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第18話 久留米攻略

対糟屋・久留米前線基地


尾羽張、根柞、石拆、闇淤加美、闇御津羽、野椎、磐土、水虬が揃っている。


「野椎、糟屋の動きは?」


「今のところ目立った動きはないようです。こちらに気が付いていない可能性はほぼないと考えられますので、静観の構えかと」


正確に言うと動けないってところだろうな。

陣を広げ長期間の防衛体制に入ったばかりの今、出陣すると広大な陣に隙が生まれる。

皮肉なことだ。まあ、そこを突かせて頂くまでだけどね。


「久留米の動きは?」


「殺る気満々といった感じですね。既にいくつかの部隊が、拠点外に独特な陣を敷いています」


久留米の兵、伊都国第2軍団は個人戦を好む部隊であり、戦いの際、少数での戦いが行えるような陣を敷くことが多い。


「ほぼ想定通りか。我々の進攻に合わせて1部の兵を同行させる。ただし、実態は寡兵であり、なるべく多くの兵に見せ掛けた偽兵となる。その辺りの采配は野椎に任せる」


「はっ!」


「石拆、直方の徴兵隊はどうか?」


「兵数1,000錬度80%で基準を満たしています。また、いつでも出陣可能な態勢で待機中です」


「根柞、直轄隊は?」


「兵数500錬度100%、いつでも出陣可能です」


ふたりとも場をわきまえて、上下を意識した答え方をする。

このあたりは抜かりはない。


「よし、半刻後に出陣する。各自準備を怠るな!」


「「「「「はっ!」」」」」


久留米 ~


「侍龍よ、奴国の連中が此方にも参りました。迎撃の準備はよろしくて?」


伊都国で参謀長を務める沙織は、第2軍団の参謀も兼任する。

むしろ第2軍団と共に成り上がったと言える。


「問題なく準備は進んでいるよ。しかし、友里亜様の予測は少し外れたかな」


軍団長を務める侍龍は、友里亜の予測が外れたことを意外なこともあるものだと感じていた。


「あの時と状況が違いますわよ?奴国の初手としては糟屋方面しかなかった訳で友里亜様の予測は当たっていたわ。糟屋での戦いが思いの外、拮抗しているため、久留米にも目が向いたわけよ」


「なるほどな。拮抗してくれたお蔭で我々の出番が回って来たわけだ。感謝しないとな」


伊都国 第2軍団

軍団長:侍龍、参謀:沙織

小宇宙隊 1,000


第1星団 500

征矢(せいや♂)、聖花(せいか♀)

第2星団 500

豹牙(ひょうが♂)、香美(かみ♀)

第3星団 500

駿(しゅん♂)、和樹(かずき♂)

第4星団 500

紗牙(さが♂)、歌音(かのん♀)


伊都国の第2軍団は4つの部隊から成り立つ。部隊のことを星団と表現する(第1星団~第4星団の4部隊)


また、軍団長直轄部隊は小宇宙隊と呼称。


第1軍団と比べると兵の数は少ないものの個々の能力は高い。

その反面、脳筋が多いのも特徴的。


「敵が来たぞ~!」


久留米内の高矢倉から朝倉方面を監視していた兵が叫ぶ。


さらに久留米に近付いたところで、尾羽張率いる奴国軍は行軍体型から横陣に変えていく。


直轄部隊を尾羽張、徴兵隊を4つの部隊に分け、それぞれ、石拆、根柞、闇淤加美、闇御津羽が率いている。


「全軍停止!」


尾羽張は、少し距離があるところで全軍停止させる。


「尾羽張さん、ここはどうやって攻めるの?」


尾羽張の傍らにはまだ幼さを残す一人の人物が立っていた。


「お前ならどうする?」


尾羽張は試すように質問を返す。


「そうですね、敵の力量は事前調査により把握しています。各星団の隊長クラスの実力は我が方の隊長クラスより下回ります。また、我が方は見掛けは幼さを残し敵の油断を誘えます。ここは隊長クラス同士の勝負により決着をつける旨を敵の総大将に申し入れます。受けぬ場合は環濠の弱点をつき久留米を陥落させると付け加えて」


その人物が語った策は、まさに敵を知り己を知れば百戦危うからず(If you know the enemy and know yourself, you need not fear the result of a hundred battles.)を守った策と言えよう。


「私も同じ考えだよ。また、この戦い方は向こうも好きな戦い方であるからね。では、使者を出すとしよう」



「侍龍様、奴国より使者が来ております」


「使者だと?降服勧告でもするつもりか?ここに通せ」


「はっ!」


しばらく待つと奴国の使者が表れる。


「奴国の使者だそうだな?何用か?」


「は、奴国元帥尾羽張様よりの言葉です。この戦、隊長クラスの勝負により決着を着けたい。返答は如何に」


「ほう、断れば?」


「環濠の弱点をつき、一気に久留米を攻略するまで。もちろんその際には一般国民にも被害が出ることを覚悟頂きたい」


沙織の顔に若干のくもりがさす。

それを見てとり侍龍が答える。


「まあ、我が方としては、元からそのような戦いに持っていく腹積もりだ。受けて立とう。詳細は聞いているか?」


「こちら側の元帥直下の4武将とそちら側の4つの星団の隊長の勝負、および、元帥尾羽張と軍団長侍龍殿の勝負を1対1で行い、勝ち残りで最後まで残った方の勝ちとする方法は如何ですか?」


「シンプルでよし。では、半刻後に現在の両軍の中間にて。随伴は各隊長の副官ひとりずつとしよう」


「は、お伝えいたします。それでは後程」


こうして半刻後、奴国対伊都国の戦いが開催されることとなった。


半刻後…。


「よく勝負を受けて下さった。流石は名高き第2軍団軍団長侍龍殿。私は奴国元帥尾羽張と申します。当方が勝てば久留米は頂きます、逆に当方が敗れた場合はこの先にある陣を畳み、朝倉まで下がりましょう。さらに、今後私が朝倉から久留米への進攻はしないと誓いましょう」


「尾羽張殿と申すか、此度の戦いは我らにとっても有益なことであるのでお互い様だ。敗れれば久留米を差し出し、勝てば朝倉までの撤退と進攻せずの確約承知した。お互い、相争う立場であり、命の保証はない。本約束は互いの副官が違わず果たすようよろしく頼む」


「当方承知致しました」


「こちらも問題ありません」


尾羽張の副官と第2星団参謀の沙織が答える。


「第1試合を始めよう。双方先鋒前へ!」


尾羽張が先鋒に前へ出るよう促すと、伊都国は第1星団の征矢が、奴国側は石拆が前に出る。


征矢は槍で左足を前に出した八相の構え、石拆は太刀を中段に構える。


「始め!」


征矢がジリジリと間合いを詰める。


ブォンッ!


征矢は右足を一気に前に出し槍を斜めに降り下ろす。

石拆は1歩下がって紙一重で躱す。


征矢はそのまま左前半身の構えに移行。


シュッ…カッ…


脱力状態からの始動による高速の突きが胸元を狙う。

石拆は体を左に捌きながら、刀の鎬で右に払う。


シュッ…カッ…


頭、体捌きで躱す。


シュッ…カッ…


足下、左に捌く。


…中々隙がないな…ならば…。

石拆は心を攻撃モードに切り替える。


石拆が間合いを詰めて行き…。


シュッ…カッ…


石拆が振り返り残心を示すと、そこには頭のない征矢が立っていた。


石拆は刀を納め、征矢に一礼をして、その場を後にする。



「次だ、双方次鋒前へ」


今度は侍龍が促し、伊都国は第2星団 豹牙が、奴国は根柞が前に出る。


征矢の身体は、聖花によって引き取られている。


豹牙は小太刀を右手に持ち左手には鉄製の籠手を嵌めて、中段半身の構えをとる。


方や、根柞は太刀を中段に構える。


小太刀か…。

小太刀を中段半身で構えると、通常の太刀を中段で構えた時と同じくらいの距離感となる。そこを間違えないようにしないと痛い目にあうな。


根柞は小太刀の特性を充分理解していた。


双方間合いをジリジリ詰めて行き…


シュッ…


豹牙が根柞の刀の峰を小太刀の鎬を使って制しながら間合いを詰める。


根柞は右足を右斜め前に出し、体を捌きながら、右手首を返して、豹牙の左面を打つ。


豹牙もしっかり反応し、左手の籠手で、受けようとする。


その反応を見た根柞は、起動を変更、そのまま左胴を打ちにかかる。


豹牙は右足を蹴り、一気に後ろへ飛ぶ。


シュバッ!


豹牙の体から血飛沫が舞う。


再び間合いをとる、両者。

ちょっと浅かったようだ。


ここで根柞が八相に構えを変える。


豹牙はそれに合わせて若干小太刀を上にして縦に構える。


根柞が走り込みながら一気に間合いを詰め、そのまま刀を降り下ろす。


ブォン!…カッ…ドカッ!!


豹牙の身体が半分に切り裂かれて二つに分かれ左右に倒れる。


残心を示していた根柞は、刀を納め、一礼をして、その場を後にする。


豹牙の身体は香美により運ばれる。


「次ですね。中堅前へ!」


今度は尾羽張が促す。。


伊都国は第3星団の駿が、奴国は闇淤加美が前に出る。


駿の武器は変わった形をしていた。


「あれは鎖鎌?」


尾羽張は呟く。


「ほう、よくご存知で」


沙織が答える。


駿は鎖鎌を構えるが、闇淤加美は太刀を納刀したままだ。ちなみに闇淤加美は太刀と小太刀を脇に差している。


「始めますよ?」


「いつでもどうぞ」


駿の言葉に闇淤加美が答える。


駿は左手に鎌を持ち、鎌から伸びる鎖を左手で持っている。


鎖部分はかなり長さがあり二メートルにも及ぶ。先端には鉄の塊が付いている。


駿は鎖を頭上で振り回し始めた。


ブォン…ブォン…ブォン…


闇淤加美はここでようやく柄に手をかけ、膝をやや曲げた状態で抜刀術の構えをとる。


シュッ…カッ…


闇淤加美が刀を抜くと同時に駿の鎖がその刀を巻き取る。


が、巻き取られた刀は小太刀だ!


闇淤加美は小太刀を放すと一気に間合いを詰め、太刀を抜刀、横凪ぎに払う。


虚をつかれた駿はその瞬間上下に分かれた。


血を払い、納刀後、一礼をして、その場を後にする。


「まだ続けますか?」


尾羽張は侍龍に問う。


「無論。次は副将だ」


伊都国は第4星団 紗牙が、奴国は闇御津羽が前に出る。


紗牙は小太刀を二刀左右に持つ。

闇御津羽は闇淤加美と同様、太刀と小太刀を脇に差している。


紗牙は小太刀を左右に持ち二刀流の中段の構えをとる。

闇御津羽は太刀を抜き左諸手上段に構える。


紗牙は闇御津羽を中心に右回りにステップを踏む、時折フェイントを入れながら。


一気に間合いを詰め…シュッ…

ようとして、全力でバックステップ。


紗牙の髪が舞い、頭部に一筋の線が走る。


再び右回りでステップを踏む。


ウオオオオオオッッッッ~!!!


闇御津羽が気合いを出し、紗牙を威圧する。


紗牙が一瞬だけ怯む。


その隙を見逃さず思い切り降り下ろす。


ガガッ!


なんと紗牙は小太刀をクロスにさせ、闇御津羽の打ちを受け止めた。


オオオオオオッッッッ~!!!


ドンッ!


受け止められた闇御津羽は、さらにそのまま力を込め、耐えきれなくなった紗牙はその場に倒れ込む。


闇御津羽の剣先が紗牙の喉元に当てられ…


「…参りました」



「大将戦ですね。奴国軍 元帥 尾羽張、いざ尋常に…」


「伊都国 第2軍団 軍団長 侍龍。…勝負」


尾羽張、侍龍共に、脇には太刀と小太刀を差す。


両者太刀を抜き中段に構え対峙する。


先手を取ったのは尾羽張。


中段の構えから八相の構えに変化させ、一気に右上から左下に袈裟斬りに打ち込む。侍龍は体捌きで躱す。

次は左上から右下、侍龍は躱す。


右、躱す、左、躱す、右、躱す、左、躱す、右、躱す、左、躱す…。


一瞬の隙を見て侍龍が突きを繰り出す。


右、躱す、突き、躱す、左、躱す、突き、躱す…。


超高速の攻防が繰り広げられる。


なんと、この攻防が四半刻ほど続いていた。


先に体勢を崩したのは尾羽張。

胸元に紅い線が走る。


さらに侍龍が追撃とばかりに身体ごと一気に前に詰める。


そこを咄嗟の判断で身体を反転させようとしていた尾羽張の足が侍龍の足を払う形となる。


両者倒れ込みながら縺れ合い尾羽張の太刀が侍龍の首を切断した。


ゆっくりと立ち上がる尾羽張。


「こっ、こんなはずでは…」


動揺を隠せない尾羽張、そこへ…。


パァン~ッ!!


「しっかりなさいませ、尾羽張様」


「思兼…」


頭をブンブンと降り、一息深呼吸。


「すまん、もう大丈夫だ」


尾羽張は思兼と呼ばれた若者(幼子)に一声かける。

そして、伊都国軍に告げる。


「見ての通り、勝負は我ら奴国の勝利に終わった! これで久留米は我が方のものとなる。不平不満があるものは立ち去るがいい、止めはせぬ。残るものは今後は我に従うように!!」


伊都国側から沙織が1歩進み出て答える。


「我が軍団は力が正義であり、勝負に敗れた結果、軍門に下ることとなりました。ましてや正々堂々の勝負の結果、誰が文句がありましょうや。只今より、我らは尾羽張様に忠誠を誓いましょう」


この後、野椎には元の陣に戻るよう指示し、尾羽張は久留米に入った。


そして、久留米内、軍議の間には、尾羽張、石拆、根柞、闇淤加美、闇御津羽、沙織、聖花、香美、和樹、歌音、思兼が集まっていた。


「さて、まずは沙織。久留米の民、兵士達の状況は如何か?」


「各星団の長および軍団長まで敗れたことは、驚きと恐怖をもたらしています。ただ奴国軍による久留米への入場の際、略奪行為を一切禁止していることから、今は様子見といった感じで落ち着きつつあります」


「新しい体制への移行についての反発はどう予想される?」


「基本的に民は統治者が誰であれ特に気にしないところがあります。政策の差による多少の混乱はあるかと思いますが許容範囲内かと。兵士達はご存知の通り力が正義であることから力を持つ内は従うでしょう、伊都国であれ、奴国であれ」


「では、問題はここにいる5人と言うわけだな」


「はい、その通りですね」


「では、5人に問う。服従を選択するか復讐を選択するか。それとも後日再戦の機会を待つか」


「再戦の機会とは?」


「このまま奴国による伊都国攻略が完了した場合、我々5人との戦いの場を設けよう。そこで我らに勝利したものはその地位をそっくり入れ替える。私は元帥であり、残りの4人は久留米攻略の功により少将となることが確約されている。私に勝てば元帥、他の4人に勝てば少将となる。またこれは団体戦ではないため、勝ったものが即入れ替えとなる」


「伊都国攻略が失敗したら?」


「その時まで首が残っていたら差し出そう。残ってなかったら勘弁願いたい」


「復讐の機会が与えられ、なおかつ出世のチャンスでもある…か。みな、意見はあるか?」


沙織は、聖花、香美、和樹、歌音に問う。


「私は再戦の機会を心待ちにさせて頂きます。石拆殿、ご覚悟を」


「私も。根柞殿ご覚悟を」


「駿は弱かったから敗れた、それだけだ。約束は約束、奴国への忠誠を誓おう。復讐など不要。己の力で上を目指すのみ」


「私も和樹と同じ考えです」


聖花、香美は再戦の機会を待ち、和樹、歌音は奴国で成り上がることを希望する。


「沙織はどうするのだ?」


「侍龍の心を思えば、勝負の結果を受け入れ、奴国に忠誠を誓いたいところですが…」


沙織の顔からドンドン血の気が引いていく。


「正直、私は怖いのです。伊都国が。侍龍は四軍団の軍団長ではありましたが、その力は他の3人の軍団長の足元にも及びません」


尾羽張はそれを聞いて愕然とする。

今回の戦いでは勝ったとは言え、偶然の要素も強く、紙一重の結果だった。

その侍龍が最弱であり、足元にも及ばないとは。


「では、沙織さんを始め、旧伊都国第2軍団の皆さんは朝倉まで退いて下さい。現在の徴兵部隊は、朝倉の現徴兵部隊と入れ替えで移住して頂きます。奴国統治下では什伍制を敷いており、一部の民の入れ替えはセキュリティ上もメリットがあります。こうすれば伊都国との戦いに直線参加する可能性が下がります。旧伊都国の兵士が伊都国への攻撃をする際の戦意低下も考慮しないで済みますしね。尾羽張様、如何でしょうか?」


思兼は、尾羽張が衝撃を受ける中、現実的な意見を坦々と告げる。


「そうだな、それが最善か。では、その方針で行く。直ちに準備に入れ!」


「「「「「はっ!」」」」」


こうして、久留米は奴国の統治下に置かれた。


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