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6話「飛蝗村の村長」

―いつからだろう、あの頃が思い出になったのは―

 ズゥゥゥゥン


 大地を揺るがす程の豪快な着地を決めたリンリャオの背から青い塊が転がり落ちる。

 言うまでもなく俺だ。


セイゴ「テ……テメェ……覚えてやがレ……」

リンリャオ「グオッグオッグオッ」

ミシェル「よっと、お疲れリンリャオ。もう戻っていいよ。またね」

リンリャオ「ヴォ」


 あの信じ難いスピードに、行った時の同じ様にガタガタになっていた俺の横で猶も平然とした様子で座っていたミシェルは、着地してリンリャオを還した。返事をしたリンリャオは緑の光に包まれて消えていった。


セイゴ「何でミシェルはあんな速度でも平然としてられるんだ?」

ミシェル「私は契約者ですから。どんなに速くなってもリンリャオの背なら全然平気です。私はあの速度に堪え切ったセイゴさんにびっくりですよ。リンリャオにも相当気に入られましたね」

セイゴ「……ミシェルと一緒にいるから嫌われてんじゃないか? どう考えても振り落とそうとしてるぞあれは」

ミシェル「リンリャオはたとえ私がお願いしても、気に入らない人が背に乗る時は飛びません。それに、振り落とそうと思えばもっと速い速度で蛇行できますから、単にからかっていただけでしょう」

セイゴ「非常に命懸けだったんだが……」

ミシェル「セイゴさんが堪え切るかどうかのギリギリのラインでセイゴさんの反応を楽しんでたんだと思います」

セイゴ「ヤロー……」

ミシェル「フフッさぁ、早く村長さんの所に行きましょう」


 俺達はリンリャオのイジメ(俺にとってはだが)によってものの3分で到着した飛蝗村の村長を探すべく、村の門を潜った。


セイゴ「村長の家なんてどこにあるんだ?」

ミシェル「集落によって違いますが、大体は集落の中心か一番奥かのどちらかですね」


 そんな会話をしながら村を歩いていると、程なく村の大通りの外れにバッタのシルエットの描かれたマークを掲げている民家を発見した。


セイゴ「――なぁ、あのバッタのシルエットは何のマークだ?」

ミシェル「あ! あれですね。あの家が村長の家みたいです。集落の長の家は、それぞれその集落のシンボルを掲げてるんです。ここはバッタ村なのでバッタがシンボルみたいですね」


 ほう~と納得しながら村長の家の前までやってきた俺達は、家の扉に付いていたベルを鳴らす。


セイゴ「おはようございマース! 村長居ますカー?」


 しばらくするとガチャツという音を立てて扉が開き、中から小さな少年が眠そうな目を擦りながら出てきた。しかしその少年は明らかに人間では無かった。外見はほとんど人間だが、金髪の頭から2本、触覚の様なものが生えていて、背からは大きな蝶に似た羽が生えている。眠そうな金の瞳がこちらを見上げる。


セイゴ「……は?」

ミシェル「アゲハ蝶の虫人ですね」

セイゴ「チュウジン?」

虫人少年「……なんか用?」

セイゴ「あ~いや、ここ、村長の家だと思ったんだけど、村長居るかな?」

虫人少年「オイラだよ」

セイゴ「ウソつけ」

虫人少年「いきなり失礼なヤツだなもう……」

ミシェル「セイゴさん。多分本当ですよ」

セイゴ「どうして分かるんだ?」

ミシェル「この子、首から村長の証を下げてます」


 見てみるとこの少年は確かに首から小さくて透明な長方形の板に紐を付けて下げていた。板には家に掲げられているマークと同じバッタのシルエットが入っている。

 少年はその証とやらを摘まんでパタパタと指で振り始めた。


少年村長「分かった? オイラは飛蝗村の村長なの! それで、オイラに何か用?」

セイゴ「ああ、悪かった。俺はセイゴ。どうやらこの村が――」

少年村長「セイゴ!?」


 自己紹介すると突然少年村長は目を見開いて聞き返してくる。


少年村長「君が昨日この村に到着したセイゴ?」

セイゴ「あ、ああ。そうだけど」

少年村長「やっと来たーー!」


 そう叫んで少年村長は俺に抱き付いてきた。背の大きな羽が、犬のしっぽの様にパタパタ動いている。ミシェルを見るとニコニコしていたが、俺はどうしていいのか分からず戸惑っていた。


セイゴ「おーい」

少年村長「いやぁ、待ってたんだよぉ、ずっと! っえアレ!? 覚醒してる!!」


 少年村長は俺を見上げながら嬉しそうに言った。そこで、ふと村長はミシェルに目を向ける。


少年村長「君はもしかして覚醒の付き添いしてくれた?」

ミシェル「はい。セイゴさんとパーティを組ませてもらってます。ミシェルです」

少年村長「そうか。ありがとう。取り敢えず、家に入ってよ。あ、オイラの名前はルーイ。よろしく!」


 なんだか俺の受けた恩を自分が受けたことの様に礼を言う少年村長、ルーイは俺とミシェルを家に招き入れ、客間に案内した。そして俺とミシェルを妙に横長のソファーに座らせ、「ちょっと待っててね」と言ってドコかに消えた。


セイゴ「……思うんだけど、村長ってどうやって決めてるんだろう?」

ミシェル「それも村によって違うんじゃないでしょうか? 私は蜂村という所が最初の集落だったのですが、そこの村では何年かに1回開かれる選挙で決めてるみたいで、優しいオジサマが村長です。でも、選挙で子供が選ばれはしないでしょうから……分かりません」

ルーイ「この村は5年に1回、村民全員強制参加のジャンケン大会で決めてるんだ~」


 ルーイが何やらたくさんの書類を抱えながら戻ってきた。そしてそれをソファーの前に置かれている机にバラまきながら俺達の疑問に答え、向かいの1人用のソファーに座る。


セイゴ「そんなんで村長決めんなよ」

ルーイ「だってそういう習慣なんだもん。あ、強制とはいってもその時村にいなかった人は参加しないし、やりたくなければ何も出さなければ敗けになるから、結局はやる気がある人に決まるんだよねぇ」

セイゴ「やりたかったのか? ルーイは?」

ルーイ「うん! おじいちゃんも父ちゃんも1回やったことがあるって言ってたから、オイラもやりたかったんだけど……まさか1発でなれちゃうとは思わなかったよ。このまま初の2期連続狙っちゃおっかなー」


 俺は呆れながら楽しそうに語るルーイを見ていた。右隣に座っているミシェルはじっくり観察する様な目でルーイを見ている。


コンコン


話をしていると部屋のドアを叩く音がした。ルーイが「ど~ぞ~」と言うとドアから綺麗な女性が現れた。黄緑色の長い髪を持ったその女性は、たぶんルーイと同じ虫人というヤツだろうなと思う。額からはよく見ると触覚らしき細いものが2本生えていて、ドアを閉めた時にちらっと見えた背からは、多分キリギリスだろう、その辺のとよく似た羽が生えている。俺は虫にはちょっと詳しいのだ。小学生の低学年の頃はよくエダとかツカガワとかと一緒に近所の森で日が暮れるまで虫取りという理想の生活を送ってたからな。――うん。まあ理想かどうかは知らないが。少なくとも学校から帰ったらゲーム! よりましだろう。


ルーイ「オイラのお姉ちゃんのカルナ姉ちゃんだよ、キリギリスの虫人で、スッゲー歌うまいんだ」

カルナ「もう、ルーイったらあんまり恥ずかしいこと言わないでよ。初めまして、ルーイの姉で、村長補佐のカンパネルラです。カルナとお呼びください。セイゴさん、ミシェルさん」


 カルナは普通に話しているだけで聞き惚れてしまいそうな程綺麗な声で自己紹介する。

 なるほどこの声で歌でも歌ったらそれで十分食っていけんじゃねえかってくらいだ。エメラルドグリーンの瞳がちらっと机の上を見る。そしてカルナはトレーに乗せて持ってきたカップと菓子を、机にバラまかれている書類を集めながら並べ、カップに紅茶を注ぐ。そして菓子を出した瞬間に菓子に飛びつこうとしたルーイを抑えながらルーイの後ろに立った。素晴らしい仕事ぶりだ。


ルーイ「何するんだ! 姉ちゃん、菓子達がオイラに食って欲しそうな目で見ているよ!」

カルナ「こんな村長でゴメンナなさいね。でも、いい子だから村の人も「まぁいっか」って認めちゃって、仕事はちゃんと私が補佐するので大丈夫ですから」

ミシェル「――カルナさん、ルーイ君ってもしかして……」


 今までずっとルーイを監察していたミシェルが何かに気付いた様にルーイの叫びをスルーしているカルナに話し掛ける。カルナはミシェルが何を言おうとしているか分かったのか、口に人差し指を当てて内緒の意を示した。

 ミシェルはそれに頷いて、視線をルーイに戻しつつ紅茶を飲み始める。ルーイはまだ騒いでいる。

 と、ここらで何がどうなってるのか分からない俺は、ガマンの限界を超えた。


セイゴ「なぁ、ところでなんで俺はここに来たんだ?」

ルーイ「そんなの、この村がセイゴの最初に訪れた集落で、ここが村長であるオイラん家だからに決まってんじゃん」

セイゴ「……俺は何かゲームに有利なことが有ると思って来たんだが……」

カルナ「ルーイ、あなたは説明が足りないのよ。それじゃ意味が分からないでしょう。ホラ、村に新規のプレイヤーが来たらどうするの?」

ルーイ「村のどこかの土地と、プレイヤー専用の財布と、旅のアイテム鞄をあげる」

セイゴ「メチャメチャ大切じゃねぇか! 初めに言えよ!」

ミシェル「ちなみに土地以外なら他でも手に入りますけどね。財布は普通のになりますが」

ルーイ「それと黄泉にある施設の説明を、村を回りながらする」

セイゴ「すでにメシ屋とか宿屋とか利用したわ! ミシェルの奢りだけど」

ミシェル「掲げてるマークとかみれば大体何の店か分かりますしね」

ルーイ「本当は昨日村の門をセイゴが通った時点で新しいプレイヤーが来た事は気付いてたんだ。で、いつ来るのかと思って待ってたんだけど、まさかオイラに会いに来る前に覚醒してきちゃうとは思わなかったよ」

カルナ「覚醒してからでないと土地や財布は渡せない決まりなので、都合は良かったですけどね」

セイゴ「ああ、そういう事か」

ミシェル「はい。昨晩セイゴさんを見付けた時はすでに夜でしたし、村長の家に寄ってから行って、また戻ってくるのは2度手間だと思ったんで」

カルナ「まあそれが正解でしょうね。実は昨日、セイゴさんが到着される少し前にもう1人、新規のプレイヤーが来たのですが、その方は昨日の内にこの家に辿り着いてすぐまた覚醒する為に出ていかれました」

ルーイ「オイラの父ちゃんと一緒にね!」

セイゴ「泊めてやれよ!」

カルナ「そういう訳にもいかないんです。プレイヤーが覚醒するまでは、ゲームに関わる支援は私達からは一切できない事になっているんです。覚醒の付添い人は例外ですが」

ルーイ「もし覚醒する前のプレイヤーにゲーム攻略に関わるものを渡すと『神の鉄槌』が下るからね」

セイゴ「『神の鉄槌』?」

ミシェル「黄泉には神の定めたルールがいくつかあるんです。それを破ると、神からなんらかのペナルティが下るそうです。私は受けたことはありませんが」

カルナ「プレイヤーが受ける分にはギャグで済みますが、私達黄泉の住民が受けるとシャレになりません」

ルーイ「だからセイゴは運がいいと思うよ。ミシェルちゃんに出会って無ければ宿屋の利用なんて出来なかったんだし」

セイゴ「……! ミシェル、あの恩はいるか必ず――」

ミシェル「あ、あの、そんなに気にする事ないですから……」


 すでに土下座の体勢に入っていた俺をミシェルは慌てた様子で止める。

 と、ここでルーイはカルナの一瞬のスキを突いて菓子に突進し、カルナが気付いてまたソファーに引き戻した時には出されていた菓子の3分の2程がルーイの腕に抱えられていた。ルーイは大量の菓子をバリバリと音を立てて食べ散らかしながら俺に小さな袋と肩から下げるタイプの鞄を投げて寄越す。


ルーイ「そういう訳だから……(バリバリ)……それ財布と鞄ね…(バリバリ)…土地は後で一緒に探しに行こう…(モグモグ)…ね」

カルナ「食べながら話すのは止めなさいルーイ」


 小さな袋を開けてみると、外見からはどう考えても入り切らない量のコインが入っていた。


影(550Cでござい)

セイゴ(ここに入ってたのか)


 今度は鞄を開けてみるが、ものの見事にカラッポだった。そりゃそうか、何も手に入れてないし。


ルーイ「これで金とアイテムは問題ないよね。後は、装備の管理について説明しとくと、自宅か宿屋のプレイヤー専用の部屋にはクローゼットが付いていて、中に開けた人の装備品と宝箱が入ってるから」

セイゴ「……えーと、何だって?」

カルナ「まあ口で説明するよりやってみた方が分かりやすいですね。……ちょっと付いてきて下さい」


 そう言って未だに菓子に手を伸ばそうとするルーイを引きずりながら先に行くカルナに続いて俺とミシェルは客間から出、ルーイの私室だという部屋に通された。


ルーイ「で、これがそのクローゼットだよ」

セイゴ「そうだな。紛う事無きクローゼットだよ。変なものが付いてるけど」


 そして取っ手に蛇のオブジェがからまって開かないようになっているクローゼットの紹介をされた。どうやって開けるんだ?


ルーイ「まあ、開けてみれば分かるよ」


 そう言うからにはまた門の時の様な事が起きるのだろうと思いながら取っ手を掴むと、蛇のオブジェはウネウネうねりながら取っ手にからまっていた体をほどき、クローゼットを開けられる様になった。驚きながらもクローゼットを開けてみると、中には俺が来た時に来ていた体操着がまるで新品になったかの様に吊るされていた。隅には大きな宝箱が置かれている。そして、奥には見慣れないものが立て掛けられていた。


セイゴ「何だ? この木の棒は?」

ルーイ「オイラに聞かれてもね……どっかで拾ったんじゃない? 心当たりは?」

セイゴ「そういえば昨日こんな棒を拾った様な……いつの間にか消えてたからどっかで落としたと思ってたが……」

カルナ「だとしたら、村に入った時でしょうね。それはどうやら何かの武器の様です。門を通過すると強制的に武装解除されてしまうことがあるんです。基準はよく分かりませんが」

セイゴ「どっからどう見ても唯の棒なんだけど……」

ルーイ「まあそんなことより、これがクローゼットだからね。自宅と宿屋に付いてるハズだから、新しい装備品を手に入れたらクローゼットで確認すると。そして装備を変える時もクローゼットを開けると。まあ、そんな感じ」

セイゴ「昨日泊まった部屋には無かったよ?」

ミシェル「昨日までは覚醒してませんでしたからね。一番安い部屋でもあったので。今日行けばプレイヤー専用の部屋に通されると思いますよ? 私の部屋にはクローゼット付いてました」

?「村長~覚醒して来ました~死ぬかと思ったじゃないの~!」

ルーイ「どうやら覚醒しに行ったもう1人の新しいプレイヤーも帰ってきたみらいだ」


 そう言って玄関の方に去っていったルーイの後ろで、俺は首を傾げていた。ナゼなら今聞こえてきた声に、聞き覚えがあったから。


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