表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/26

第9話 不弥国攻略戦 香椎攻略

さて、あれが香椎か…。


悠希は海道の後始末を神威に任せて、香椎に来ていた。


ここ香椎は磐土が守っているんだったな。


「誰か、野椎をここに連れて参れ!」


野椎は香椎への撤退の途中で白虎隊白斗に捕らえられていた。


「お連れしました」


「ご苦労、下がってよい」


「しっ、しかし…」


「下がれ!」


「はっ!失礼いたしました」


「よろしいので?」


「まあ、君の武力では逃げることも、私をどうこうするのも不可能だしね」


「…否定は出来ませんね」


「それに、あまり他には聞かせたくない話があるからね」


悠希はニヤリて笑いながら告げる。


「…なんでしょうか」


野椎はやや困惑顔で聞き返す。

奴国への寝返りを誘うつもりでも、わざわざ人払いはしなくても良いのだが…。


「ずばり、奴国に来ないか?」


「…お断りします」


「もう不弥国も長くないよ?」


「まだ海道が落ちただけ、自信過剰は痛い目に合うわよ?」


「既に宗像および北九州は陥落してるよ。別動隊がいるんでね。今日明日中には小倉、門司、豊前を攻略予定だ。君達の最大戦力である四大将軍は海道、香椎、久山、そして犬鳴山だったよね?」


「なっ、まっ、まさか…、そんな…」


「まだ情報を制限しているから、そちらさんは知らなくても無理はないけど。ちなみに人払いはこれが理由。そして、そろそろかな」


「悠希様、よろしいでしょうか?白虎大佐より伝令が来ています」


「伝令をここに通せ!」


「来たみたいだね」


悠希は野椎にウィンクして見せる。


「悠希様、香椎を制圧、敵将磐土を拘束いたしました」


「よし、全軍、香椎に入るぞ」


「はっ!」


唖然とする野椎。


「野椎さん、とりあえず一緒に来てくださいな」


「鴉魔!丁重にお連れしろ!」


「はっ!」


香椎に入った悠希はその執務室にいた。

執務室には、悠希を中心に右側に美鳥、朱音、左側に白斗、霧也座っていた。


そこに、鴉魔に連れられて、野椎、磐土が入ってきた。


悠希と向かい合う形で、二人は片膝を付き、頭を下げる。


鴉魔はそのまま悠希の後ろに控える。


「頭をあげろ」


二人が、頭をあげたのを見計らい話し掛ける。


「野椎さん、改めて話すけど、奴国に来ないか?」


「…、なるべく血が流れないようにしていただけるならば」


「のっ、野椎…」


「おっと、磐土さんだったね。始めまして、私は奴国で軍師長を務める悠希という。どうかな、磐土さんも奴国のために働いてもらえないかな?」


「…無理だ。不弥国を裏切ることなんて出来ない」


「ふむ。我が国は滅亡寸前まで行きましてね。人材が不足しているのですよ。先代の意思に従い、邪馬台国を倒し、筑紫島を統一するためには、優秀な人材は喉から手が出るほど欲しい。それに、事前にある程度不弥国の内情は調べさせて頂きました。その結果、不弥国は軍師久久能智の思うがままとのこと。貴方も苦労しているのでは?」


「…確かに、久久能智が暴走している感は否めない。しかし、それだけで国を裏切るわけにはいかない」


「貴方が守るべきは王家ですか?民ですか?」


「もちろん民だ」


「今の不弥国ではもはや民のための政治は不可能だ。王多模は久久能智にぞっこんであり、もはや傀儡だ。そしてもはや説得など無駄だということは貴方の方が実感しているでしょう」


「…最悪の場合は、王を排除し、王太子を王に立てる。王太子なら羽矢火様なら、建て直し可能な筈だ」


「無理ですね。彼はもう逃亡し、不弥国はもとより筑紫島にもいませんよ。磐船なるものと共にね」


「なっ、なんと…」


「事実ですよ、残念ですが。貴方にもなんとなく心当たりがあるのでは?」


「…」


「沈黙は肯定と判断します。で、いかがです?奴国で働きませんか?先程も言いましたが、我々の考えでは不弥国の人材はある程度そのままお手伝い頂きたいと思っています。我が国の統治体制に合わせて多少の変化はあるかと思いますがね。ご協力頂けませんか?」


磐土は野椎を見ると、野椎はゆっくりと頷く。


磐土は上を向いて、ひとつ深い溜め息を付くと、悠希をまっすぐ見据える。


「よろしくお願いいたします」


「こちらこそよろしく頼むよ」


こうして、新たに二人が奴国傘下に加わった。


「早速だけど、磐土は、まず香椎の民を安心させてほしい。後日、奴国の担当者がくるので協力するように」


「はい、承知いたしました」


磐土は執務室を後にする。


「野椎、久山はなんとかなるかな?」


「久山の守りは水虬というものが、当たっています。彼女は羽矢火様に心酔しており、久久能智とは非常に仲が悪いです。羽矢火様の出奔と現状を話せば降服するやも知れません」


「よし、じゃあ試してみて。自ら赴いても良いし、人を使っても良いから」


「はい、承知いたしました」


野椎も早速行動に移そうと、執務室を後にしようとすると…。


「あっ、待った。もう夕刻だし、明日にしよう。それに、もうじき来客があるはずだから」


「はぁ、来客…ですか?」


「入るぞ~っ!」


調度その時、執務室に神威と希鈴が入ってきた。


「あ~、彼らではないよ」


悠希は苦笑いだ。


「ん?タイミングが悪かったか?」


神威は堂々としながら、希鈴は恐縮しきりで、急遽準備された椅子に座る。


野椎にも椅子に座るようにいい、野椎は遠慮がちに席についた。


「悠希よ、随分と早かったな。何をしたのだ?」


神威としては、早めに海道を引き継ぎ駆けつけてみれば、既に香椎が落ち、さらに砦内も落ち着きを取り戻しているという狐につままれたような感じがしていた。

また、これは野椎も聞きたがっていたことであった。


「たいしたことではないですよ。海道攻略後に捕らえていた不弥国の兵を使って、香椎の門を開けさせ、一気に突入しただけです」


「!?」


悠希は海道突入前に白斗に命じて、香椎への退路に兵を伏せていた。

そこに海道から撤退した野椎とその部隊が差し掛かり、これを捕らえた。

野椎を説得するかたわらで、残りの不弥国兵に取引を持ち掛けた。すなわち野椎を助ける代わりに撤退を装い、香椎の門を開けさせろと。

こうして香椎はほぼ戦闘がないまま攻略されたのだ。


「なるほどな。それでそちらが野椎か、私は神威。奴国の元帥だ、よろしくな」


「野椎ともうします。よろしくお願いいたします」


「で、我々ではなく、誰を待っているのだ?」


「その前に、みんなに話しておくことがあります。現在、別動隊が宗像、北九州の制圧を完了しています。また、さらに小倉、門司へと進攻を開始しています」


「なっ、前に言ってたツテとやらか?何者なのだ?」


「黙っていて申し訳ありません。事は機密を有することでしたので帥升様にのみ伝えてありました。別動隊を指揮しているのは志韋矢という者とその配下達です」


「まあ、仕方ないか。しかし、驚いた。では、我々が担当する内の残りは犬鳴山と久山、朝倉、本拠である直方か」


「そうなります。さらにその内の久山は野椎に説得させますので明日には攻略完了。そして、犬鳴山もそろそろかな…」


「悠希様、不弥国の軻遇突智と名乗るものが降服したいと門前に来ています」


「ここに連れてこい!」


「はっ!」


唖然とする野椎。

そして、一同揃って急展開について来れていないようだ。


「私は軻遇突智と申します。不弥国では四大将軍の地位におりました。奴国に降服させて頂きます。今後ともよろしくお願いいたします」


これを聞いた悠希は、途端に不機嫌になり告げる。


「お前はいらないな。本来ならここで首を取るところだけど、磐土と野椎が仲間になった記念に見逃してやる。久久能智とやらの元に帰るがよい」


「なっ、なんだって?」


「お前の行動は信用できないんだよ。元々久久能智にすりよっていたくせに、なんの抵抗もなく降服しようとする。そんな奴を信用できると思うか?」


「私は四大将軍の筆頭だぞ、その力が欲しくないのか?」


「うん、別にいらない。お前言ってるほど強くないし、むしろ弱いし」


「貴様!!」


「白斗、相手してあげてもらっていいか?」


「はっ、構いません」


「じゃ、試してみよう。もし白斗に勝てたら、私の上司として迎えようじゃないか」


「馬鹿にしやがって、やってやる。貴様の上司になってアゴでこきつかってやる!」


「負けたら裸で追い出すぞ?」


「上等だ!」


悠希を先頭に執務室を出る。


「この辺でいいか。白斗は刀だったな、この木刀を使え。軻遇突智は自分の剣を使うがいいさ。おい、こいつの剣を返してやれ」


悠希は部下に命じて、預かっていた剣を返してやった。


「とことん馬鹿にしやがって…」


白斗と軻遇突智は間合いをとり、向かい合う。


「では、始め!!」


軻遇突智は中段、白斗は下段でかまえている。


互いに間合いを詰めていき、白斗は下段から軻遇突智の両拳の中心を攻めるように、中段に上げ始める。


すると、軻遇突智も、これに応ずるようにやや剣先を下げいく。


軻遇突智の剣が、白斗の刀と合おうとする瞬間、軻遇突智は右足をひいて諸手左上段に振りかぶる。


白斗はすかさず中段のまま大きく右足から一歩進む。


軻遇突智は、直ちに左足をひいて中段となり、そこから白斗の右小手を打つ。


白斗はその剣を、左足を左にひらくと同時に、小さく半円を描きながら、右鎬ですり上げ、右足を踏み出し、軻遇突智の右小手を打つ。


「ぐぁっ!」


軻遇突智は右手を強く打たれて剣を落とし左後ろに後退する。


白斗は、左足を踏み出しながら、諸手左上段に振りかぶり残心を示している。


「もう終わりか?」


「なめやがって、まだだ!」


軻遇突智は、剣を拾うと八相の構えをとる。


対する白斗は脇構えで応じる。


互いに間合を詰め、軻遇突智は間合いを見定め八相の構えから諸手左上段に、それに合わせて白斗も脇構えから諸手左上段に変化した。


互いに右足を踏み出すと同時に、相手の正面に打ち込む。


これは相打となる。


相打となってからは、双方押し合いとなり、互いの刀身が鎬を削るようにして、相中段となる。


軻遇突智は、刃先を少し白斗の左に向け、右足を進めると同時に、諸手で白斗の右肺を突く。


白斗は、左足を左前に、右足をその後ろに移すと同時に大きく巻き返して軻遇突智の正面を打つ。


勝負あり。


その場に倒れ込む軻遇突智。

頭からひとすじの血が流れているが、傷自体は深くない。

白斗が絶妙な加減をしたためだ。


仰向けとなり、呆然とする軻遇突智。

白斗はそんな軻遇突智に声を掛ける。


「まだやるかい?」


その言葉には少し暖かみがあった。


これほどの差があったか…。

軻遇突智の目からは涙が流れていた。


軻遇突智は、身体を起こし、片膝をついて頭を下げると…。


「参りました、どうやら私はうぬぼれていたようです。権力、武力…、力が全てと考え生きてきました。戦いに敗れて、なお感じる暖かさ。私は間違っていたのですね」


「力が全てというのは間違っていると思うよ。でもね、貴女の全てが間違っていたとは思わない。自分が置かれた状況というのもある、人間は残念ながら平等ではないしね。だから、正解はひとつではないし、死を間際にした時に、恥ずかしく無いような生き方が出来たらいいんじゃないかな」


軻遇突智は涙が止まらなくなっていた。


そして、しばらくしてひとつ深呼吸すると、着ている服を一気に脱ぎ捨て、悠希に向かって正座をし、頭を下げる。


「この度は、大変失礼いたしました。本来であれば即首をとられるところ。生かして頂いた恩を忘れずに生きていきます」


「久久能智の元に戻るのか?」


「いえ、もの作りでもしながら自分を見直そうかと考えています」


「そうか、機会があれば、奴国の智恵を訪ねるがいい。我が国はもの作りの職人も募集中だからね」


「えっ?あっ、ありがとうございます」


悠希は白斗に視線を送る。

すると、白斗は、軻遇突智に近づき服をかけてやる。


「よっ、よろしいのですか?」


悠希は少し頬赤くしながら…


「反省してるみたいだし、女性には優しくしないとね」


「ありがとうございます。では、私はこれで失礼します」


軻遇突智は香椎を後にした。


とりあえず解散し、悠希は自室として使用している部屋へと向かう途中、神威に話し掛けられた。


「悠希よ、どうして軻遇突智が降服したいと訪ねてくるのが分かったのだ?」


「これも別動隊の志韋矢に命じて射たことなのですが、宗像攻略後に、犬鳴山へ進攻の気配を見せろと。また、そのタイミングで情報規制を一部解除し、軻遇突智に現状が伝わるようにしました。軻遇突智も急に情報が入ってきたことから情報がコントロールされていることに気がつくでしょう。すると、もはや不弥国はこれまでだ、私ほどの力があれば奴国でも重用されるだろうと考え、ここ香椎に投降してくるだろう…と」


「よく思い付くものだ…」


神威は半ばあきれ顔で感心していた。


「まあ、それが軍師の仕事ですからね」


悠希は笑いながら答える。



神威ともわかれ、自室にて明日以降の戦いに思いを向ける。


いよいよ、不弥国も終わりだな。


「悠希様」


「ん、鴉魔か。どうした」


「志韋矢少佐より、宗像、北九州の他、小倉、門司までの制圧が完了したとの報告か入りました」


やるな志韋矢。想定以上の早さだな。


…クックック、大丈夫なのか?


問題ないさ。


「淡麗を、帥合ではなく志韋矢としての立場への軍師長悠希からの正式な使者として使いに出せ」


「はっ」


まずは、志韋矢も奴国の体制に組み込むことで、これ以上の力を持てないようにしないとね。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ