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2話「夕日に向かって」

―あの赤黄色には、きっと不思議な力があるんだ―

セイゴ「ふう、疲れた……」


 俺は今、あの丘の上から辺りを眺めた時に見付けた湖のほとりで休憩している。見える範囲にあるくらいだから直ぐ着けると思っていたのに、最初の地点からかれこれ4時間くらい歩いてようやく辿り着いた。どうやら見渡した景色が広大すぎたため、距離感が狂ったようだ。モロに真上にあったお天道様はもうかなり傾いている。


セイゴ「参ったな。まさか死して尚、空腹に悩まされるとは思ってなかった」


 湖の水で喉を潤せたのはいいが、空腹の足しにはならなかった。

 リアルアクションRPGとか言ってたが……ナルホド。リアルだ。

 本当はこの先どれだけ歩くか分からないから水を少しでも持って行きたかったのだが、F山登山に持って行った荷物までは黄泉について来てくれなかったようで、俺は手ぶらだった。さらにここは草原。水を入れられそうな物など落ちてはいない。今ある物といえば、現金三千円と各種ポイントカードが入った財布、当たり前のように圏外の携帯、そして最期に手に持っていたトランプカード5枚。

 財布と携帯はポケットに入っていたからだろう。黄泉にまでついて来てくれたのはいいが、今は役に立たない。オマケに携帯はつい先刻電池が切れた。


セイゴ「まあ、このままここに居ても仕方が無いし、どっちへ行こうかな」


 俺は長いこと斜面を下って来た為に視野がかなり狭くなった景色を見回した。元来た道を戻るのは論外。湖の周辺には丘の上から見た限りじゃ何も無かったし、湖岸沿いに進んでもいいことなさそうだな。


セイゴ「よし、コッチだ!」


 そう言って俺は湖に背を向けた。真っ赤な夕日が俺の顔を照らした。


セイゴ「……今日は野宿かなぁ」


 俺は軽く黄昏た。


 ザバッ


 すると背後の湖から明らかに何かが出てきたような音がした。

 俺はふっと後ろを振り向き……


 ダッ


 夕日に向かって走り出した!

 俺はナゼかソイツを見た瞬間にソイツの名前を理解していた。ユニが行っていた人でないヤツであろうソイツの名前は『すけとうだら』。体長1mくらいの、タラに立派な人の手足が生えたモンスター。

 そして、今の俺では戦っても手も足も出ないと、本能が告げていた。

 迷うことなく逃げるコマンドを選択。


セイゴ(ヤバイ!絶対目が合った! コッチ来んな追って来んな湖に帰れー!)


すけとうだら「ポポポポポポポポポポポポポ」

セイゴ「チクショー!」


 ヤツは妙な奇声を発しながら華麗なフォームで猛烈に追っ掛けてきた。

 俺は涙を横に流しながら夕日に向かって突っ走る。

 見方によっては誰にでも有りそうで実際はあんまりないありがちな青春の1ページのような絵になっていると思う。


すけとうだら「ポポポポポポポポポポポポ」

セイゴ「お前さえいなければー!」


 ああチクショー! 確かに一度は夕日に向かって走ってみたかったけど、もっと青春チックなシチュエーションでしたかった! 何が悲しくてタラの化け物と追い掛けっこしながら夕日に向かって走って行かねばならんのだ!


すけとうだら「ポポポポポポポポポポポポポポポポ」

セイゴ「いい加減にしてくれー!」

すけとうだら「フォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォフォ」

セイゴ「発音変えろって意味じゃねぇぇぇ!」


 その辺の草を土埃と共に巻き上げながら、俺とすけとうだらは走ってゆく。

 だんだんと足が重くなってきた。


セイゴ(あ~ヤバイ。すでに4時間も歩き通しだった上に空腹だし、ムダに叫んだお蔭でもう体力の限界だ。ていうかあれだけ叫び散らしてよくここまで走れたな俺……)


 すでに体中の筋肉が「モウ限界デース」と悲鳴を上げている。

 不意に傾斜が急な下り坂が現れ、俺はバランスを崩して転がり落ちた。

 そのままゴロゴロと転がっていき、


 ドンッ


セイゴ「カハッ」


 何かにぶつかって止まった。


すけとうだら「ピョーーーーーーーー!?」


 キキキキィィというブレーキ音と共にここまでで一番妙な声を上げてすけとうだらは俺の目の前で止まり、俺がぶつかった何かを見上げて固まった。

 そして俺も、俺が寄り掛かっている形になっているモノを見上げて、固まった。


セイゴ「!? ……ドラゴン……」

ドラゴン「グルルルル……」

すけとうだら「ポピョピョーーーー」


 すけとうだらのアンチクショーは一目散に逃げ出して行きやがった。


セイゴ「くっ」


 すでに全力を出し尽くした俺は、もはや立つことも出来なかった。

 俺に寄っ掛かられている緑色のドラゴンは、ジッと俺を見下ろしていた。


セイゴ(まだスタートしてから1日目だっつーのに、ここは普通もっとソフトなヤツから出てくるべきだろ)


 俺が絶望感に浸っていると、ヒョコッとドラゴンの首元から小さな人影が現れた。


人影「大丈夫……じゃないですね。ちょっと待っててください。……リンリャオ、お願い」

ドラゴン「ヴォ」


 声と体格からして多分、7~8才の少女と思われる人影にリンリャオと呼ばれたドラゴンは、一言(?)鳴いた後……


 ゴゴゴゴゴゴ……


 なんと「これから火を吹きますよ」とでも言うような体勢に入った!

 口からは緑色の火の粉のようなモノが漏れている。


セイゴ「ちょっ……」

少女「あ、あの、大丈夫です! リンリャオは木属性のドラゴンなんで……その……」

セイゴ「は?」

リンリャオ「ガーーーー」

セイゴ「ギャーーーー」


 俺はリンリャオとかいうドラゴンの口から噴射された緑色の炎に全身を包まれた!


セイゴ「アアアァァァ……ア?」


 しかし全く熱くなかった。それどころか、全身に広がっていた疲労感が消え去り、体が楽になった。俺は立ち上がった。


セイゴ「……これは……」

少女「木属性のドラゴンの炎には……回復系の効果、みたいなものがあるそうなので……え~と……」

セイゴ「スゴイ……ありがとう。助かったよ」

少女「い、いえ、たまたま襲われてる所を見掛けたってだけで……」

セイゴ「わざわざ助けに来てくれたのか? それは本当にありがとう」


 そう言って俺は頭を下げた。逆光で、その上フードを被っているっぽかったので顔は全く分からなかったが、この少女とリンリャオと呼ばれたドラゴンがいなければ、間違いなく俺はあのクソムカツクすけとうだら野郎にヤられていた。あんな形のに遅れを取るなんてサイアクだ。いつか絶対仕返ししてやる! まあそれはともかく、この少女とドラゴンは俺の恩人ってことになる。

 俺が礼をすると少女はわたわたし始めた。


少女「あ、あの、私もう行きますね。日が暮れる前に麓の集落に着かないとちょっとマズイことに……あ、この子は私以外は乗せたがらないので……その、麓の集落まではここから歩いて2時間くらいですから……失礼します。リンリャオ!」

リンリャオ「グォォォォ」

セイゴ「うお!」


 少女の掛け声でリンリャオは翼を広げ、羽ばたき、空に舞い、麓に見える集落らしき建物の集まっている場所に向かって飛んで行った。俺はその時起こった風圧に堪えきれず、尻餅を付いた。リンリャオの背に乗っている少女は、夕日に照らされて赤みがかってたけど、多分白い色のローブに身を包んでいた。


セイゴ「……うし」


 俺はしばらく遠ざかっていくリンリャオを眺めた後、気を入れ直して立ち上がった。


セイゴ(2時間てーと日は完全に暮れてそうだな……)


 今にも地平線に落ちかけている太陽を眺めながら、俺は麓の集落を目指して斜面を下っていった。



 2時間”半”後


セイゴ「ゼェ……ゼェ……やっと……着いた……うぅ……」


 俺は途中でたまたま見付けた木の棒を支えにしながら、ようやく集落の門の前に辿り着いた。集落は5m以上はある木造の頑丈そうな塀でぐるりと周りを囲まれ、1ヶ所だけ、高さは塀と同じくらいの幅3mくらいの白い門が作られていた。門の上には見張り台みたいなモノがあり、見張り台からは『飛蝗村』と書かれた幕が垂れている。


セイゴ(……なんて読むんだ? あぁ、まいいや……とにかくコレどうしよう……)


 空はすでに闇に染まり、無数の星が瞬いていた。さすがに月が2つ見えた時は驚いた。

 空腹のあまり目がイっちまったんじゃないかと思った。いや、そうかもしれないが。

 そして俺が言ったコレというのは門のことだった。

 ヤツはその闇に在って尚存在感を放つその白い体を、固く閉じていたのだった。


セイゴ(……あの少女が言ってた日が暮れる前に……てのはコレのことか……)


 俺が棒を支えにして門を見つめていると、見張り台にいた甲冑を着たオッサンが声を掛けてきた。


オッサン「そこの少年! ようこそ! ここは『バッタ村』だ。見た通り小規模な集落だが、まあ食堂と宿屋なら選べるくらいにはあるから、疲れている様だし、ここで体を休めて行くといい」

セイゴ「んな事言ったって門閉まってんじゃないスか」

オッサン「何を言ってるんだ? その左手のブレスレット、君はプレイヤーだろう? 変わった格好をしているが」


 今更だが、俺は学校指定の紺のジャージを着ていた。上は長袖、下はハーフパンツ。帰りのバスに乗る前に「汗くさい」とか言って制服に着替えてたヤツラもいたが、着替えなくて正解だった。ジャージに比べれば制服は動きづらいから、すけとうだら野郎に捕まってたかもしれない。


オッサン「プレイヤーなら門が開いてようが閉じてようが関係ないだろう? 君はもしかして初心者か?」

セイゴ「スタートしてからまだ半日も過ぎてねぇっス」

オッサン「じゃあこの村が最初の集落なのか。それじゃ知らないだろうな。まあ、とにかく通ってみなよ」


 それはつまりプレイヤーなら門を開けられるってことか? と思いながら門に手を伸ばし、押し開けようと力を入れると、手は門をすり抜けて俺は門の内側に倒れ込んだ。


オッサン「ちなみに門は日の出と共に開いて日の入りと共に閉じるようになってるが、君は今内側に開こうとしたけど、外開きだよ。大概の所は」

セイゴ「へぇ」

オッサン「じゃ、ゆっくりして行きなよ」

セイゴ「ああ。ありがとう、オッサン」

オッサン「ハッハッハッ、お兄さん(・・・・)と呼べ少年」


セイゴ(まさか門をスルーできるとは……そういえば『飛蝗』って『バッタ』って読むんだな)


 飛蝗村は、どこか西部劇を思わせる雰囲気の村だった。

 建物は皆木造で、大通りには色々な店が立ち並んでいる。

 俺は「さっさとメシを持ってこんかい!」と叫び散らしている己の腹の機嫌を満たすべく、死にそうな足どりで、何でもいいからとりあえずメシの匂いがする方へと歩いていくのだった。





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