背後からかかる声は私の耳に届かない。
私に聴こえるのは今にも張り裂けそうな胸の鼓動。
黒煙のように視界は潰れていき、あの男の姿だけが浮かび上がる。
白煙のように感情は薄れていき、殺意の慟哭だけが心を支配する。
脳裏を過る朱染の愛しい人。
思考を遮る黒衣の忌々しい男。
刃は私の腕となり、風は私の脚となる。
刹那を抜去り、憎悪を抱き、殺意の機鋒を鋭くさせる。
静謐と喧騒を内包した命の匣がその色に、明眸すらも染め上げる。
意識を刀鋩に収斂しろ。
終天を孕む瞬刻に、九百九千の死を刻め。
私の愛おしい人を苦しめ続ける光を持たぬ赫眼の鴉。
その身を斬り刻んだ瞬間に、命の楔は穿たれた。