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第3話 軍の構成と模擬戦

さらに1年(体制変更から3年)が経過した。

人口は倍増し、東西南北の各地区の村は10ずつとなっていた。


現在の奴国の軍事力を確認するための会議が開かれる。


~軍議の間にて~


王である帥升が入場し、席に着く。


王の右側に丞相である智恵が、左側に軍師長である悠希が立つ。


「始めよ」


帥升が開始を促す。


「では、これより奴国の軍事力に関する確認会を始める」


悠希が開始を宣言し、続けて進行する。


「神威元帥、まずは現在の部隊構成・人数から報告して下さい」


「我が国の部隊構成は以下のとおり」


常備軍の構成

警備隊 100 … 隊長:沙羅少将

機動隊 100 … 隊長:乃愛少将

近衛隊 100 … 隊長:黄龍少将


徴兵部隊の構成

東部地区隊 500 … 隊長:青龍大佐

西部地区隊 500 … 隊長:白虎大佐

南部地区隊 500 … 隊長:朱雀大佐

北部地区隊 500 … 隊長:玄武大佐



「黄龍(こうりゅう♂)少将は、以前任命した際にはあっているが、4人の大佐は初顔合わせかな?」


将官以上は最終的に王家からの承認が必要となる。また、佐官以下については元帥、軍師長の判断により任命できる。


因みに、什単位での長を伍長、副長を兵長とし、編成によって曹長およびその補佐として軍曹をおき、地区単位で大尉、少尉をおく。


※大尉、少尉は、隊長である大佐の補佐官となる。


「はい、では各自自己紹介を」


神威が促す。


青龍せいりゅう大佐を仰せつかった美鳥(みどり♀)です。

得意は槍です。よろしくお願い致します」


白虎びゃっこ大佐を仰せつかった白斗(はくと♂)です。

得意は刀です。よろしくお願い致します」


朱雀すざく大佐を仰せつかった朱音(あかね♀)です。

得意は弓です。よろしくお願い致します」


玄武げんぶ大佐を仰せつかった霧也(きりや♂)です。

得意は合気拳術です。よろしくお願い致します」


「ほう、青龍、白虎、朱雀、玄武は、名前ではないのか」


「東西南北の地区の隊長である4人の大佐を、四方の方角を司る霊獣に見立て、中央である王都を四神相応の地とする。 … と言ったところですか?」


帥升が疑問を呈し、悠希が考えを披露する。そして神威が意図を説明する。


「まさにそのとおり。また通り名を使用したのには訳があってな」


曰く


4地区をそれぞれ束ねる大佐の地位は与えられるものではなく、自ら勝ち取るものとしたい。


完全実力主義で、地位を賭けた勝負も行われる。代表的なのは、武道大会の優勝者に副賞として勝負する権利を与えるなどである。


入れ替わりを前提としているため、その地位に通り名を付け、地位と通り名を授けることとしたのだ。


「なるほどな、その地位を守るためにも更なる努力をするわけだ。高い質を維持する素晴らしい考えだ」


帥升はその考えを絶賛した。


「では、続けて錬度について報告願います」


悠希は続きを促し神威が続ける。


「沿岸警備隊、特別機動隊は、通常訓練に加えて、自給自足を兼ねた狩猟などを行うことで錬度は一定水準には達しているかと。また、近衛隊は日々訓練に明け暮れていますからね、士気も高いですし、かなり力をつけてます。徴兵部隊ですが、個々の力よりも連携重視で訓練を行っています。

交代制ということもあり、高度な戦術を理解するのは難しいと思いますが、少しずつ指示通りに動けるようになって来たところです」


「王よ、ここで提案があります」


錬度の報告を聞いていた悠希が発言する。


「なんだ?」


「4地区対抗で模擬戦を行いましょう。この模擬戦により、錬度を確認すると共に実戦に近い感覚を経験させるのも良いかと」


「それは願ってもないこと。私も軍師長と同じことを進言しようと思ってたところです」


悠希と神威は顔を見合わせお互いにうなずき合う。


「軍師長と元帥の意見が一致してのことだ、私には反対する理由がない。それに私も楽しみだしな」


「神威元帥。何日後に開催可能でしょうか?」


「今は調度徴兵期間中だから、ルールの把握、戦術の選定で3日もあれば可能かな」


「わかりました。では3日後の正午に模擬戦を開催する。まずは東地区と西地区、その後、北地区と南地区で戦ってもらう。今回の模擬戦は野戦とする。いずれかの軍の本陣が落ちるか、撤退させた方の勝利とする。あくまでも実戦を想定するため、軍の損耗率も考慮して戦うこと、使用武器や戦士判定の方法など詳細はおって知らせる」


「「「「ははっ!」」」」


3日後、演習地


模擬戦ルール

・武器は木剣を使用

・矢は先端に特殊塗料が付いた殺傷力が落ちたものを使用

・戦死判定は自己申告

・死んだふりは極刑

・指揮官の判断により勝敗を決する


高台に設けられた観戦台には、帥升、悠希、神威、沙羅、乃愛、黄龍がいる。


眼下には平地が広がり、模擬戦の一回戦目を戦う両軍が、陣形を整え、開始の合図を待ち構えている。


第一回戦 東地区 vs 西地区


東地区 青龍隊

兵数:500

陣形:鋒矢の陣

主な装備:槍


※東地区は槍の鍛練(槍術)に力を入れており、主に二種類の槍を使用する。

長い槍(三間半槍:637cm)と通常の槍(一間半:273cm)の二種類の槍を持った兵士が交互に配置され間合いが遠い時は長い槍で叩くように攻撃し、長い槍をかいくぐってきた敵に対しては通常の長さの槍で突いてしとめる。

攻撃時は前進しながら、守備時はその場にとどまり攻撃する。

非常に攻守のバランスがとれている。

また、長い槍のみを使用する場合は防御主体、通常の長さの槍のみを使用する場合はスピード重視の攻撃特化とバリエーションも豊富である。


西地区 白虎隊

兵数:500

陣形:横陣

主な装備:刀


※西地区は刀の鍛練(剣道)に力を入れている。製鉄技術の推奨、中央での集中管理にした結果、鉄を利用した刀の生産が増えた。基本的には片刃の直刀である。

通常の長さの太刀と短めの小太刀を装備する。

攻撃力もあるが、特に固い守りを有する部隊である。


「ほぅ、東地区の青龍隊は鋒矢の陣、西地区は横陣できたか。悠希よどうみる?」


「東地区は皆通常の槍で来ましたね。陣形といい西地区の防御を一気に打ち破るために突破力を重視したのでしょう。それに対して、西地区の横陣は気になりますね。恐らく東の様子を見て陣形を切り替えていくと思われます。東地区が西地区の守りをどう突破するか、楽しみですね」


「軍師長殿、質問よろしいでしょうか?」


「何でしょう、黄龍少将」


「ここは平地であり、あまり戦術に幅を持たせることは出来ないのでは?」


「平地と言っても前後はともかく、西地区から見て左翼側には川もあるし、右翼側は小高い丘になっている。いくらでも幅を持たせられるさ。まあ、ふたりの大佐がどのような指揮をとるか見てみようよ」


少し納得がいってない様子の黄龍をおいて、悠希が立ち上がる。


「王よ、始めたいと思います」


「うむ」


「開戦の合図を!!」


ドーン…ドーン…ドーン…

戦場に太鼓の音が鳴り響く。



(青龍大佐)「全軍、進撃~!」

ブォ~ッ、ブォ~ッ!


うぉおおおおお!!


東地区青龍隊は全軍一体となり一斉に前進を開始する。


(白虎大佐)「迎え撃つぞ、全軍構え~っ!」


オオオオオオッッッッ~!!!


こちらは、東地区を迎え撃たんと太刀(今回は木刀)を構える。


そして、やや西地区よりで激突する…


かと、思われた時、ジャ~ン、ジャ~ンと銅鑼が打ち鳴らされる。


その合図を契機に西地区の右翼側がやや前進し、横陣がやや斜めに変化する。


そして…激突!!


ドォ~ンッ!


陣形の変化により、東地区の突進を、やや柔らかく受け止めた。


東地区の攻撃を西地区側は巧みにかわし、一進一退の戦いが繰り広げられる。


変化は徐々に現れ始めた。


「右側に誘導されている?」


青龍大佐は、西地区の陣形が斜めに変化していることに違和感を感じた。


「このままだと右側の川に挟まれ包囲される…か」


まずいな、このままだと全滅する。


「本陣を右に移しつつ、右翼に攻撃を集中する。左翼にも伝令! 包囲を気にせずやや右寄りで前進させろ!」


「はっ!」


「一気に食い破ってやる!」


「ふっ、美鳥ちゃんは強引に突破をはかりに来たか。武力頼みで一直線なことよ」


「よし、このまま徐々に敵を包囲し殲滅する!」


「はっ!」


「四方からの攻撃でどこまで進めるかな、美鳥ちゃん」



「悠希よ、この模擬戦はどちらの勝ちなのだ?」


「お粗末な戦いだ。両陣営とも負けでしょう」


帥升の悠希への問いに対して黄龍が口を挟んできた。


そんな黄龍を無視し、悠希は帥升に返答する。


「当然西地区ですよ。東地区は大佐以外全滅ですからね」


完全に包囲網を確立させた西地区隊はそのまま包囲を狭めていき、適度なところで降伏勧告をする予定であった。


しかし、なんと青龍大佐が単独で包囲網を突破し、西地区本陣の守りも突破、白虎大佐と一騎打ちとなった。


両者の一騎打ちは長引き、その間に東地区は全滅。

頭に血がのぼった青龍は、勝負はついたものと油断した白虎大佐をぶっ飛ばしてしまった。


そこで、悠希による戦い終了の合図となった。


「しかし…ですね、神威元帥?」


「わかっている。2人には再度教育をしておく」


「本来なら大佐の地位剥奪ものですよ?さらに実戦なら処分ものだ」


「当然です。私ならばあんな無様な真似はしない」


またしても黄龍が口を挟む。


そんな黄龍を再度無視する形で悠希は告げる。


「次の戦いだ。北と南に準備させよ!」


「はっ」


両陣営に伝令が走る。

その様子を黄龍は苦々しく見つめていた。


第一回戦 北地区 vs 南地区


北地区 玄武隊

兵数:500

陣形:魚鱗の陣

主な装備:小太刀


※北地区は合気道を始め空手、柔道などの徒手空拳での鍛練を積んでいる。ただし、武器の使用が苦手なのではなく、投石機、小太刀については熟練している。

身体能力の高さは群を抜いている。


南地区 朱雀隊

兵数:500

陣形:縦横陣

主な装備:弓、剣


※南地区は弓の鍛練(弓術)に力を入れている。弓はサイズが小さめの短弓であり、近距離での戦闘を考慮し、青銅の剣も装備している(今回は木剣)

本来は中距離からの支援を担当する。


「ほぅ、北地区の玄武隊はまるで槍か矢のような陣形だな。それに対して南地区の朱雀隊は部隊を細かく分けたか。悠希よ、どうみる?」


「陣形だけを見ると、そのまま激突した場合、南地区が北地区を包み込むようになりますね。一見すると包囲する側が有利に見えますが、両軍の兵数は同じですからね。逆にそのまま食い破られる可能も高いですね。この勝負楽しみですね」


「両陣営の指揮官の性格は、南地区の朱雀大佐朱音がやや攻撃的でありながら効率的に作業をこなします。また、北地区の玄武大佐霧也は実に真面目な性格であり何事も基礎から確実に積み上げていく性格です。

この両者の戦いは私も楽しみです」


神威が両者の性格からみても楽しみだと補足した。


「うむ」


「開戦の合図を!!」


ドーン…ドーン…ドーン…

戦場に太鼓の音が鳴り響く。


(玄武大佐)「まずは『観』だな。全軍いつでも戦闘に移行できるようにしたままその場で待機!」


(朱雀大佐)「左右先鋒前進!」

ブォ~ッ! うぉおおおおお!!


(朱雀大佐)「続けて中央の右翼、左翼をやや前進させよ」


(伝令)「はっ」


さて、霧也はどうくるか…


(玄武大佐)「先鋒隊の位置を基準に、左右前衛、左右後衛前進、壁陣展開~ッ!」


ジャンジャンジャン!!

おおおおおっ!!


こちらは、横一列の壁に陣形を変化させる。


左右で両軍が激突!


朱雀隊の弓による攻撃を玄武隊が持参した小型の盾で防御する。


やや攻撃力に勝る朱雀隊が有利な情勢。


「初太刀であるこの攻撃を凌げば我が方が圧倒的有利に立てる。気合いで押し返せ~ッ!」


玄武隊の左右の指揮官は鼓舞する!


(朱雀大佐)「中央の右翼、左翼に攻撃命令。後衛の右翼、左翼はやや前進」


(伝令)「はっ」


朱雀隊の攻撃が勢いを増す。


対する玄武隊の壁陣は、前列、中列、後列に分かれ、入れ替わりで攻撃を防ぎ、遊撃部隊が味方の不利な場所へ支援を行う。


戦闘開始から二時間が経過し、朱雀大佐は一旦全軍を退却させた。一方、玄武大佐は朱雀大佐が引いたことを確認し、自軍も退却させた。


同様の戦いがもう一度繰り返され、二度目の退却が行われたところで、戦闘終了の合図が出された。


「完全に決着が着くまで見たかったところではありますが、錬度の確認という目的は果たせたので、この勝負は引き分けとします」


「なかなか見ごたえのある勝負であったな。悠希よ、この結果をどうみる?」


「なかなかではありましたが、まだまだあまいですね。私なら…」


黄龍が口を出して話をしているのを遮る形で、帥升の問いに答える。


「今回の北と南の勝負については、まあ及第点としても良いでしょう。トータルとしては各隊とも末端までの命令・伝達の流れがもう少しスムーズにいけたら良かったと思います」


憮然とする黄龍。

さらに黄龍が口を開こうとしたところで神威が立ち上がる。


「黄龍よ、先程からの無礼な態度。いったいどういうつもりだ!」


自分が言われるとは思っても見なかった黄龍は驚きの表情で答える。


「どういうつもりも何も私は思ったことを話しているまで。無礼なというなら今私の言動を遮った悠希様の方で御座いましょう」


この発言にはこの場に居合わせたもの全てがあきれていた。

いちはやく我に返った神威は我慢の限界とばかりに黄龍に告げる。


「黙れ!王が悠希に問うた話に横から口を挟むだけでも許しがたき行為。さらには場にふさわしくない我欲全開の発言。もはや我慢の限界。この場でその首跳ねてやる、そこに直れ!!」


黄龍はよくわからないという表情を浮かべ、半分馬鹿にしたような態度で切り返す。


「元帥、貴方は少し落ち着いて物事を考えた方が良い。冷静さを欠いては…」


ドンッ!…ドサッ…


「ふう…。元帥、横から失礼いたしました。ここは王の御前、刃傷沙汰は避けるべきかと思い手を出させて頂きました」


悠希が黄龍に一撃を加え、神威と向かい合い、無礼を詫びる。


すると神威は、大きく深呼吸をして。


「悠希よ、助かった。礼をいう。帥升様、失礼いたしました」


「よい、我もビックリした。悠希、こやつの処分はお主に任せる」


「はっ、棒打ち100の後、冠位剥奪の上、強制労働とします」


最後にひと悶着あったが、この後、4人の大佐が呼び出され、反省点を話し合った。


今後の訓練に生かされて行くことになる。


なお、黄龍は強制労働の従事中に見張りの兵の目を盗み奴国より出奔していた。


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