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拒絶

作者: 名もなき素人物書き

いつかは必ずどこかで出てくる拒絶の気持ち。

持ちかけられた話がどんなにいいものでも、それを本人が拒絶したら意味がない。

自分がどんなに気に入ったことでも、それを相手に拒絶されたときもそうだ。


いつからこんなことを考えるようになっただろう…。

気がついたら、結構いい話を持ちかけられて…でも、それをいつも拒絶する自分がいた。

いつも無表情。というより、つまらなさそうな顔をしている、佐山さやま 芳郎よしろう


最初に拒絶したのはいつのことかは覚えてないが、はっきりしたのは中学3年のとき。

学校で1・2を争うほどの人気がある女子生徒から告白されたときだ。

その女子生徒から告白されて、嬉しく思わない男はいないだろう。

だが、自分には不釣合いだと思って断った。

「どうして?」

「俺と一緒にいても、楽しいことなんて何もないから…」

相手にとっては納得できない内容だということはわかってる。

これ以上追求されるのを防ぐために、俺は何も言わずにその場を去った。


この日はこれで終わったが、次の日から、一部の連中から変な目で見られるようになった。

原因は告白を断ったことだと、何となくだがわかった。

しばらくは勝手に言ってろって感じで放っておいたが、いつからかいじめにまで発展した。

肉体的にも精神的にも、苦痛に感じるほどでもなかったので、特に気にしなかった。


数日後、親の都合で転校することになった。

お別れ会とかが開かれることはなかったし、早くみんなの前から姿を消したいと思っていたこともあって、別れの挨拶も短くすませた。


何通か手紙を渡されたが、全部読まずに捨てた。

中学に入った時から何度もあったことで、最初は読んでいたが、2回目も同じ内容だったこともあって、3回目以降は中身を見ることなく捨てるようになった。


転校先ではいつも一人で、友達もできなかった。

何度か誘いもあったが、付き合う気になれずに断ってばかりいた。


ある日、母親が懇談会で学校に顔を出したことがあった。

親同士で交流を深めることが目的みたいだ。

どうもそのときに俺の学校での生活態度を知ったらしく、帰ってきてから色々言ってきた。

「学校でいつも一人なんだって?」

「それで?」

「「それで?」じゃないでしょ!どうして友達を作ろうとしないの!?」

「面倒くせぇから」

俺の返事に呆れて何も言えなくなったみたいで、これ以上追求してくることはなかった。


12月になり、冬休み前だった上に、クリスマスパーティーを学校行事でやることになっているみたいで、みんなはしゃいでいた。

だが、友達がいない俺には、そんな話題が流れてくることもなく、まさに蚊帳の外だった。

しかも、いつ行われるのか知らなかったこともあり、冬休みはほとんど外に出なかった。

パーティーのことを知ったのは、25日の夜に親から聞いたときだった。

だが、聞いた後も行く気にはならなかった。

面倒だった上に、どこで開かれるかも知らなかったからだ。


冬休みが明けて始業式の後、25日のパーティーを親の手伝いなどを理由に欠席したり、途中で黙って抜け出したりした生徒が何人かいたことで教師は怒っていたが、注意されたのは俺だけだった。

「佐山!パーティーをなぜ連絡もせずに休んだんだ!?理由を言ってみろ!」

「パーティーは知ってましたが、開催日時と場所を知らなかったからです」

俺の返事に教師はもちろん、みんなも変に思ったみたいだった。

「知らなかったって…招待状見ただろ?」

「何ですか?それ?」

俺は本当に知らなかった。教師は俺がとぼけてるわけじゃないことを察したのか、これ以上追求しなかった。しかし…。

「何って…変だな…お前宛に郵便で送ったんだが…」

なるほど、そういうことか…。

そういうことなら、知らないのも納得できる。

自分宛てに来た手紙は、今も中身を見ることなく捨てているからだ。

破るのも面倒なため、そのままごみ入れに投げ入れてる。

捨てた手紙の中におそらく、招待状が混じっていたのだろう。


何気なく聞いた話によれば、以前にも同じようなことがあったらしい。

酒やタバコはなかったが、風邪などと理由をつけて休み、ゲーセンやデート等をやっていた生徒がいたことを風の噂で聞いた。

こんなことが毎年あるにもかかわらず、パーティーは行事から外れないのが不思議でならないそうだ。


そんなこんなで、いつの間にか学校を卒業した。

卒業パーティーもあったが、俺は出席せずに帰った。

後で親に色々言われたが、言い返すのも面倒で黙っていた。

そんな俺の態度に何も言う気にならなくなったのか、親は呆れた顔をしていた。


高校生になり、俺は家を出て、亡くなった祖母の生まれ故郷に引っ越し、祖母が残した家で新たな生活を始めた。

それと同時に、祖母の弟の息子夫婦に養子入りして、姓は佐山から柴崎に変わった。

だが、今までと何ら変わりはなく、入学して半年が過ぎても、友達は一人もできなかった。

いや、俺が作ろうとしないのだ。何人か声をかけてきても、それは最初だけで、しばらくすれば誰も俺に声をかけてこなくなった。


ある日、学校で不幸の手紙の話題が出た。

みんなはそのことで不安に思っているみたいだが、俺はその話題には入らなかった。

「ねぇ、佐山君」

「ん?」

一人の女子生徒が不安を隠せない表情で俺の前に立っていた。

「不幸の手紙、どうしてる?」

「俺には届いてないけど?」

俺の返事に女子生徒は驚き、それをみんなに言うためか、その場を去った。

「柴崎君、本当に友達いないのね?」

誰かが言ったことだったが、俺は特に気にしなかった。しかし、何かが引っかかった。


ある日、俺宛に手紙がいっぱい来たが、全部読まずに捨てた。

この出来事以降、手紙の話題は聞かなくなった。


結局、2年・3年になっても、友達を一人も作らないまま卒業した。

しかも実家には一度も帰らなかった。

両親は、姓を佐山に戻さないなら縁を切ると言われ、今になって何言ってるんだと呆れたぐらいだ。

元々、居場所がない佐山の家族とは縁を切るために、仲が悪かった柴崎家に養子入りしたのだから。


修学旅行は、行き先が中学時代の転校前に住んでいたところだったため、どこに何があるかだいたい知ってたこともあって、養父母に事情を説明して、仮病で休んで祖母の墓参りなどをやっていた。

祖母は家族の中で、唯一俺の気持ちを理解してくれる、ありがたい存在だった。

しかし、俺が中学を卒業した時に、やっと一緒に暮らせると思っていたが、その祖母はもう大丈夫とでも言うかのようにして亡くなった。

何もかも失った気分になり、ついには家族さえも拒絶するようになったのだ。

拒絶していた俺が、唯一受け入れられる存在だった祖母の墓参りだけは、毎月の命日にやっていた。


卒業後、ある会社の倉庫で整理の仕事をするようになった。

倉庫には一人でも整理できるぐらいの量しか置いてない。

元々は、一人が寂しかったり、暗いところが苦手な人がいることもあり、1週間の交代制で倉庫整理をすることになっていたのだが…。

「俺、ずっと倉庫整理でいいですけど?」

これを聞いたみんなは驚いた。

「柴崎、寂しくならないのか?」

社員の一人が聞いてきたが…。

「暗いところに、一人でいることには慣れてますから」

俺はこれだけ言ってその場を去り、倉庫整理の仕事を始めた。

こんなこともあり、俺は倉庫整理担当になったのだった。


「あいつ…あの若さで、なんて孤独な人生送ってるんだ…」

こんな声が聞こえたが、気にしなかった。


これではまるで、職場で働きながら、引きこもっているようなものなのかもしれない。

だけど、人と触れ合うことを拒絶している俺には、ぴったりな仕事だった。

こうすれば、嫌なことを聞かれることはないし、俺も聞かなくていいことを聞くことがないからだ。


ある日のこと。

いつものように仕事をして、上がりの時間になったこともあって、帰る準備をしていた。

この日は夕方になって雨が降り出し、濡れることを覚悟の上で、近くにある駅まで走って帰る人がいっぱいいた。

俺はというと、家が近くにあることもあり、しかもいつも折り畳み傘を持っていたことで、雨の心配はいらなかった。

タイムカードを押し、着替えて玄関まで行くと、一人の女性従業員が雨宿りをしていた。

村井さんだったかな…倉庫整理の当番になったとき、一人で寂しいのか、泣きながらやっていたのを俺は見たことがある。

その出来事に見かねて、2日で他の人に交代したことがあった。

なぜかわからないが、どことなく見覚えがあるように感じた。

「一人は寂しいなぁ…今日に限って、誰も声をかけてくれないんだから…」

「俺は一人のほうが気楽でいいけどね」

俺が声をかけると、村井さんは驚いて振り向いた。

「佐山君…」

「人それぞれなんだろうね。一人が寂しかったり、逆に気楽だったり…」

言いながら傘を広げた。

「駅まで送ってくけど?」

「私の家、ここから歩いて10分ぐらいのところだから…」

「どっちにしろ、このままじゃぁ帰れないだろ?入れよ」

これを聞いて村井さんは驚いた。

無理もない。人との関わりをずっと拒絶してた俺がこんなことを言うんだから。

村井さんは表情を変えないまま俺の傘の中に入ってきた。


村井さんに家までの道を教えてもらい、同じ歩調で歩いた。

だが、お互いに一言も言葉を交わしてない。

村井さんはずっと何かを言いたくてたまらないみたいだった。

「…佐山君は、彼女とかいるの?」

「いるように見えるか?」

質問に質問で返すのはよくないが、どうしてこんなことを聞くのか気になってしまった。

「告白されても断ってるから、てっきり彼女がいると思って…」

「…?」

俺はここで変に思った。

というのは、俺は入社してから告白されたことがないからだ。

それなのにどういうことだろう。

「中学のとき、そうだったよね?“一緒にいても、楽しいことなんて何もないから”って断って…」

「!!」

俺は驚いて足を止め、村井さんを見た。

「ま、まさか…」

「久しぶり、だね」

そう…村井さんは、俺が中学のとき告白してきて、そして俺が断った相手だった。

「佐山君が転校してから、住所を聞いて何度か手紙送ったんだよ?なのに一度も返事がなくて…」

「あの頃の俺、自分宛に手紙が来ても、全部未開封で捨ててたから…」

村井さんはこれを聞いて驚き、しばらくしてから泣き出した。

「酷いよ…私なりに精一杯の気持ちを込めて、何通も送ったのに…」

「そうだな…酷い男だ。俺は…」

続きを言おうとしたとき、意外な内容を村井さんは聞いてきた。

「それを知られたくなくて、高校で友達を一人も作ろうとしなかったの?」

「!!…まさか、高校は同じだったのか?」

そういえば、不幸の手紙が出回るようになったとき、一人の女子生徒が声をかけてきたことがあった。

思い返してみれば、その女子生徒と村井さんは同じ声をしてる。

まさかと思って聞いてみると…。

「うん…私だよ?佐山君に会いたくて、同じ高校に進んだんだから」

そんなことを俺は今まで知らなかったし、知ろうともしなかった。

今になって思い出した。高校の時に引っ掛かりを感じたのは、俺の前の姓を知っていたことだ。

「佐山君…今度手紙書くから、読んでくれない?」

「今までの手紙、読まずに捨ててた俺だぞ?いいのか?」

「今度の手紙で最後にするから。だから私もありったけの気持ちを込めて書くから」

いつもの俺なら、ここまで言われても拒絶していた。

だけど、学生時代の話を聞いた後だからかわからないが、一度ぐらいは受け入れてもいいかもしれないと思う自分がいた。

「見ることは見るけど、返事は期待しないでほしい」

これを言うのが精一杯だった。

何かはわからないが、自分の中で疼いていたからだ。


こんなことを話しているうちに、村井さんの家というよりマンションに着いた。

「ありがとう。じゃ、また明日ね」

「ああ。あ、そうそう。俺はもう佐山じゃなくて柴崎だから」

これを聞くと、村井さんはうなずいて入っていった。


翌日、仕事が終わって帰ろうとして荷物を手に取ったとき、見覚えのない封筒が目に入った。

「まさか、村井さん?」

周りにはもう誰もいないこともあって、俺の呟きは誰も聞くことはなかった。

帰ってから封筒を開き、中を見ると2枚ほど手紙が入っていた。

手紙には、村井さんの俺に対する気持ちがこれ以上ないぐらい書かれていた。

その内容の中で、俺の目に焼きついた内容があった。

“中学のときに告白して断られて…あれから何年か過ぎた今も、柴崎君のことが好きです”

―――ずっと想い続けて、今も…。

一度ぐらいは、気持ちに応えてもいいかもしれない…。

そう思ったとき、全てを拒絶するために、自分の中で何年もかけて塗り固められた頑丈な分厚い壁が、内側から爆破されたかのように、一気に崩れていくのを感じた。


読み終わり、手紙の最後に書いてあった、村井さんの携帯に電話した。

手紙の返事と、そのときに思ったことをありのままに話した。

すると、村井さんから、最初は友達として付き合わないか?と言われた。

「中学のときと変わらず、俺と一緒にいても、楽しいことなんて何もないぞ。それでも本当にいいのか?」

俺の質問に、村井さんはあっさりと了承し、少し会話して電話を切った。

もっといい男、探せばいっぱいいるのに、どうして俺を…?

会ったときに聞いてみるかな。


全てを拒絶するのは、もう終わりにしたほうがいいのかもしれない。

そして、ずっと拒絶してたものを、少しづつでも受け入れてみよう。

こんなことを本気で考えた自分が不思議で仕方なかった。

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