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異世界の闇軍師  作者: まさな
第七章 保護者ですから

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第一話 見知らぬ少女

2016/11/22 若干修正。

 ……………ファッ?

 どうして目の前に裸の少女がいるんだぜ?


 ああ、そうか、これはきっと夢だ。

 

 …ゆ、夢なら何をしても良いよね?


「戻ったんです! 人間の姿に! やりましたよ!」


 目の前の銀髪少女は、興奮してはしゃいでいる。

 少し痩せているが、ぷにぷにっとしたお腹だ。

 肌が白い。

 それに、びっくりするような美少女だ。

 このまま大人にならないで欲しい。

 そのあどけない顔は天使そのものだ。

 胸がほとんど膨らんでいないのもグッドだ。

 このつぼみみたいな感じがもうね。


「ユーイチ様?」


「あ、ああ、うん」


 そうっと手を伸ばし、少女の頬に触れる。


「ふふっ、くすぐったいです」


 お、おおう、何だろう、この興奮の予兆は。


「イエス! イエス! イエス! ふおおおおお!」


「えっ? えっ? ど、どうしたのですか、ユーイチ様」


 少女がちょっとびっくりしたか、引き気味になる。


「ちょっと、夜中に何騒いでるの、ユーイチ」


 リサの声。


「げえ…」


 急に、冷静になった。


 あれ? 夢じゃ無いみたいだね、これ。


 ここは宿の俺の部屋。

 そして、目の前には知らない全裸の美少女。


 ああああ、これは危険です…。   


「き、君は誰? と言うより、まず服を着ようか」


「えっ? あっ! きゃあっ!」


 うわー、最悪だ。

 さっきまで平気だったくせに、急に恥ずかしがるとか。


「ちょっと、どうかしたの? ユーイチ、入るわよ」


 うえ、ティーナまで。


「ま、まま、待て! 話せば分かる。俺は無実だ!」


「意味が分からないんだけど」


 そう言って、リサとティーナが部屋に入ってきてしまった。


 くそ、先にこの女の子を隠すべきだった!


 しかし、もう遅い。


「えっ?」


 ティーナとリサも、女の子を見て、呆気にとられている。


「あ、あの、申し訳ありません。何か着る物を貸して頂けませんか」


 少女が消え入るような声で言う。


「ああ、これ、シーツで良いだろう」


 俺は少女にベッドのシーツをかぶせてやる。


「ど、どうも。済みません…」


 顔を真っ赤にした少女。見ようによっては、多分、いや確実に、俺が(かどわ)かして連れ込み、不埒なことをやろうとしていたように見えるだろう。


「どういうことかしら?」


 無表情で俺に問うティーナの顔が超怖いんですけど!


「はわわ、と、とにかく、落ち着け。話せば分かる、はずだっ!」


「落ち着くのはアンタの方でしょ。あなた、名前は?」


 リサが銀髪少女に問う。


「あ、はい、申し遅れました。私の名は、エステル=クワトロ=グラン=クリスタニア。クリスタニア王国の第二王女になります」


「「「えっ?」」」


 王女と名乗った少女以外の、全員が耳を疑って聞き返す。


「えっと、驚かれるのは無理もありませんが、ああ、クロです、猫だった」


「あー、クロかぁ…」


 それで全部、合点が行った。

 

 クレアの解呪は成功していたようだ。あるいは、真実の鏡の効果か。それはどっちでも良い。どういう事情かは知らないが、呪いで姿を黒猫に変えられていたクリスタニア王国の王女が晴れて人間に戻ったと。

 そう言うことだ。


 …やっべ、王女の裸を見ちゃったけど、よし、ここで口裏合わせしておけば、大丈夫だよな? 相手は俺に従順なクロなんだし。


「クロはシーツを羽織って人間に戻った。それでいいな? お前ら」


「あ、はい、そうして頂けると助かります」


 クロはすぐに頷いて了解。よし。


「ちょっと! こんな幼い子供を連れ込んで、口裏まで合わせようとか、何考えてるのっ!」


 ティーナが俺の胸ぐらを掴んで、ブンブンと揺らしてくる。


「ぐえっ、ま、待て、苦しい…」


 なんてこったい、ティーナはまだクロに気づいていないようだ。


「あ、あの、ティーナ様、私です、本当にクロなんです」


「まだ言わせるか、この…!」


 ひい。誤解ででで―――


「ちょっと待ちなさい、ティーナ。泡吹いてるし、それ以上は危険よ」


 リサが止めてくれた。


「え? ああ」


「げほっ、げほっ、うう、死ぬかと思った。いいか、説明するから良く聞け」


「ええ。内容次第によっては、詰め所に、いいえ、ここで私が斬り捨てるわ」


「だから…俺にやましいことは一切無いぞ。黒猫のクロが呪われていたのは、お前らも知ってるだろ?」


「あ、まさか…」


 リサが気づいたようだ。


「そのまさかだ。あれは呪いによる変化で、元は人間だったらしい」


「ええ? ああ…」


 ようやくティーナも理解してくれたようだ。


「まぁ、俺も、妙に賢い猫だとは思ってたんだよ。呪文まで使いこなすしな」


「ありがとうございます。できれば、この事をもっと早く伝えたかったのですが、文字を書こうとすると変な力が邪魔をして出来ませんでした」


 なるほどな。たまに、クロが地面を引っ掻いてたから、トイレか遊んでるのかと思っていたが。


「ホントに、クロちゃんなの?」


「はい、ティーナ様。いつも優しくして下さってありがとうございます。それと、ユーイチ様の愚痴というか悪口というか、ふふ、私によく話して下さいましたよね?」


「ああああああ! そっ、それは絶対、喋らないでね?」


「はい。安心して下さい、絶対、言いませんから」


「ええ? お前、俺の悪口とかクロに言ってたのか?」


「オホン、それはいいでしょ」


「いや、良くねえよ」


 気になるだろ。面と向かって言われてもへこみそうでアレだが、直せるところは頑張る、かもしれないし。

 あ、でも、スケベとロリはちょっと無理。あと臆病も。


「ユーイチ様、大したことでは無いですし、そんなに悪くは言っておられませんよ」


 クロはそう言うが。


「と、とにかく、その話は良いから。ううん、よし、もう夜中も遅いし、クロちゃん、いえ、殿下、まずは私の部屋でお休み下さい」


「あ、はい、お気遣いありがとうございます。ですが、私はもう王女では無くなっていると思いますので、普通の対応で、今まで通りで構いませんが」


「どういうこと?」


 リサが聞く。


「それが…私を猫の姿に変えたのはクリスタニアの宰相、おそらく父上も、うう…」


 国王が絡んでいるのか。いや、しかしな…。

 ティーナが嗚咽するクロの背中にそっと手をやり、優しく言う。


「ん、分かったよ。もういい。とにかく、もう今日は遅いから、ね?」


「はい。お見苦しいところを晒して申し訳ありません」


「そんなの、あなたが謝ることじゃないから。さ」


 ティーナが俺を見て頷き、後は任せておけと言う様子。任せることにする。

 二人とも部屋を出て、ティーナの部屋へ向かった。


「じゃ、私が護衛しているから、このことはしばらくレーネとミネアには伏せておいて」


 リサが、気になることを俺に言う。


「待て。なぜ二人に隠すのか、理由は?」


「ふう。まだパーティーに入って日が浅いし、素性が分からないでしょうが」


「それはそうだが、それを言うならミオもだろうに」


「じゃ、ミオにも伏せて」


「むう。ま、刺客というのを心配してるなら、問題無いぞ。レーネもミネアもクロは可愛がってたし」


「クリスタニアと無関係だとしても、王族と知ればどう動くか分からないわよ」


「身代金でもせしめようとするってか? リサ、いくら何でもそれは酷いぞ。あの二人、金に困ってる風でも無いし、金にうるさい方でも無いだろ。それを心配するなら、お前が一番心配なんだが」


「む、そうね。なら、あなたが護衛について」


「あのな。今のは言葉の綾だっての。そこまでクロを心配してくれるんだ、護衛はリサで構わない。この宿は安全だと思うし、王族だと知っているのも俺たちだけだろう」


「でも、クリスタニアの人間は別よ。ごく一部でしょうけどね」


「ああ…」


「じゃ、護衛に付いているから、呼んだらすぐ出てきなさいよ」


「わかった」



 結局、あれからは一睡も出来なかった。

 クロが人間の姿に戻れたのは良い。

 だが、王女と言うのがね…。

 一応、俺は騎士になってはいるけれど、身分差はそれでも圧倒的だろう。


 やっべえ。別に嫌らしいアレでナデナデしてたんじゃないけど、お腹とか胸とか腰を触りまくってたんだよな。その時は猫だけど。

 うん、あれは、猫だったときだからセーフで。いや、でも、記憶はあるんだよね? その辺どうなのよ?


 だが、クロは怒ってなかったと思う。本名はエステル・なんちゃら・なんちゃら・クリスタニアだけど、覚えてねえよ。長えし、驚いたし。

 裸は脳裏に焼き付いていて、そちらはいつでも思い出せるけどね!


「ユーイチ、朝食に行きましょう」


 ノック。ティーナの声だ。呼びに来た。


「お、おう」


 クロがあれから何をティーナに話したか。

 クロが泣きながら、「酷いことをユーイチ様にされたんです」なーんて言ったら、ああ、もう今頃俺の首は飛んでるよね。だから大丈夫。

 ローブを着込んで、着替え終了。

 部屋を出る。


「お早うございます! ユーイチ様!」


 クロが俺の顔を見てこぼれるような笑顔を見せてくれた。 

 なんだか今日は良いことがありそうな、そんな気分にさせてくれる。


「まだ寝ぼけてるの? お早う」


「お、お早う、二人とも」


 はっとしてクロの服を見たが、彼女はは白い布の服を上下、ちゃんと着込んでいた。

 その視線に気づいたか、ティーナが言う。


「私のじゃサイズがちょっと合わなかったから、リサのを借りたの。でも、まだ大きい感じだし、きちんとした服、揃えてあげないと。だから、今日は買い物に行くわよ?」


「ああ、そうだな」


「楽しみです!」


 階下に降りて、宿屋の食堂のテーブルの席に着いたが、みんなは誰だろコイツという顔をしてる奴が多い。


「まだ説明してないの。朝ご飯を終えて、落ち着いてからの方がいいでしょうし」


「そうだな」


「おっはよーニャ、ユーイチ、ティーナ。そいつ誰ニャ?」


「後で紹介するわ、リム。だけど、高貴な御方だから丁寧な口を利いてね」


「ニャ? うえ、貴族かニャー…」


「あ、いいえ、リム様、普段通りで構いませんから」


「ニャニャッ、ご機嫌、恨めしやー」


 相手がクロだから苦笑されるだけで済んでるが、怖いなあ。本人に悪気が無いのが何とも。


「黙ってるか、普通にしてろ、リム」


 言う。


「ニャ」

 

「お前達は知り合いのようだな?」


「ええ。あなたもだけどね、レーネ」


「ううん?」


 首を傾げてクロを見るレーネは、やはり気づかない様子。

 誰だって説明を聞かなきゃ、猫が人間に変わるなんて思わないだろう。


 今日の朝食は、もちっとした平べったいこの地方のパンと、オニオンスープ、それにサボテンのサラダ。

 エスターンでも同じようなのを食ってるが、あんまり美味しいとは言えない。


「一日のお恵みに感謝を」


 クロは躾良く祈りを捧げてからフォークとナイフを使って食べる。


「ああ! 切って食べられるなんて幸せです!」

 

 感激しているクロ。

 ごめんな。まさか人間とは思ってなかったから、適当にちぎって手渡しだったもんなあ。


 

 食事を終えて、ティーナの部屋に集まり、事情を皆に説明する。


「ええっ? あのクロちゃんが?」


「ニャニャ! おっきくなった…」


「驚いたな…あの猫が」


「ん、さすがユーイチ、使い魔を人間型にクラスチェンジ」


 当然、みんな驚くよな。約一名、ちょっと変な感想で、わざとだろうけど。


「分かってるとは思うけど、アンタ達、王女殿下の地位については絶対秘密よ。良家のお嬢様だけど、詳しくは知らないって事にしておきなさい。いいわね?」


 リサが注意を促す。


「ニャ、分かったニャ。クロが王女様だったなんて、口が裂けても言わないニャ!」


 気合いはこもってるが、お前が一番心配なんだよな、リム。


「だから、大きな声で王女言うなバカ」


 リサも軽く渋い顔。


「それで、なんで猫になってたん?」


 ミネアが聞く。


「はい、それが…」


「私が代わりに説明するわ」


 言い淀んでしまったクロの代わりにリサが説明した。


 クリスタニアにはクロを含めて三人の王女がいたこと。

 

 クロは二番目に産まれた王女であったこと。

 クロの母親は三人目の妃で、元は平民、城の住み込みメイドであったこと。

 去年、第一妃に待望の第一子、第三王女が生まれたこと。

 クリスタニアの第一王女はすでに隣国に嫁いでおり、王位継承権が無いこと。


「ま、早い話が第三王女に跡を継がせたくなって、邪魔になった第二王女のクロを猫に変えて追い出したってことね」


 リサが核心をズバリと言う。


「ニャー…なんでクロが跡継ぎじゃダメなの?」


「三人目の娘を産んだ第一王妃が有力貴族の家の出で、元メイドの娘より風聞も都合も良いからよ」


 王位継承権をめぐって実の兄弟が争うのは歴史上、珍しくも無い。


「それなら最初から第一王妃に子供を産んでもらえば良かったニャ」


「そうね。でも、子宝は天からの授かり物、そんなに都合良くは行かないのよ」


 ティーナが言う。


「そうなると、クリスタニアに戻るっちゅうんも、なんや難しい感じやね?」


 ミネアが重要な点を確認する。クロはどうしたいのか。


「はい。私の母はすでに病気で他界していますし、私も体が弱く、とても王など務まりません。クリスタニアに戻ったとしても誰からも歓迎されないでしょう。もし、許されるのであれば、このまま皆さんと一緒に…」


 クロが自分の希望を言い辛そうに言うので、俺は声を大にして言う。


「分かった。俺たちと一緒にいれば良いぞ」


「うん、それが良いね」


 と、優しく微笑むティーナ。 


「ニャ、一緒ニャ!」


 リムも万歳して賛成。


「戻るよりはいいんじゃない?」


 あまり他人と関わろうとしないエリカも、ボソッと言う。


「安心なさい、ちゃんと面倒見てあげるし」


 リサも言う。口調はキツイことが多いが、面倒見の良い奴だ。


「そうしろ、そうしろ。自分のやりたいようにやるのが一番だ」


 レーネが力強く頷いてニヤッと笑うが、あなたもどこぞの王女臭いんだよね…。詮索はしないけど。


「ん」


 言葉少なに、だがしっかりと頷いたミオも、大賛成のようだ。


「良かったな、クロちゃん。みんなええって言っとるし。もちろんうちも賛成や!」

  

 ミネアが慈しむ目をしながらも、陽気に言う。


「あ、ありがとうございます。うう、私、私…」


 クロが感極まって嗚咽し始める。


「泣くな泣くな辛気くさい。嬉しいなら胸を張って礼を言え」


 レーネがそんな事を言うが、性格が違うんだから。


「ええやん。泣ける時に泣いた方がスッキリするしな」


 そう言って背中を撫でてやるミネア。


「うん、私達が付いてるよ、クロちゃん」


 ティーナも手を握ってやって、良いお姉さんになりそうだ。


 良かったな、クロ。

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