊を二つに分ける。1つは朝倉、もうひとつは首都である直方」
「おいおい、宗像や北九州、門司、小倉に豊前はどうする?」
「そこはちょっとしたコネがあるのでそちらに任せます」
ふーんとあまり深く考えずにいる神威。
悠希のことを信頼しているのがよくわかる。
「誰を残し、誰を連れていくかですが、神威さんに何か案はありますか?」
少し考えて神威が答える。
「沙羅は警備に回っているのでそのまま残したいな。乃愛はどうかな…、智恵、国内の治安維持に必要かな?」
神威は智恵の意見を聞く。
「そうですね、まだまだ不満を持つ国民が多いですからね。国土が小さいので少しの反乱でも致命的になります」
「だよなぁ~。近衛隊と四地区の徴兵部隊が妥当なところだろうな。細かい戦術は任せるよ」
「はい、任されました」
またある日、悠希は丞相府に来ていた。
「兵站線について話がしたいんだけど、なにかしら考えはある?」
「兵站含めた後方支援は丞相府の管轄だから、ある程度は考えてるよ。担当呼ぼうか?」
「お願い、あと神威さんも呼んでもらえるかな?」
「はいはい、会議室でちょっと待っててね」
智恵が和久ともうひとり連れて、しばらくして神威も会議室に到着した。
「まずは神威元帥、急なお呼び立て申し訳ありません」
「構わないさ、悠希の急な呼び出しには慣れてきたよ」
悠希は少し苦笑いし、主旨を説明する。
「本日集まって頂いたのは、不弥国攻略戦で必要な兵站線の確保について認識合わせと役割分担をするためです。基本的には兵站線の確保は後方支援に含まれるため、丞相府管轄となります。しかし、警備などで武力も必要となり、我が国の現状ではそちらは元帥府に頼ることになります。し従って、打ち合わせが必要かと思い集まって頂きました」
「主旨は承知した」
「始める前に私の方から丞相府側の担当を紹介させて頂きます。生産管理部門の和久はすでに御面識あったかと思いますので、もうひとり後方支援担当の弥都波です」
「後方支援を担させて頂きます弥都波と申します。よろしくお願いいたします」
智恵の後に高美と共に控えていた弥都波が挨拶をする。
「悠希よ」
神威が少しくだけた様子で話しかける。
「神威元帥、何か?」
「この場は少し自由意見の場にしないか?
『ざっくばらんに』というやつさ」
「…まあ、それでよろしければ私は楽ですがね」
と悠希が応じ、神威と悠希は智恵を見る…
「まったく、神威さんも悠希も、しょうがない人ですね。異存はありません」
やれやれと言った感じで智恵も了承する。
「和久も弥都波もこちらに座りなさい」
智恵は、ふたりに隣の椅子に座るよう促した。
「は~い」
と、さっさと椅子に座ろうとする弥都波の首根っこを和久が掴む。
「たっ、和久先輩?」
「智恵様、私共は立っておりますので」
「いいえ、和久。座りなさい」
智恵の目が怪しく光る。
「たっ、直ちに」
和久は弥都波を離し慌てて席に付く。
弥都波は少し膨れっ面になりながらも和久の隣の椅子に座る。
「じゃあ、始めようか」
その後、どこに兵站線を築くか、後方支援隊の体制について などが、詳細に話し合われた。
その会議は終始和やかに進んだようだ。
さらに2ヵ月後、王城 軍議の間
王である帥升が入場し、席に着く。
王の右側に丞相である智恵が、左側に軍師長である悠希が立つ。
「始めよ」
帥升が開始を促す。
「では、これより不弥国攻略に向けての話を始める」
悠希が開始を宣言し、続けて進行する。
「2ヶ月後の下弦の月の頃に我が国は不弥国に向けて進攻を開始する」
軍議参加者に緊張が走る。
2ヶ月後だと少し寒さが残る時期ではあるが、雪の降る時期はこえている。
また、もう1ヵ月ずれると田植え時期にかかるため、進攻時期は適当と思われた。
悠希は続ける。
不弥国の拠点は全部で10。
海道、香椎、久山、朝倉、宗像、北九州、門司、小倉、豊前、直方。
「我軍は、海道を落とし、香椎、久山と攻略していく。進攻の際に略奪や無抵抗の者への暴力行為は一切禁止する。これは国土の狭い我々がこれから広大な土地を支配していく為には絶対に必要なことだ、徹底させよ」
「「「「「はっ!」」」」」
「今回は各地区の徴兵部隊を中心に編制する。希鈴少将の近衛隊は本陣となるのでそのつもりでいるように」
「はっ!」
「沙羅少将、乃愛少将は、国内の治安維持を最優先とする。徐々に『国内』の範囲が拡がっていき治安維持も難しくなっていく。真っ先に不弥国攻略に参加したい気持ちはわかるが、足元を崩されたら進攻どころではなくなる。これを任せられるのは二人しかいない、よろしく頼む」
「「はっ!お任せを」」
「玄武隊が砦を破壊、それを朱雀隊が援護する。破壊されたところを青龍隊が突破力をいかして突っ込み片を付ける。近衛隊は本陣守護、白虎隊は遊撃隊として臨機応変に指示を出す。これが砦、敵陣攻略の基本戦術となる。また、野戦に関しては地形や相手、それと自軍の状況も加味してその都度指示を出す」
皆理解したのか、殺る気に満ちた表情で一同頷く。
「このことを頭に入れて残り期間、再度連携を確認せよ
「「「「「はっ!」」」」」
「智恵丞相、後方支援の準備状況は順調ですか?」
「兵站線の構築で一部問題がありそうです。どなたか人を回して頂けると助かります」
「神威元帥、人選を頼んでもよろしいでしょうか?」
「承った。智恵丞相、後程詳細を」
「よろしくお願いします」
さて、不弥国はどうでるかな?
そして、あの人は大丈夫か…。
きりん と言ったら ひろみ
林檎殺人…