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(どうすれば……どうすれば……!)
荒い息を吐きながら、握ったままだった包丁を懐中電灯で照らしてみる。
そうしてみると、折れた理由はすぐにわかった。
包丁自体が、折れた断面から、さらさらと砂糖のような粒に変わっていっているのだ。
(……なんだ、これ……!)
この包丁は、先日まで普通に使用していたものだ。
問題なく、固いものも切れていた。
それが、どうして……。
そこで、ようやく思い出した。
(……チラシに書いてあった、今ある武器は全部使えなくなるってやつか……!)
そうだ。そう書いてあったのだ。今あるものは、全て無効化されると。
本当だったのだ。全部、本当。化物も、武器の無効化も、全て本当。
全て、本当だった。本当に、起きてしまった……!
「……チラシッ……チラシ!」
確認せねば。もう一度、確認せねば。
必死で部屋の中を照らして、机を見つけ出し、その中をもう一度探る。
(あった、チラシだ……!)
折り曲げてしまいこんでいたチラシを引っ張り出し、懐中電灯を当てて項目を確認する。
あったはずだ、大事な項目が。今、いちばん大事なもの、武器を手に入れる方法が……!
「……あった……!」
項目の中ほどに、武器の入手方法という項目があった。
「”武器を手に入れるためには、まず、ステータス画面を開きます”……?その、ステータス画面はどうやって開くんだよ!!」
落ち着け。一度見たはずだ。全部目を通したのだ。
そして、そのステータス画面とやらが一番馬鹿らしいと思ったのだ。
人それぞれにステータス画面を用意します、などと馬鹿らしいにも程がある。
だが、今はそれが何よりも必要な情報だった。
「あった……ステータス、オープン!」
項目の『ステータス画面を開くには、ステータスオープンと唱えてください』という一文に沿い唱える。
間抜けだ、などと考えている暇もない。
祈るような気持ちで待つと……一瞬の間の後、目の前に透明なステータス画面が表示された。
「……ほんとに出た……これが夢なら、いい加減覚めてくれよ……」
ゲームのような形式で表示された自分のステータス画面を見つめながら、半泣きで呟く。
だが、夢だろうがなんだろうが今はそれに縋るしかない。
まずは、パラメーター。
筋力、頑強、敏捷、耐久、反応。
幾つかの項目があり、それぞれに5だとか3だとかの数字がついているが、今はそこではない。
(所持品……これでもない。特殊スキル……これでもない。ショップ……これか!)
一番下についていた項目にショップの文字を見つけ、指で押す動作をする。
たしか、武器もポイントとやらで買えると書いてあったから、おそらくはこれだ。
やがて画面は無事切り替わってくれ、ずらずらと武器のリストが現れた。
「……ナイフ?刀……!?違う、そういうのじゃない!もっと、近代的なのはないのかよ……!マシンガンとか!」
最初に表示されたのは、近接武器の項目だった。
冗談じゃない、あんな化物にもう一度近づくなんてゴメンだ。
できることならば、安全な距離から仕留めたい!
やがて上のタブに遠距離武器の項目を見つけ、押し、並んだ弓やクロスボウの項目を引き下げていき、そこに
「あった……!」
ピストルを見つけた。
いや、正確にはピストルと呼ぶのかは知らない。それは警官が持っていそうな、恐らくオートマチックだとか言う形の銃だった。
画像の横には、なにか型番のようなものが書いてあるが、銃に詳しくない俺には分からない。
わからないが、撃ち方ぐらいは知っている。これなら……と、勢い込んで購入ボタンを押す。
だが。
『エラー。購入できません』
「なっ……!?」
押した瞬間、ブーッと小さいエラー音とともにそんな文字がポップアップされた。
何故だ。慌てて何度も購入ボタンを押すが、毎回エラーが出るだけだ。
ドッと嫌な汗が吹き出してくる。なぜだ。なぜだ。
必死で理由を考える。何か情報が足りないのかと画面中を確認すると、右上に『所持ポイント』の項目があるのを見つけた。
「……所持ポイント……1000……?」
1000。そうだ、チラシにも書いてあったではないか。
最初は皆様に1000ポイントをプレゼントいたしますと。
まさか、と思いピストルの下にあった表示を見てみると……そこには『必要ポイント:5000』と記載されていた。
「……5000!!」
足りない。全然足りない。
今あるポイントの五倍だと?そんなバカな。
慌てて確認するが、それより下にある火器の類は、全てそれより上のポイントを要求していた。
1万、1万5000、とんで10万、100万……とてもじゃないが、手が出ない。
……と、なれば。
「……ナイフだとか、弓だとかの原始的な武器で戦えってのかよ……!」
目の前が真っ暗になった。
ふざけている。この時代に、原始人のように武器を担いで化物と戦えというのか。
こんな、馬鹿な……こんな……。