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異世界の闇軍師  作者: まさな
第七章 保護者ですから

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第三話 呼び出し

2016/10/3 若干修正。

 クロの呪いを解くことに成功した俺たちは、この街とはおさらばする予定だ。

 あんまりご飯は美味しくないし、何より暑いもんね。

 他に用事も無いし。

 ピラミッドの探索はもうこりごりだ。


「じゃ、リクエスト…あ、そうそう、海に行く予定だったわね」


 ティーナが希望を募ろうとして、その前の予定を思い出した。


「ニャ! そうニャ、うっかり忘れてたけど、お魚獲りに行く約束ニャ!」


 いつだったか、みんなの行きたい場所を聞いて、順番に回る予定だったな。

 クロの呪いを解こうと、国境まで越えていたので、俺もすっかり忘れていた。


「ほう、海か、面白そうだな」


 レーネはどこでも面白いって言いそうだな。強いモンスターがいる場所は、この人の前で口にするのはよそう…。


「ええな。海」


 ミネアも賛成し、他のメンバーから特に反対も無かった。


「じゃ、決まりね。どこの海に行くかだけど…」


「ここからなら、東の海が一番近いわよ。ただし、トレイダーの国境を越えることになるけど」


 リサが言う。


「あー。あそこかあ…」


 ティーナが微妙な顔をするが、トレイダー国の周辺って、モンスターが強くなってるんだよな。俺も近づきたくは無い。


「そこを避けるなら、北やね」


 ミネアが言い、そちらが無難だろうと決定した。


「じゃ、もう今日から出発しましょうか」


「出発ニャー!」


 出立の準備を済ませ、宿をチェックアウトしようと階下に降りる。

 と、ティーナが宿屋の主人から何か、封筒を受け取っていた。


「私宛に、ですか?」


「そうだ。差出人はラインシュバルト侯爵。確かに渡したよ」


「むぅ…。じゃ、ごめん、みんな、ちょっと待ってて。どうしてここが…」


 そう言って、(いぶか)しそうに部屋に戻っていくティーナ。


「この手紙を預けた男、どんな奴だったの?」


 リサが宿屋の主人に問う。


「さて、冒険者としか聞いてないね。手紙が本物かどうかはそっちで確認してくれ。うちじゃどうしようも無い」


「ま、そうね」


 思い当たるのはザックだが、まだ俺たちを尾行しながら護衛してるのだろうか。見回したがそれらしき人影は無い。

 隠蔽のスキルも持ってるだろうし、見つけるのはまず無理か。あまり気分が良い物では無いが、護衛なら、振り払う必要も無い。


 ティーナが険しい顔で戻って来た。


「ミッドランドでまた戦が始まるそうよ。兵を率いて出陣せよとのご命令を受けたし、急いで戻らないと」


「ああ…」


 うえ、ひょっとして、俺も出陣の義務があるんじゃないかな?

 騎士は止しておけば…いや、平民でも同じか。


「ごめんね、リム。海は戦が終わってからになるけど」


「それは残念だけど、命令なら仕方ないニャ」

  

 聞き分けが良い猫。


「他のみんなも、ミッドランドの臣民で無い人は、無理に付いてくる必要は無いわ。危険でしょうし」


「そうだな」


 一歩下がる。


「アンタはミッドランドの騎士でしょうが」


 ティーナが怒りの顔で俺の首根っこをむんずと掴んでくるし。


「うう」


「今のは軽い冗談と受け取ってあげるけど、下手したら敵前逃亡罪に問われるわよ。王宮直属の騎士なんだし、ううん…」


 ティーナも、少し選択を誤ったかと思ったらしい。


「今からでも君の家の騎士にしてもらえないかな?」


「ダメよ。戦の最中にそんなことはできないし、私の家の騎士だとしても、出てもらうから」


「平民に戻るというのは…」


「陛下の温情で上げて頂いた以上、それをどうこう言うのはあまりに失礼でしょ。それに、降格ってのはよほど大きな失敗をしないとそうならないし」


 ふむ、失敗すれば良いのか。

 でも、打ち首になったらしゃれにならんし、試すのは止めておこう。


「覚悟を決めなさい。平民でも命令されれば同じ事よ。ラインシュバルトに戻るまでは同行するわ、ティーナ」


「ありがとう、リサ。クロを頼むわね」


「ええ」


「いえ、私もお二人に付いて行こうと思うのですが」


 クロがそんな事を言い出す。


「ええ? それはダメよ」


「ですが、それでは助けて頂いたご恩が返せません」


「あのね、クロ、そこまで恩に着る必要も無いし、そうだとしても、あなたみたいな子供を戦場に連れて行くわけには行かないの。聞き分けてね」


「そうよ。子供が行っても、役に立たないし」


 リサが言う。


「私は呪文も使えますし、戦場も初めてではありません」


 クロがなおも言う。


「クロ、君は人が殺せるのか?」


 俺は問う。


「そ、それは…」


「なら、義務も無いんだ。大人しく留守番しててくれ。危険な場所だし、いや、大丈夫、ちゃんと俺たちは戻ってくるよ」


 クロは俺たちと二度と会えないのでは無いかと心配して、付いて来たがっているのかもしれない。


「分かりました…」


 まだ納得していない様子のクロだが、言葉ではそう返事をしてくれた。


「じゃ、出発しましょう」


 自分の宿をチェックアウトして戻って来たクレアにも事情を説明したが、ラインシュバルトまで付いてくると言う。


「ユーイチ、あの女が何を企んでるか、よく注意しておきなさいよ」


 リサが小声でそう言ってくるし。


「むう、分かったよ」



 俺たちは急いでミッドランドに向かったが、それでも馬車で二週間かかってしまった。途中盗賊に襲われたりと、本当にこの世界は治安が悪いし。

 馬に乗れないと困ると言うので、俺は乗馬の練習もしつつ戻ったが、ケツが痛いです…。


「ユーイチ、見て。あれが私が住んでいたお城よ」


 ティーナが指差したが、本当に城だ。しかもかなり大きい。ここが王城ですと言われても納得しそうなくらいに。

 湖畔に切り立つ城は、なだらかな草原の丘に囲まれていて、ラインシュバルトの城下町から隔絶しているようにも見えた。


「君は本当に名門の大貴族なんだなあ…」


「よしてよ。家は凄いけど、私は家督は継がないし」


「んん? それって…」


 出家でもするんだろうか。それとも、他所へ嫁ぐ?


「ティーナ!」


 なだらかな草原の丘の上から、鉄の鎧を着込んだ騎士が三人、勢いよく馬を走らせこちらにやってくる。


「む」


 レーネが警戒して剣に手をやったが。


「お兄様!」


 そう叫んだティーナも馬を走らせて、そちらに向かう。降りるなり騎士の一人に抱きついた。

 うん、感動の再会ってヤツだね。

 それ以上でもそれ以下でも無いんだけど、なんか落ち着かないのはなんでだろ。


「無事で何よりだった。心配したぞ? オズワードのところに一人で潜入するわ、悪魔とやり合うわ、相変わらず無茶をする」


 ティーナの兄が笑顔を見せる。明るめの茶髪に紅緋色の瞳で、色はティーナとそっくり。目元もよく似ているが、爽やかで温厚そうなイケメンだ。


「ううん、潜入は反省してないけど、悪魔とやり合うつもりじゃなかったのよ」


「余計に悪い。カチュア姉さんから、俺がどれだけ叱られたと思ってる。手紙を出そうにも行き先すら告げず」


「ああ、それは悪かったけど、冒険に出たことがあるお兄様なら分かるでしょ? 一カ所にはいないんだし」


「そうだな。だが、次からどこに行くか予定くらいは教えてくれ。それと、彼らが?」


「ああ、うん、紹介するね。私のパーティーのみんな。ユーイチ! レーネ! ミネア!」


 手を挙げて呼ぶので、馬をそちらに走らせる。

 よ、よし、止められた。

 苦労して降りる。


「ユーイチと、レーネと、ミネアよ。これが私の兄のルーク」


「やあ、妹が世話になった。礼を言う」


 ルークは笑顔でそう言って、自分から握手を求めてきた。


「ど、どうも」


 と、俺。


「いや、世話をしてもらっているのはこちらの方だがな」


 と、レーネ。


「初めまして。こちらこそ、よろしゅうお願いします」


 と、ミネア。


「ユーイチ君、君の師は誰だい?」


 ルークが聞いてきた。


「はあ、今は鋼の賢者の弟子のミオに教えてもらってはいますが、特定の師というのは。強いて言えば、魔術入門の書のルザリック先生ですね」


 面倒臭いが、勝手に師匠の名を使ってもまずいだろうし、正直に言う。ルザリック先生は入門書で有名なようだし、多分もう没している人なので問題は少ない。


「そうか、ならジャンと同門かな。ああ、ここで立ち話もなんだ、城でゆっくりお茶でも飲みながら話そう」


「そうね」


「リックス、今日の演習は終わりだ。皆に伝えておいてくれ」


 ルークが馬に乗りながら言う。簡単に乗ったなあ、今。俺は誰かに手伝ってもらわないと乗れないんだが。


「分かりました」


 後ろの片方の騎士が頷いて丘を向こうへ駆け上がっていく。茶髪の中年。


「ギブソン、後で手合わせしましょう」


「おう」


 ティーナが声を掛けたギブソンという騎士は、甲冑を着込んでいて、顔は見えなかった。


「じゃ、先に着替えて来るよ」


「ええ」


 ルークもそう言って、城へ馬を駆けさせていく。 


「格好良いお兄さんやなあ…」


「腕も立ちそうだったな。後で手合わせでもするか」


「言っておくけど、レーネ、お兄様は強いわよ?」


「面白い」


 馬を厩舎に連れて行き、そこの世話係の人に後は任せる。


「「「お帰りなさいませ、ティーナお嬢様」」」


 城の入り口には、メイドがずらっと五十人は並んでいるだろう。それが一斉に頭を下げて迎えるのだから壮観だ。


「ただいま。もう、そんな畏まった挨拶は良いから、みんなを部屋に案内して頂戴」


「そうは参りません、ティーナ様。お館様から、二度と家出したくなくなるくらいに丁重にお出迎えしろとのご指示ですから」


 俺たちと同い年くらいのメイドが一人、案内しつつ言う。グリーンの髪だが、染めたのでは無く、この世界では天然だろう。

 と言うか、家出してたわけね、ティーナ…。


「むぅ、メリッサ、それを客人の前で言う?」


「お叱りは後で。それも込みで、お館様のご指示とお考え下さい。では、お嬢様はこちらへ」


「お客様はこちらへ」


「そちらのお客様はこちらへどうぞ」


 メイドがそれぞれやってきて、一人一人、別のところへ案内するようだ。

 さーて、俺のメイドさんは誰かなあ…可愛い子だと良いね! むっ!?


 殺気を漂わせた老執事が俺の前に立ちふさがった。


「ようこそ、ラインシュバルト家へ。お客様はこのセバスチャンがご案内させて頂きます」

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