表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

5話「相棒」

―絶対に裏切ったりしないから、だから、お前も……―

 空気の壁の容赦ない猛攻を受け、リンリャオの太い棘に必死でへばりついてガタガタ震える俺の目前で


ミシェル「……リンリャオ。速度、もう少し落とせるでしょ? セイゴさんつらそうだし、もう少しゆっくり飛んであげない?」

リンリャオ「グオッグオッグオッ」

ミシェル「……あなた絶対楽しんでるでしょう」

リンリャオ「ヴォウ


 非常に不愉快な会話がくり広げられていた。


 そのままの調子で30分、空の散歩イジメは続けられた。


セイゴ「――お、落ちるかと思った……」

ミシェル「でもお陰で早く着きました」

セイゴ「ああ、そうだな。ありがとうリンリャオ。いつかお前は必ず倒してやる」

リンリャオ「グオルルル」

ミシェル「早速仲良くなりましたね。よかったです」


 俺とリンリャオのやりとりを見て、ミシェルは本当に嬉しそうにニコニコしている。リンリャオはどこかニヤニヤしているように見える気がする。対して俺は、振り落とされそうでなんとか堪えられるギリギリの速度を30分も続けられ、真っ青だった。

 そんなこんなで今、俺達は昨日俺がユニと会話した地点の周辺にいる。

 ナゼ周辺かというと、こんな何もない草原で、正確な位置など分かる訳ないだろう!


セイゴ「覚醒すれば、俺もミシェルみたいにあんな速度でも堂々と座ってられるの?」

ミシェル「あれの5倍位速くなっても大丈夫だと思います」

セイゴ「よーし、さっさと覚醒してしまおう」

ミシェル「そのためには正確にスタート地点の戻らないといけないのですが……」

セイゴ「なんか目印ないの?」

ミシェル「この場には不自然な何かがそこに落ちているハズです」

セイゴ「見た限りじゃ何も無いが……」

ミシェル「探すしかありませんね。私も手伝います」

リンリャオ「グオオオオオ!」

セイゴ「うおおおい! 何だ!? いきなり」


 俺とミシェルが捜索を始めようと動きだした時、リンリャオはいきなり大きく吠え出した。俺はびっくりして飛び上がる。


ミシェル「どうしたの、リンリャオ?」

リンリャオ「グルルルル」


 リンリャオは鋭い目付きで斜面の下の方を睨んでいる。

 そっちに目を向けると、眼下の森から緑色の小さな人型の変なヤツらがわらわら出てきてこっちに走ってくる。

 俺はまたもやすけとうだらの時と同じように、見た瞬間にヤツらの名前を理解した。どうやらモンスターと遭遇するとそのモンスターの名称を知ることができるらしい。


セイゴ「ゴブリンか……何か定番なヤツが出てきたな。モリだくさん」

ミシェル「仕方無いですね。アレらは私とリンリャオで何とかしときますので、セイゴさんはスタート地点を探してください」

セイゴ「ああ、すまない! 頼んだ」

ミシェル「いえ。リンリャオ!行くよ!」

リンリャオ「グオオオオ!」

セイゴ「……ん?」


 ミシェルの掛け声でリンリャオが動き出した時、俺はリンリャオの足元に青い何かが落ちているのが見えた。


セイゴ「おい、リンリャオ……お前の足元に何か――」

リンリャオ「ヴォ?」

ミシェル「! ……そこです! その青いモノが落ちてる所がセイゴさんのスタート地点のハズです」

セイゴ「何!?」


 この辺だとは思っていたが……まさかこうも正確に着いていたとは思わなかった。

 偶然って偉大だ。


ミシェル「そこの青いものに触れてください!」


 俺が急いでリンリャオの側に駆け寄ると、ミシェルはそう叫んだ! リンリャオは足をどけて青いものから少し離れる。青いソレは、ハチマキだった。

 俺がその青いハチマキを掴むと


カッ


 天から堕ちてきた光の柱に包まれ、目前が真っ白になった。

 時間が止まった気がした。目に見えるのはただただ白。何も見えない。何も聞こえない。


?(いきなり修羅場とは、気に入られたもんだな)


 唐突に声が聞こえた――否、声が頭の中に直接響いてきた。


セイゴ(誰だ!?)


俺は叫んだつもりだった。しかし何も聞こえず、自分が言葉を出しているのかどうかも分からない。


?(俺はお前の“影”さ。相棒)

セイゴ(カゲ?)

影(そう。常にお前と共にある)


 俺は足元を見ようとしたが、何も見えない。自分がどっちを向いているかも分からない。


影(この俺の役目は、ただお前についていくだけ)

セイゴ(どうゆう事だ?)

影(そのままの意味だ。走ってようが、泳いでようが、寝ていようが、飛んでいようが、お前の行くところに必ずついていく。そして……)

セイゴ(そして?)

影(俺が消えた時が、お前のゲーム終了の合図だ)


 俺は言い知れぬプレッシャーを感じた。背を嫌な汗が流れていく、気がする。


セイゴ(…………)

影(おいおい、そんなに緊張すんなよ。ま、嫌がってももう遅いけどな。覚醒しちゃったし)

セイゴ(やっぱり、お前、覚醒と関係あったのか)

影(そんぐらい、言わなくたって分かるだろうが?)

セイゴ(ああ。それで、俺はこれからどうなるんだ? 何か知ってるんだろ?)

影(察しがいいな。さすが俺の相棒だぜ)


 影とやらはどこか楽しそうに言うが、俺の緊張感は緩まない。影が何か言うたびに、自分の中に自分ではないもう1人の意思を感じた。それが無性に気味が悪い。


影(いいか、俺が目覚めた時点で、お前の身体能力は並の人間を凌駕している。さらにお前が手にしたハチマキ。あれによってお前は“ファイター”のスタイルに目覚めた)

セイゴ(……つーと、俺はもしかしなくてもこれからモンスターとは素手で闘うのか?)

影(当たり前だろうが。“ファイター”とは武器を持たず、己の身一つで闘うスタイルだからな。ともかくこれで、お前も黄泉で生きるための最低限の準備は整った)

セイゴ(戦闘手段か……)

影(そう。闘えさえすればとりあえずは旅ができるし金も手に入る。後は、お前次第だが、俺もお前がゲームに生き残ってもらわないと困るからな。色々と、助言をさせてもらう。……時々な)

セイゴ(…………)

影(おーい?)

セイゴ(ああ、分かったよ)

影(あん?)


 どうやらコイツからは逃げられないらしいことを悟り、決心が着いた。

 助言もしてくれるようなので、まあ、しょうがないと諦めた。


セイゴ(よろしくな……相棒)

影(! ……へっ、おうよ! 俺はただついていくだけだけどな! 頑張ろうぜ、相棒)


 俺が影の存在を認めると、周りの白は消え、俺は元の草原に戻ってきた。修羅場の草原に。

 そして俺は、先刻までの無力な自分とは明らかに違うことを自覚した。体が妙に軽く、力に溢れている。自分の体を見ると、服が変わっていた。先刻の青いハチマキを頭に着け、裾が肩から破れた青い道着の姿になっていた。


ミシェル「セイゴさん!」

セイゴ「……ミシェル」

ミシェル「……戦れますか?」

セイゴ「もちろん。その為に覚醒したんだ」


 キィキィ言いながら登ってくるゴブリンの群れを見据え、俺は自然に戦闘態勢に入った。


影(初戦の相手はゴブリンか。妥当だな。だが、数が多い。油断はするな)

セイゴ(分かってるさ)


 パッと見ざっと100匹ってとこのゴブリン共との距離が10mを切った所で俺は地を蹴り、一瞬で間合いを詰める。


セイゴ「ウラァ!」


 俺の記念すべき最初の一撃。一番前にいたゴブリンの腹に思いっきり拳を叩き込む。

 俺の一撃をくらったゴブリンは、声もなく後ろのゴブリン10匹程を巻き込みながら吹き飛び、着地と同時にバシュウという音を立てながら消滅した。


ミシェル「速い……」

リンリャオ「グオオン」

セイゴ「しゃーいくぞー!」


 俺は一斉に襲い掛かってくるゴブリン達の攻撃を避けつつ、近いヤツから順に、吹き飛ばす。


セイゴ「オラオラオラオラオラオラオラオラ」


 気分はまさに北斗な彼であった。足を狙って引っ掻いてきたゴブリンを、軽く足を上げて避け、そのままの流れで蹴り飛ばす! そのスキを突いたつもりのゴブリンの突進を、叩き潰して投げ飛ばす! 飛び掛かってきたゴブリンを、力の限り殴り飛ばす!

 ヤバイと感じたのか、ゴブリンは俺から距離を取り始めた。


 ドガンドガンドガン


 少し離れた所で、リンリャオが地形を変えながらゴブリン共を豪快に叩き潰していた。


セイゴ「……スゴ」

ミシェル「それはセイゴさんです」


 いつの間にかミシェルが隣に立っていた。


セイゴ「? 何が?」

ミシェル「初めての戦闘でよくこれだけ動けますね……」

セイゴ「いやぁ、それ程でも」

ミシェル「後は私がやりますね」


 そう言ってミシェルは前に出て、『レクイエム=フォレスト』を構えた。俺は今度はどんな魔法が見れるのだろうと思ってわくわくしながら見ていると……


ミシェル「やあああああ!」


 ミシェルはその長い杖を横薙ぎに振り、目前のゴブリンを一蹴してしまった。


セイゴ「……魔法は?」

ミシェル「ゴブリン相手に、魔法なんか必要ありません!」

セイゴ「ふーん」

リンリャオ「グオオオオオ」

ミシェル「あっちも終わったみたいですね」


 リンリャオの方を見てみると、地面がエライ事になっていた。ドラゴン強ぇー

 まあともかく、ゴブリン100匹を全滅させ、俺の初戦は完勝ということになるのかなこれは。


ミシェル「さて、取り敢えずもう一度飛蝗村に戻りましょう」

セイゴ「え? 何で?」

ミシェル「セイゴさんが闘えるようになったので、その事を村長に伝えるんです」

セイゴ「するとどうなるの?」

ミシェル「セイゴさんが最初に訪れた村なので、あの村がセイゴさんの黄泉での出身地という事になります。後はまあ、行けば分かります」

セイゴ「んー、何かよく分かんないけど、行く必要があるってことね」

ミシェル「というより、行った方がいいということです」


 つまり何かいい事があるんだな? それなら行くべきだろう。


影(――おい)

セイゴ(うぉ、お前は何の用だ?)


 いきなり影が話し掛けてきて少し驚き、リンリャオの方に向かいながら話をする。


影(お知らせだ)

セイゴ(――お知らせ?)

影(今回の戦闘の報酬として、お前の倒したゴブリン55匹分、550C入りマシタ。ヨカッタネ☆)

セイゴ(ナニィ!? どこに!?)

影(それは村長と会ってからだ)


 何だと思いながら、リンリャオの側まで着いたので俺は先刻のミシェルの様に一飛びで背に飛び乗った。


セイゴ「なんだか気持ちいいな」

ミシェル「フフッ。リンリャオ、飛蝗村まで飛んで」


 ミシェルの掛け声と同時に、リンリャオは勢いよく飛び上がり、来た時の10(・)()の速度で飛行した。草原に悲鳴が木霊した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ