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7話「クリティカルヒット」

―たとえ何度倒れても、あなたが手を差し伸べるなら、何度でも立ち上がってみせる―



セイゴ「やっぱり、お前だったか、山口」

ルーイ「れ? セイゴってばシズクの事知ってんの?」

シヅク「!! ……セイちゃん!?」


 どうやら昨日飛蝗村を訪れた新しいプレイヤーの、もう1人とは俺と一緒に死んだクラスメートの1人だったようだ。出席番号25番山口雫。身長145cmのうえ長いツインテールなので実年齢より幼い印象を受ける。バスでは女子の中で2人だけ征服に着替えなかった内の1人で、最期に見た時は学校指定の赤い体操着、上下ジャージの姿がったが、今はピンクを基調とした魔法使いの服を着ているあたり覚醒したのだろう。

 俺はクローゼットを閉めて、再び蛇のオブジェが取っ手にからまるのを確認してから他の皆さんと一緒にもう一度客間へ行き、そこで生前のクラスメートと再会したのだった。


セイゴ「ああ、山口は俺と一緒に死んだクラスメートだ」

ルーイ「何でヤマグチなの? シズクでしょ?」

カルナ「ルーイ、現世にはファミリーネームというものがあると、この前教えたでしょう?」

ルーイ「ああそういえば。セイゴ、黄泉ではたとえ知り合いの人でもファーストネームで呼んだ方がいいよ」

セイゴ「意味を持たないとは聞いたけど、そういうもんなの?」

ミシェル「ニックネームならともかく、唯名前で呼ぶだけならやっぱりファミリーネームは意味がないのでそうした方がいいという事ですよ。そういえば、昨日はそこまでは話しませんでしたね」

シズク「ほ、本物のセイちゃんだよね?」


 山口……いや、シズクはその中2の女子にしてはかなり小柄な身体を目に見える程震わせながら聞いてくる。


セイゴ「シズクの言うその『セイちゃん』ってのが、シズクの幼馴染のセイゴだとしたら、紛れもなく俺は本物の『セイちゃん』だな」

シズク「セイちゃん!!」

セイゴ「がふっ」


 いきなりシズクは高速の速さで突進し、抱き付いてきた。高速で繰り出された頭突きは、身長差の関係で鳩尾にクリティカルヒット!! 俺は飛びそうになる意識をなんとか保ち、くの字に曲がった体勢を立て直す。見ると、シズクは抱き付いたまま顔を埋めて泣いていた。右の髪留めがウロボロスになっていた。


セイゴ「おいおい、どうした? 何泣いてんだ」

シズク「うぅ……だって……ユニが…ひく…私達死んじゃっ……たって…うぅ……それで……皆はどこって……ひぐ…聞いたら……この世界で……人探…しても、ムダだって……うぇ…」

セイゴ「……へぇ、ムダなんだ」

シズク「私……セイちゃんが引っ越しちゃって…ひっく……中学から……別々に……なっちゃって…ひく……せっかくまた……ぅぅ…同じ中学になれた……のに…こんな…ひっ……ことに……なっちゃっ……て……」

セイゴ「こうなるなんて、誰も思って無かったさ。……チワワも」

シズク「うん……私……ぅぐ……これから…ひく……ここで……1人で……ひっく……たった1人で……生きてかなきゃって……ひっく…思ったら……寂しくて…怖くて…」

セイゴ「……カルナさん」

カルナ「分かったわ。ルーイ、ミシェルちゃん。ちょっと席を外しましょう」


 目を向けただけで言いたいことを理解した大人なカルナさんは、ルーイとミシェルを連れて家の階段を上がっていった。シズクを見て思い出した。たまたまミシェルと知り合えたから良かったものの、俺も本当なら1人この未知の世界をさ迷う事になっていたのだ。それがどれ程つらく、寂しく、恐ろしいか。ミシェルとパーティを組む事が決まる前でも、わざと考えないようにしていた。意識すると、不安に押し潰されそうだったから。


シズク「……セイちゃん?……」


 シズクが目を真っ赤にしながら俺を見上げる。俺はできる限り優しく微笑んだ。


セイゴ「確かに俺達は死んじゃったみたいだけど、蘇るチャンスがある。他の皆もバラバラで、ドコにいるかも分からないけど、俺達は会えた。少なくとも、俺とシズクは今は1人じゃない。他の皆にも、いつか絶対会える」

シズク「……セイちゃん……」

セイゴ「だから、今は…………泣いておけ」

シズク「セイちゃん……うぅ……うええええええええええん!!」


 シズクはまた顔を埋めて、声を上げて泣きだした。

 俺はシズクを支えてやりながら

 顔を伏せて

 頬を濡らした。



延々2時間泣き続けたシズクを、30分くらいで涙が治まった俺は唯黙って支え続けた。その後一先ず落ちついた彼女と客間ソファーに座り、冷め切った紅茶を飲んでいた。


シズク「……ゴメンね」

セイゴ「……気持ちはよく分かる。気にするな」

シズク「……でも、本当に会えてよかった」

セイゴ「……そうだな」


 しかしまいった。これから旅をしながら皆を見つけるつもりだったのに、この世界で人探しはムダなのか……。


そうじゃないぜ

セイゴ(お前は俺の思考が読めるのか?)

影(そりゃそうだ。俺はお前の影だからな。ま、そんなことより、神のアドバイスはゲームのルールと違ってそれを言われた人にしか適応しない。お前が行きたいトコに行けば何かが起こるってのは、お前にしか適応されない)

セイゴ(てことはシズクが皆を探してもムダではあるが、俺が探せば見つかるかもって事か?)

影(そうなるな。確かにこの世界だと、この上なく不可能に近いが、ムダになるってことにはならないんじゃないか? お前ならな)


 そのまま菓子をつまみつつくつろいでいると、カルナさん達が戻ってきた。


カルナ「落ち着きましたか?」

セイゴ「ええ。すいませんね。気を遣わせてしまって」

ミシェル「プレイヤーは皆1度はああなるものですよ」

シズク「……ところで、先刻から気になってたんだけど、あなたは誰?」

ミシェル「私ですか? 私もプレイヤーです。ミシェルです。よろしくお願いします」

セイゴ「今朝方、俺とパーティ組んだんだ」

シズク「パーティ?」

ルーイ「んー、シズクも覚醒してきたとこだし、その辺のとこも含めてそろそろ仕事したいんだけど、セイゴ、どうする?」

セイゴ「待ってるよ。どうせこの後一緒に土地探さなきゃいけないんだろ?」


そして30分後

 シズクがルーイに財布、カバンをもらい、クローゼットの説明を受け終え、俺達はそのまま昼飯をいただいていた。その後土地探しをする段取りに流れでなった。その昼飯の最中に、チームとパーティについての話をした。


シズク「へー、そうなってるんだー」

セイゴ「チームについても聞いてないのか?」

シズク「んー、言われてみれば、言ってたような……言ってなかったような……私ずっと泣いてたから……」


 なるほどね。確かに俺も泣きそうだったもんなぁ。


ミシェル「ちなみにパーティを組んでいる仲間の1人がゲームクリアになれば、そのパーティの人全員がクリアになります」

セイゴ「そうだったの!?」

ミシェル「そして自動的にそのパーティ1人1人のチームメートもクリアということになります」

シズク「意外と親切設計なのね」

カルナ「ですがそれでも、黄泉が始まって5千年以上経ちますが、ゲームクリアの例は数える程しかありません」

ルーイ「ゲームオーバーになる前に脱落する人もいるしね」

シズク「……ねぇ、私はクリアの条件しか知らないんだけど、どうなったらゲームオーバーになるの?」

ルーイ「うーん、とりあえず、1度死んだ君達が黄泉でまた死ぬと、消えて無くなるって聞いたことがあるよ」

セイゴ「え゛……」

シズク「脱落っていうのは?」

ルーイ「黄泉には脱落者っていうプレイヤーを辞めた人がたまにいるんだ。この村にはいないけど、どこか大きな市か都には大体数人はいると思うよ。で、プレイヤーは死んでいるから年を取らない。ついり、黄泉で死にさえしなければ半永久的に存在してられるんだよね」

セイゴ「ああ~、何か、何となく分かった気がする」

シズク「神の試練を放棄しちゃうの?」

カルナ「そうです。そしてチーム全員が、死亡または脱落すると、ゲームオーバーです」

ミシェル「脱落者になってもチームの誰かがクリアになれば蘇れるというのもどうかと思いますけどね」

セイゴ「おいおい、うちのクラスにそんな他力本願いねぇだろうな……」

シズク「千馬丈君とかはちょっとヤバイかも……」

セイゴ「あ~、脱落する前に片割れの昌と会ってりゃいいがな……」


 千馬丈というのはウチのクラス一のネガティブマンで、いつも膝を抱ええて塞ぎ込んでいた。双子の姉の昌がいつも励ましていたが、全員バラバラになってしまった今では、少し危ないかもな~。


ルーイ「時にシズク、父ちゃんはどこ行ったの?」

シズク「ああ、そういえば。本当は最初に言おうと思ってたんだけどセイちゃんが出てきて忘れちゃってた」

セイゴ「俺のせいかよ」

シズク「そういう訳じゃないわよ。私が覚醒した後の帰り道の事なんだけど、山道でモンチー、とかいう猿のモンスターの群れに襲われて、アトラスさんは強いといっても黄泉の住人だし、私も覚醒したばかりで魔法の出し方分からないしで、がんばったんだけど追い詰められちゃったの」


 そうか。あの今朝の山の中腹で出た覚醒の光はシズクのだったのか。


シズク「そんな所でたまたま近くを通っていて騒ぎに気付いたターナーっていう緑髪の剣士が助けに来てくれたの。そしたらアトラスさんがその人を気に入っちゃって。村に連れて来てから「一緒に飲みに行ってくる」って言ってどっか行っちゃった」

カルナ「お父様ったら……付き添いで行ったんだから最後まで連れてきてからにしてほしいわね。そういうのは」

ルーイ「ま、無事だとは思ってたし、そういう事ならそれでいいじゃん。土地探すついでに探せばいいし」


 その後しばらく他愛のない話をしながら昼食を続け、カルナさんを残して土地探しに出かけた。大通りの近くに空いてる土地はないかと探索していると、村の南側が騒がしくなってきた。


ミシェル「何だか騒がしいですね」

セイゴ「俺が今朝いた公園の辺りからだな」

シズク「ああいうのって行った方がいいの?」

ルーイ「オイラ村長だから見過ごす訳にはいかないな。……激しく嫌な予感がするけど」


 公園に行ってみると人集りができていた。小さい村とはいえ小さい公園を取り囲むには十分な人数がいるらしい。そして公園には立派なアトラスオオカブトの角と羽が生えた色黒で筋肉質なオヤジと四角いメガネを掛けた鮮やかな緑色の髪の男が向かい合って立っていた。

 虫人のオヤジは、昼間っから酔っているのかバカに大きな高笑いをしていて、それと向かい合っている青年は面倒臭そうに大きな剣を構えている。なんだかもう展開が見え見えである。


セイゴ「……シズク。あの2人がアトラスさんとターナーさん?」

シズク「うん。アトラスさん、酔ってる?」

ルーイ「……バカ親父め……あの様子だと3樽はいったな」

ミシェル「止めた方がいいのでしょうか?」

ルーイ「ん~、そうした方がいいんだろうけど、こんなイベント村では滅多にないし、見てる村人達も楽しそうだからしばらく放っとこう。オイラ唯確認にきただけだし。その内治まるでしょ」


 ここでアトラスが羽を広げて飛び、その立派な角を突き出しターナーに突っ込んでいく。ターナーはしょうがないといった感じでその角を剣で真っ向から受け止める。ガァンという音と共に、周りの村民から歓声が沸き起こる。ルーイはそれを見届けてから背を向け、大通りの方へスタスタと歩いていってしまったので、俺達をそれに従うことにした。

 結局俺は、村の北西の隅に見つけた村の思いっきり端の土地をもらい、シズクは大通りの近くが良かったのにとか言いつつ俺の隣の土地をもらった。で、今はその土地にいる。


セイゴ「別に俺に合わせる事ないだろ?」

シズク「だって現世では元々お隣さんだったのに、セイちゃん引っ越しちゃうんだもん」

セイゴ「いやまあ、そうだけど。大通りの近くがいいんだろ?」

シズク「もぅ、うるさいなあ。私はここがいいの!」

ルーイ「うんまあ、その方がオイラとしても楽だしね。ちょっと下がってて」


 言われるままに俺とシズクはもらった土地から少し下がった。ルーイは一歩前に出て何かブツブツと唱える。そして村長の証を天に(かざ)すと、その証と俺の土地とシズクの土地が光り、ズゴオオという音を立てながらそこに2軒の家が建った。というか、地面から出てきた。


セイゴ「お~」

シズク「わ~」

ルーイ「プレイヤーの自宅だよ。家具全般は一通りそろってるけど、まあ帰ってくることはあんまないね。一応自宅があるってだけ」

ミシェル「誰か黄泉で有名な建築士と交流が持てれば、建て替えも可能です」

ルーイ「ま、これでオイラの仕事は終わりだけど、セイゴとシズクはこの村の出身プレイヤーってことだから、またどっかで機会があればこの村は協力するよ。今のとこ出身プレイヤーは君達2人だけだしね」

セイゴ「ああ、ありがとう」

シズク「ありがと、ルーイ君」

ルーイ「うん! 2人はこれからどうするの?」

シズク「私は……」

セイゴ「俺達と来いよ。ああ、ミシェルがよければだけど」

ミシェル「もちろんいいですよ。しばらくこの村に滞在して、基本的な魔法を教えましょう」

シズク「……いいの?」

セイゴ「今1人で旅に出たって、何もできないだろうが。それに……ま、いいや。嫌か?」

シズク「そんな事ない。できれば一緒に行きたいと思ってたから。ありがとう、よろしくね2人共」

ミシェル「はい。こちらこそ」

ルーイ「あ、しばらくこの村にいるの? そりゃ良かった。じゃ今夜にでも記念祭やるから楽しみにしててね」

セイゴ「祭り?」

ルーイ「そ。村の土地の一部を持った2人は晴れてこの村のプレイヤーとなったから、激励と祝いの祭りをやるんだ。主役はセイゴとシズクだから、絶対出てよね! オイラは今から村全体に号令を掛けてくるから、また後で!」


 そう言うとルーイは村の中心部へと走っていった。


セイゴ「さて、当面の行動も決まったし、俺は自宅の様子でも見てみようかな」

シズク「あ、私も」

ミシェル「シズクさん、それが終わったら、お祭りが始まるまでの間に早速魔法の練習しましょう」

シズク「うん。よろしくミシェル!」


 そして俺は自宅へ、シズクもミシェルと一緒に隣の家へと入ってった。

 俺は一通り家の様子を確認した後、本棚に最初から入っていた黄泉に関する本を読むことにした。お隣さんはいったい何をやっているのか時々爆発音が聞こえる。

 こうして俺は自宅がお隣さんの爆発で吹き飛びやしないかとビクビクしながら祭りまでの時間を潰すのだった。


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