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第17話 膠着期:若き力の台頭

悠希はひとつの決断を胸に会議室に向かっていた。


伊都国攻略は想定以上に時間がかかりそうだ。

今後のことを考えるとやはり…。


「鴉魔、いるか?」


「はっ、これに」


「以前より調査させていた件はどうなっている?」


「不弥国側の手は入っておらず、少しの補修で利用可能な状態です」


よし。


悠希が会議室に到着すると、相国である智恵と左右の丞相である理恵、塩椎が席についていた。


しばらくすると、帥升が姿を現し席につく。


「今日は悠希から重大な提案があるとか?」


「はい、遷都…王都を移すという提案です」


「遷都か。確かにこの地からだと西方の統治が大変かな。具体的な候補地はあるのか?」


「宮若」


「…隠れ里の入口か?」


「はい。当面は直方を拠点とし、宮若の王都化を行い、目処がつき次第完全に移行します。また、中央で管理している生産・製造は隠れ里に移動、こちらはすぐにでも受け入れ可能です」


帥升は暫く考えて…。


「智恵よ、相国の立場から見てどう判断する?」


「メリットは大きいかと」


智恵は即答する。


「悠希よ、この地は如何する?」


「民は原則宮若への移住とします。東西南北地区ごとに随時移動させましょう。そしてこの地は軍事拠点とし、訓練施設などを作っていきます」


「ふむ、私には反対の理由は無いな。直ちに実行に移すがよい」


「はっ!智恵、丞相府主導でお願いしてよい?」


「わかったわ、任せて」


こうして奴国の遷都が決定した。


「帥升様、神威様が亡くなり元帥不在で元帥府が動いています。今後のことを考えると早急に元帥を任命する必要があるかと」


前元帥である神威が戦死して以降、元帥の地位は空席となっている。


伊都国攻略の一連の中で参謀府が主体となっていたが、旧不弥国地区が落ち着くにつれて徴兵や徴兵隊の訓練などやることが目白押しとなってきた。


「誰か適任者はいるのか?」


「尾羽張が適任かと」


「尾羽張…、神威の息子か。神威の息子とは言え、他のものは納得するだろうか?」


「尾羽張は、神威様について実戦も経験しています。その時の活躍は凄まじいものがあり、神威様とは今度佐官を飛ばして将官にという話もしておりました。また、神威様の息子という点でも」


「感情も利用できる…か。確かに綺麗事だけではな。では、明日任命するか」



翌日謁見の間には王座の左右に悠希と智恵かま並び立ち、列席者が王座と対面する形で並んでいる。


そんな中、帥升が入場し席につく。


「尾羽張よ、前へ」


「はっ!」


悠希が尾羽張に前へ出るよう指示し、それに答えて、尾羽張は前に進む。


「尾羽張よ、そなたを奴国元帥に任命する。我が国を頼んだぞ」


「はっ!有り難き幸せ。粉骨砕身奴国のために働きます」


帥升が尾羽張を元帥に任命し、尾羽張がそれに答える。

ここに奴国に新たな元帥が誕生した。


尾羽張(おはばり♂)

前元帥神威の息子。若くして圧倒的な武力を有する。神威戦死後、新生元帥直轄部隊を臨時で指揮していた。



任命式の後、帥升、悠希、智恵、新元帥尾羽張の4名が円卓の間にいた。


「さて、新元帥が誕生して元帥府が新たな長を迎えたわけだが、現在、我が軍の主だったもの達は前線にいる」


と、帥升が話を切り出す。


「赴き納得させる…のが最初の仕事ですかね」


それを受けて、尾羽張が最初の仕事を確認する。


「そうだな、少なくとも大佐以上のものには直接納得させるべきだろうな。例え、神威さんの息子として認知されていても」


悠希は少し挑発を含んだ発言をする。


「今のままだと形式上は上として見てはくれるだろうが真に認めては貰えない。この状態だと肝心なところで軍がひとつになれない…ですね」


「その通り。どう納得させる?」


「実力行使です。個人能力は1対1の勝負、指揮能力は…そうですね、調度良いので久留米をとりますか?」


「兵は?」


「昨日まで元帥直轄部隊を代行として指揮していましたので、そのまま正式に私の直轄部隊とします。久留米攻略は、元帥直轄部隊と直方の徴兵隊を使います。後は野椎に牽制役をお願いするくらいで大丈夫かと」


「勝算は?」


「7割程度。失敗時には野椎が築いている陣まで退避します」


「7割の根拠は?」


「戦に完全はあり得ないので、敵戦力に対し圧倒的優位であった場合に9割。久留米兵数が3,000に対し我が軍の兵数が1,500と少ないことで4割に減。久留米が邪馬台国への警戒で5割に回復、久留米側の油断で6割に回復、現地調査の結果、環濠に欠陥があることがわかり7割に回復。といった感じです。あまり根拠になっていないかも知れませんが」


「まあ、私の見立てと大差ないさ。帥升様、如何でしょうか?」


「今の会話を聞いていても特に落ち度は無さそうだ。任せて見ようではないか。ただし、油断と慢心は禁物だぞ」


悠希と尾羽張のやり取りを黙って眺めていた帥升は一連のやり取りで能力の片鱗を見たようだ。


「はっ!」


「おっと、そうだ。あの4人は使うの?」


「はい、そのつもりです。今回の戦い次第で少将への昇進を推挙させて頂きたく」


その4人とは、石拆(いわさく♂)、根拆(ねさく♂)、闇淤加美(くらおかみ♀)、闇御津羽(くらみつは♀)のことであり、尾羽張と同年代の者達であり、武力は勿論の事、指揮能力に長けている。


その実力、能力は悠希も認めている。


「ほぅ、我が国にも若い力が育って来ているか。まずは此度の戦いで力を示せ。さすれば我が名に誓い昇進を約束しよう」


「はい、有り難き幸せ」


帥升は若き才能を喜び、条件付きだが昇進を約束した。



さて、まずは香椎かな。

その前に…。


「石拆、直方で徴兵隊の出陣準備よろしく」


「了解!」


尾羽張、石拆、闇淤加美、闇御津羽の4人は奴国王都を出発して、海道を出たところにいた。

そこで、石拆に先に直方に行くように頼んだところだ。

ちなみに根柞は元帥直轄部隊を率いて後から合流予定だ。


「尾羽張さん、どういう経路で行くつもり?」


闇淤加美が尾羽張に質問する。

皆まだ若い為、このメンバーで話すときは少し砕けた感じになる。


「香椎→森江山→乙犬山→久山→朝倉かな」


「近いところから何だね。美鳥・霧也→乃愛→沙羅→朱音・白斗 の順か。沙羅さんが怖いかな」


「みんなあまり順番には拘らないでしょ。沙羅さんが怖いのは同意だけどね」


尾羽張はちょっと震えながら答える。


「で、真面目な話、どの程度認めて貰えると思ってる?」


今度は、闇御津羽が尾羽張に聞く。


「ぶっちゃけ私に関しては1対1での戦いまでいく人はいないと思うよ。今回の戦果で判断する人はいるかもだけどね。本当に信頼を得るためには時間をかけるしかないさ」


尾羽張は素直な思いを口にする。


「なら、今回の作戦は我々だけでやる必要があるの?」


闇御津羽はさらに突っ込んだ質問をした。


「久留米攻略が必要なのはわかるよね?」


「現在の膠着を打破するには一番の近道なのと実は攻略が容易であること」


「その通り。糟屋を攻めている現状があってのことだけど、久留米攻略は比較的楽にできる。ただし、個人の武力が必須だ」


「なるほど、そこで私達が力を示して尾羽張さんだけでなく、私達も認めさせるわけだ!」


「正解。悠希さんも恐らく同じ考えだ。今は志韋矢大佐が力を示しすぎている。健全な国作りには対抗馬が必要さ」


「腕が疼きますね!」


「それは病気だね。腕は鳴るものだ」


こんな調子で道中は進み、香椎に到着した。


香椎 軍議の間


参加者は、尾羽張、闇淤加美、闇御津羽、美鳥、霧也の5人。


「この度、元帥に任命された尾羽張と言う。今後ともよろしく」


まずは尾羽張から挨拶をする。


「青龍大佐を仰せつかっております、美鳥と申します。よろしくお願いいたします」


「玄武大佐を仰せつかっております、霧也と申します。今後ともよろしくお願いいたします」


美鳥、霧也ともに無難に挨拶を返す。


「そちらの方々は?」


美鳥は尾羽張と一緒にいるふたりについて尋ねる。


「現在私の副官をしてもらっている闇淤加美と闇御津羽だ」


「闇淤加美と申します。お見知りおきを」


「闇御津羽と申します。お見知りおきを」


闇淤加美、闇御津羽が挨拶をする。


「まずは今後の伊都国攻略の流れを話す」


「「はっ!」」


尾羽張が宣言し、少し微妙な表情をしていた美鳥と霧也は改めて姿勢を正す。


「美鳥、青龍隊の兵数と錬度はどうか?」


「青龍隊は、兵数750錬度80%となります。現時点で750名全員出陣可能レベルに達しています」


「続いて、霧也。玄武隊はどうか?」


「玄武隊は、兵数1,000錬度60%。現時点で800ならば錬度90%で出陣可能です」


奴国では訓練の完成度を、軍事訓練に基準を設け錬度という数値で表す。

錬度80%を超えると出陣可能と判断されるため、青龍隊、玄武隊合わせて1,550が出陣可能となる。


「2、3日中に糟屋に進攻してもらう。それまでに出陣の用意を済ませ、命令があり次第すぐに移動出来るように準備すること」


「「はっ!」」


思ったより早い糟屋への再進攻の話に美鳥、霧也は気分が高揚する。


その後、尾羽張の久留米進攻を切っ掛けに糟屋を制圧する作戦が語られた。


「さて、2人とも私、闇淤加美、闇御津羽の実力がわからなく不安に思ってないか?もっと言えば自分と比べてどうか?とか…」


尾羽張は言葉を飾らずはっきりと二人に話をふる。


「…いえ、そんなことは…」


「ない?ちなみに今回の作戦が上手くいったらこの2人ともう2人合わせて4人の副官は少将に任命される予定だよ?」


美鳥の言葉を遮り、尾羽張は美鳥、霧也の上となる事実を告げる。


「何が言いたいのだ?」


黙って聞いていた霧也が殺気をこめて真意を問う。


「いやね、少しでもわだかまりが残るのは良くないかなと思ってね。個人武力が絶対ではないが、大佐以上だと指揮能力は当たり前に身に付いてるものだ。2人と1対1で勝負してみないか?」


尾羽張は自分はともかく、4人の副官は実力を見せつけないと後々の禍根になると考えていた。

乃愛、沙羅は進言し、中将まで昇格させる考えなので、奴国再建時の4人の大佐(青龍、朱雀、白虎、玄武)には実力行使でわからせようと考えていたのだ。

悠希に語った実力行使とは実は副官4人の力を4人の大佐に示すことだった。


「「よろしくお願いいたします」」


5人は連れだって錬兵場に移動した。


組合せはくじ引きにより、美鳥対闇淤加美、霧也対闇御津羽に決まった。


まずは、美鳥対闇淤加美。


美鳥は槍、闇淤加美は刀を使う。

模擬戦の流儀に従い棍と木刀が使用される。


両者中段に構えて開始の合図を待つ。


「始め!」


美鳥が徐々に間を詰める。


闇淤加美は中段に構えたまま微動だにしない。力が抜けた自然体であり剣先はしっかり中心をとっている。


シュッ…カッ…


美鳥がやや遠間から牽制の突きを繰り出す。

それを闇淤加美が払う。


シュッ…カッ…シュッ…カッ…


同様の攻防が繰り返される。

そして美鳥は脱力から一気に今までより深く突きを繰り出した。


シュッ…カッ…ドス!


闇淤加美は、美鳥の突きを手元に招くように木刀で往なし、棍が伸びきった一瞬のタイミングを狙って一気に懐に飛び込み鳩尾に左拳をめり込ませる。


美鳥はその場に崩れ落ちた。


「勝負あり。誰か医務室に連れていけ!」


「はっ!」


「次は霧也と闇御津羽だな」


霧也は木刀の小太刀を中段半身で構え、闇御津羽は木刀の太刀を中段に構える。


「始め!」


霧也が仕掛ける。

一気に間合いを詰め、闇御津羽の太刀を押さえながら、左拳をふるう。


闇御津羽は1歩下がって躱す。


霧也が拳をふるった勢いで回転し、右手に持つ小太刀を横に薙ぐ。


カッ!


闇御津羽は小太刀の鍔を狙い太刀を振るい、霧也の手から小太刀が飛ばされる。


「…参りました」


「勝負あり」


二組の勝負が行われた後、エキシビションとして、尾羽張対闇淤加美、闇御津羽の2対1の勝負が行われた。

結果は尾羽張が指一本触れさせることなく圧勝した。


そしてしばらくして…。


「美鳥、霧也。後は頼むよ。作戦が順調に進めば5日後には森江山に入ってもらうことになる。伊都国攻略は青龍、朱雀、白虎、玄武の成長にかかっている。期待している」


「「はっ!」」


新元帥一行は、森江山に向かうのだった。


その後、森江山の乃愛、乙犬山の沙羅に挨拶がてら作戦を次げ、久山に。

久山では、朱音対闇淤加美、白斗対闇御津羽の勝負が行われ、闇淤加美、闇御津羽の完勝に終わった。


そんなこんなで、一行は朝倉に到着。

直轄部隊、直方の徴兵部隊とも合流を果たす。


そして、奴国王都を出てから3日目に無事最前線である久留米と糟屋への中間の陣に入った。



糟屋 志韋矢陣営 ~


「志韋矢大佐。悠希様より伝令があり、尾羽張様が、奴国の元帥に任命されたとのことです。また、近々新元帥が久留米への進攻を行うとのこと」


久恵州が、志韋矢に伝令から聞いた内容を報告する。


「尾羽張…。確か神威の息子だったな。あいつなら元帥も務まるだろう。久恵州、後は何か掴んでいるか?」


伝令からの報告よりも、久恵州率いるビットからの情報が本命だ。


「どうやら、新元帥は、久留米の環濠の欠陥をついて一気に落とすつもりのようですね。また、久留米の伊都国第2軍団は個々の力がものを言う少数精鋭を掲げる部隊。この点も新元帥の直轄部隊には相性が良いでしょう」


「武力には絶対の自信があるわけだな?」


「朝倉入りする前、挨拶がてら香椎、久山にて、美鳥、霧也、朱音、白斗と尾羽張の部下闇淤加美、闇御津羽が1対1の勝負を行ったとのこと。結果は闇淤加美、闇御津羽の圧勝でした。さらにエキシビションとして、尾羽張と闇淤加美、闇御津羽の2対1の変則マッチが行われ、こちらは尾羽張が圧勝です」


あの4人も弱くないんだがなぁ~。

それに圧勝した2人を相手に圧勝か。


神威より強いんじゃないか?


今の私ならば神威には勝てるが、尾羽張はどうかな…。


「螺羅愛は知っているか?」


螺羅愛は元鴉軍であり、奴国の情報に通じている。


「確か、鴉魔ちゃんと同じくらいの年だったかな。確かになかなかやるなぁという印象ですね」


「面識はあるのか?」


「いえ、存在を知っていた程度ですね」


なんにせよ、膠着が崩れるか。

要警戒だな。



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