表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/26

第15話 糟屋の攻防

伊都国 糟屋 ~


何とか生きて戻ることが出来たか。

ある程度は予想していたがこれ程の強さだとはな…。

指揮官が代わり、弔い合戦という名目…。

士気というのを甘く見てはならないか。


「霞よ、状況はどうなっている?」


「大和様、現在詳細は確認中ですが…」


月軍…500→300

霜軍…500→350

風軍…1000→500

直属…500→400


矢矧隊…300→10


討死:磯風


「分かっているだけで4割減か、大敗だな。矢矧隊はほぼ壊滅。それに磯風…」


「まだ、香椎、久山の別動隊次第で再度逆転も可能です」


「まずは、ここを固めて、情報を待つか」



少し時が遡る。


浜風は、兵100を連れて久山砦付近で待機していた。


なるほど、久山砦の兵はほぼ出払っているな。

これならば、攻略は容易い。


ジャーン!ジャーン!ジャーン!ジャーン!ジャーン!ジャーン!


ドンドンドンドンドンドンドンドン!!


微かに銅鑼の音(と太鼓の音)が聞こえてきた。


「合図…だな?」


「間違いないかと」


浜風は、近くの兵士に確認し、合図が来たと判断。


「全軍突撃~ッ!」


オオオオオオッッッッ~!!!


浜風率いる別動隊100は久山砦に殺到する。


「ウォッ」「ウッ」「アッ」「エッ」


落とし穴だ。浅い溝状の穴(線?)が、目立たぬように数本引かれていて、伊都国別動隊が足を取られ混乱をきたしている。


「今だ、全員討ち取れ!」


そこに沙羅少将が率いる治安維持部隊の王都警備隊100が突入してきた。


うわぁ~っ!

ギャァ~ッ!


足元が覚束ない伊都国別動隊は面白いように討ち取られていき…。


「そこのもの、名のある将とお見受けする。私は奴国少将沙羅と申す。その首貰った!」


「なっ!」


バシュ…


「ああ、浜風様!!」


浜風の首が宙に舞った。


「敵将は討ち取った!残りを殲滅せよ!」


オオオオオオッッッッ~!!!


久山に向かった伊都国別動隊は全滅した。



その頃香椎では…。


「よし、合図だ。全軍突撃~ッ!」


オオオオオオッッッッ~!!!


雪風率いる伊都国別動隊100は、香椎砦の正門に殺到し、門を破壊した。


「今だ、突っ込むぞ!」


ドドドドドドドドドドドドッ…


一斉に砦内に突入する伊都国軍。


「ん?おかしいぞ?」


正門を入ると周りが更に防衛柵で囲まれている。


ガラガラガラガラガラ


壊れた正門を補うように移動式の扉が出口をふさぐ。


「伊都国軍に告ぐ。全員武器を捨てよ!降伏すれば命は保証しよう!!」


「…全員武器を捨てよ」


伊都国軍は雪風の指示に従い、武器をその場で投げ捨てる。


「私はどうなってもよいので、部下の命は保証して頂きたい!」


「ご安心を私は徐如と申します。我が上司である志韋矢大佐の名に懸けて保証致しましょう。但し…」


香椎に向かった伊都国別動隊は皆姿を消した。



悠希軍は、糟屋の砦手前で陣を敷いて待機していた。

情報収集の為である。


こちらにはほぼ被害はなし。

伊都国側には多数の損害を与えたとはいえ、砦に籠るには十分な兵力か。

思ったよりはやるな。


さて、どうするか…。


攻撃特化と聞いていたが、良い参謀役がいるようだな。

一点集中の力押しもありかな。


「悠希様、よろしいでしょうか?」


「鴉魔か、入れ」


「久山の情報が入って参りました。沙羅少将により伊都国別動隊は全滅とのことです」


「うん、沙羅少将に通常の警備に戻るように伝えてくれ。それと、香椎の情報はあるか?」


「香椎にも別動隊が入り込んで全滅したらしいのですが…。申し訳ありません、はっきりとした情報がつかめないのです」


「そうか、分かった。下がっていいよ」


「はっ、申し訳ありませんでした」


幻夢よ、何かつかんでいるか?


どうやら全員生け捕りにしたようなのですが、証拠・証言は得られませんでした。


ビットか?


恐らくは。


カラスにも気付かれることなく動いているふくろうですらつかめないか。対策が必要だな。


私が直接動きますか?


いや、淡麗あたりに調査させよ。


ハッ


幻夢の気配が消えた。


まあ、奴国にとっては問題回避か。

しかし、帥合も侮れない存在になってきたな。消してしまうか?


…ん?

何を考えているんだ、僕は。

頼もしく成長してくれたものだな。


「悠希様、志韋矢大佐が来ています」


「通せ」


「合流の挨拶に来ました」


「調度砦攻略を悩んでいたところだ。何か良い手はないか?」


志韋矢はしばらく悩んで…。


「夜襲…は、いかがでしょうか?」


「夜襲だと?…何か考えがありそうだな?」


「まず夜襲は我が隊のみで行います。今は新月の頃であり、完全に闇に紛れての行動が可能となります。その闇を利用して半刻ごとにちょっかいをかけてきます。これを3日も続ければ…」


「なるほど、では私は昼間を担当するか」


「はい、後は臨機応変に対処していけばと」


「一騎打ちでの決着、降服勧告による決着、お前はどちらを望む?」


「怖いですね。先生らしくもない、私を警戒していますか?私の答えは『私ごときでは判断できません。悠希様のご命令に従います』ということで」


「ふっ、遊んだだけだよ。すまなかったな」


「いえ。では、今夜から夜襲を仕掛けます。失礼」


伊都国 糟屋


「大和様、どうやら久山、香椎ともに失敗したようです。申し訳ありません」


霞は、陽炎(かげろう♀)という隊長が率いる諜報部隊「夢幻むげん」に調査させた結果、久山の兵は浜風を含めて全滅、香椎の兵は雪風を筆頭に行方知らずとなっていることが分かった。


月軍…500→300

霜軍…500→350

風軍…1000→500

直属…500→400


矢矧隊…300→10

別動隊…200→0


討死:磯風、浜風

不明:雪風


「取りあえず今の1,560で対処するしかあるまいか…。いや、福岡の兵をこちらに回せ」


「ふっ、福岡の兵を…ですか?」


「背に腹は変えられんだろうよ。福岡の地は螺翁様に譲渡する。急ぎ友里亜様に連絡を取り段取りをつけろ」


「は、承知いたしました」


その夜。


「敵襲だ!!」「奴国軍が攻めて来たぞ!」


司令室の隣の仮眠室で休んでいた霞は兵の騒ぎに気付き、外に出る。


「何事か?」


「はっ、奴国による奇襲を受けています。現在正門付近の矢倉、高矢倉にて応戦中です」


「奇襲ですって?」


霞は正門付近にある物見台に向かう。

すると程なくして騒ぎがおさまる。


「引き上げたか?」


これは…、まさか。

ちょっと面倒なことになりそう…。


「霞よ、奴国軍が攻めて来たと?」


「大和様、軽い攻撃で引き上げて行きました。恐らく半刻ごとに襲撃があると思われます」


「疲れを誘い、隙をみて攻略…か。嫌な策だな。対策はあるか?」


「なるべく交代制でしのぐしかありませんね。3日もすれば福岡からの増員が到着するでしょうから」


「そうか、分かった。兵達に頑張るように伝えてくれ」


「はっ」


夜は志韋矢の、昼は悠希の攻撃で糟屋の

兵は疲弊していた。

だが、3日目の朝に待ちに待った援軍が到着した。


大和、霞は、早速再編制を行った。


総隊長:大和

特別参謀:霞(かすみ♀)

直轄兵 500

朝霜、初霜


第1軍団 第1組 2,000

組長:武蔵(むさし♂)

吹雪(ふぶき♀)、白雪(しらゆき♀)、初雪(はつゆき♀)


第1軍団 第2組 1,500

組長:長門(ながと♂)

天龍(てんりゅう♂)、龍田(たつた♂)、谷風(たにかぜ♂)


第1軍団 第3組 1,000

組長:陸奥(むつ♂)

時雨(しぐれ♀)


第1軍団 第4組 1,000

組長:矢矧

冬月、涼月、花月(はなづき♀)


「みなよく集まってくれた。これで士気も高まり、奴国軍を蹴散らすことが出来るであろう」


「大和様、此度の失態の責任はどうとるおつもりで?」


長門が不遜な態度で大和の失態の責任を問う。


「後日友里亜様の判断にお任せするさ」


「過ちを犯した将の元だと、同じ過ちを犯しそうで怖くて働けないのですが?」


「では、この場で古来よりの方法で判断するか?」


大和は淡々と告げる。

古来よりの方法とは力が全て、勝ったものが正義の世界における唯一無二の解決法である一対一での決闘である。


「チッ、この場は従っておきますよ。後日どのような判断が下されるか楽しみだ」


長門は渋々ではあるが従うことにしたようだ。

長門自身も強者つわものではあるが、軍団長を務める大和の武力は一枚も二枚も上手である。


「他に異論がなければ、今後の方針を決めたいが?」


「異論はありませんよ。大和殿の思うままに」


大和の問いに、武蔵が答える。

武蔵は福岡で大和の変わりに長を務めていたので、この発言には誰も反論できない。


ちなみに第1軍団の軍団長が大和、副団長が武蔵、長門、陸奥の3人となっている。


今回の糟屋防衛に第1軍団の総力を結集する形となった。


「霞よ、方針を示せ」


「はっ。今回の目的は糟屋の防衛、奴国軍の撤退となります。まずはそれを念頭に置いて下さい」


戦いにおいて目的をはっきりさせることは非常に重要なことであり、事前周知が必須となる。

目的をはっきりさせた霞は話を続ける。


「第1組から第3組までは砦の外に陣を敷いて頂きます。真ん中を第1組、左に第2組、右に第3組となるようにお願いします。第4組は砦内での防衛およびに予備戦力として遊撃に当たります」


「砦内に置いて置くには兵の数が多いか。第1組を中心とした鶴翼の形で良いのか?」


「はい、武蔵様。おっしゃる通り鶴翼の形でお願いします。また、長期戦も視野に入れますので、虎落、木柵の他、土塁まで含めた陣の構築をお願いします」


「そこまで必要ないだろう。一気に奴国軍を壊滅させれば良いだけではないか」


長門は築陣するまでもなく、一気に奴国軍を撃退すれば良いと主張する。


「博打は出来んだろうよ。大和殿らが1度敗れているのだ、敵の力は甘くはない。築陣せずに野戦を挑み万が一敗れようなら我ら第1軍団に生きる地はない」


長門の言い分にダメ出しをしたのは武蔵であった。


「戦う前から負けを考えては…」


「万が一も許されんのだ!」


それでも食い下がろうとする長門の言葉を遮るように武蔵は言い放つ。


「くっ!」


長門は屈辱に燃える顔をしながらも口を閉じ、重苦しい空気が漂う。


「霞よ、続けよ」


そんな中、大和が霞に続きを促す。


「防衛に徹する中、奴国の兵站線を探り、兵糧の保管場所を突き止めます。そして別動隊を組みそこを襲撃し、撤退に追い込みます」


「よし、それでいく。異論は許さん。直ちに行動に移れ!」


「「「「「はっ!」」」」」



「なんだって?伊都国の援軍が現れただと?」


悠希は報告を聞いて、声を荒らげた。


なんてことだ、これで夜襲での疲弊作戦は失敗に終わったか。

伊都国はどこから兵を集めた?


「鴉魔!」


「はっ、これに」


「伊都国はどこから兵を集めたかわかるか?」


「福岡からです。また、伊都国第1軍団以外の軍団が福岡入りした模様」


なるほどな。

福岡は確か、目前の敵である第1軍団の管轄だったはず。

管轄地区を減らしてでも、自分管轄の兵を全て糟屋に集めたか。

これは手強いな、気を引き締め直さないと。


神威さんの仇討ちやら、帥合への疑念などは無しにして全力を尽くす。


「鴉魔、鴉軍の総力をあげて伊都国第1軍団の全てを調べ尽くせ。分かったことは小さな事でも報告するように」


「はっ!」


悠希は直ちに軍議を開いた。


参加者は、悠希、乃愛、美鳥、赤字、白斗、霧也、磐土、志韋矢、螺羅愛、渡連、緋鼻、裸流、徐如、白鳥、奈々衣、久恵州。


今回の遠征に参加している将、参謀を全員参加させている。


「まずは現在の状況から。奴国軍 2,410に対し、伊都国軍 6,000。伊都国軍は、砦外に鶴翼の形をした陣を形成中。さらに、こちらは連日の作戦により疲労のある状態。さて、何か言いアイデアはないかな?」


悠希は参加者を見渡して意見を求める。


「かなり形勢が悪くなりましたね。築陣を進めているのは我が軍の撤退が戦略目標とみるべきですかね」


志韋矢は、まず相手の目的を把握(予測)しようと、悠希に確認してみる。


「そうだろうね。守りを固めて兵糧基地へ襲撃。そして撤退に追い込む。…といったところだろうね」


冷静になった悠希は相手の思考をほぼ正確に予想することが出来ている。本来は筑紫島全体でも相当優秀な部類に入るのだ。


「発言よろしいでしょうか?」


「ん?確か奈々衣だったね。自由に発言するように促したはずさ、皆も遠慮しないようにね」


奈々衣が発言の許可を願い、悠希は自由に発言する場であることを強調する。


「では。独立機動隊のみ残して、全軍撤退することを提案します」


奈々衣の発言に、悠希と独立機動隊以外のもの達が動揺する。


「意図は?」


悠希は簡潔に質問する。


「兵力差が大きいのでこのままだとじり貧になります。1度立て直す必要があるでしょう。幸い旧不弥国領土も安定してきているため、短期間での兵の増員も可能でしょう。全軍撤退としないのは、糟屋の兵の数が人口に対し多すぎるから…です」


「志韋矢大佐はどう思う?」


「妥当かと。ただ奴国から警備隊に参加している破卍隊も加えて頂けると助かります」


「いいよ。さて、他に意見はあるかな?」


「ひとつ質問なのですが、人口に対し兵の数が多すぎることと兵を残すことに関連はあるのでしょうか?」


乃愛が疑問をぶつける。


「だって、奈々衣?」


悠希は奈々衣に説明を促し、奈々衣が答える。


「人口に対し兵の数が多いということは臨時での徴兵が行われたということ。通常の徴兵時より錬度が低いと思われます。このタイミングを逃すと錬度があがり対処が困難となりましょう。今の内に削る必要があります」


「なるほど、そういうことか。ただ兵の数が多すぎる。志韋矢殿、独立機動隊のみで対処が可能なのか?」


乃愛は兵を残すことは理解したが、今度は残す兵が少なすぎることに懸念をしめした。


「兵の数の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてやる! ということですよ」


志韋矢は自信満々に答えた。


「よし、この場は志韋矢大佐の独立機動隊に任せて、全軍撤退する。乃愛は森江山、磐土は乙犬山にて待機せよ」


「「「「「はっ!」」」」」


この後奴国は、独立機動隊の400を残して撤退した。

また、翌日破卍隊100が合流し、そのまま正式に独立機動隊傘下となった。


さて、6,000 vs 500 どうなるか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ