表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の闇軍師  作者: まさな
第六章 錬金術師になりたいな

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/287

第十六話 蟻地獄

2016/11/22 若干修正。

 途中、二メートル立方の石ブロックが落ちてきたから、生きた心地がしなかったが、なんとか俺たちはピラミッドの出口に辿り着いている。

 ピラミッドはそのまま健在で、一部の通路が崩れて潰れただけのようだ。

 さすがに、今から戻って調べようとか、そんな気にはとてもなれないが。


「じゃ、魔力も切れてるし、少し休憩したら、街へ向かいましょう」


 リサが言うが、それが妥当だろう。反対意見は出なかった。


「リサ、どれくらい、持ち出せたん? うちは金貨の袋二つと、このなんや怪しげな小袋と、剣だけや。ごめんな」


 ミネアが謝る。


「いいわよ。こっちも宝石は全部持ち出せたけど、肝心の魔道具、小物だけしか持って来れなかったし。燭台と天秤ね。あの竪琴、売れば良い金になったと思うけど」


「まあ、さすがにアレは重そうやったし、命あっての物種や」


「ええ、そうね」


 アナライズしたいところだが、俺しかMPが残っていないので、無駄遣いは止めておこう。


 あのひよこ、クーボはいなくなっているので、ラッド達はもう街へ向かったらしい。

 俺たちの大トカゲ(ロドル)の方は大人しく繋がれて待っていた。リサが今、水を与えている。

 食事時ではないのだが、食べられるときに食べておくのが冒険者なので、干し肉とパンをみんなでかじった。

 水袋は最低限の一つだけにして、残りは捨てる。不渇の杯が有るとは言え、それだけに頼ってうっかりなくしたりすると一大事だ。


「じゃ、出発しましょうか」


 ティーナが言う。

 まだMPはほとんど回復していないが、宿に戻って休んだ方が安全だ。前衛組は置いていたローブを着込む。


「また砂漠かあ…」


 日差し強そうだし、熱気がむんむんしてるから、ここの陰から出たくないわー。


「文句言わない。別に、ここで暮らしたきゃ好きにしても良いけど」


 リサが言うが、こんなところで暮らしたいなんて思うはずも無い。食料、どうするんだと。


「分かったよ」


 諦めて言う。


「ホルンの街に着いたら、しっかり休みを取るから、それまで頑張ってね」


 ティーナが励ましてくれた。


「ああ」


 ラッド達が反対側の街、エスターンの街に戻っていたら、ハイポーションのお返しはもらえないことになるが、いちいちそれ目当てで行ったり来たりするつもりも無い。


 出発だ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「レッサーバジリスク、二匹!」


 途中、モンスターも当然のように出てくるが、これまでと違う敵は出てこなかったので、魔力が無くても余裕。


 野宿して、翌朝再び、ホルンの街を目指す。


「レーネ、杯、貸して」


 耐えきれなくなったので俺は頼む。


「またか。ほれ」


 魔道具の杯をレーネから受け取り、水を念じて出して飲む。

 うめぇ。

 もう一杯!


「ユーイチ、それまでにしておきなさい。MP、戦闘用に取って置かないと」


「ええ? じゃあ、リサが出してくれよ」


「仕方ないわね」


 おお、「知るか!」と怒られるかと思ったが、出してくれた。ありがたく飲む。


「もう一杯、いい?」


「ダメ。お腹が水で膨れすぎても、動きが鈍るでしょ」


「そんなにガブガブは飲んで無いんだが…む、ちょっとトイレ」


 催してしまった。


「言わんこっちゃない。停止、警戒!」


「ごめんよ、ごめんよ」


 そう言って杖を置き、クロをその場に降ろしてやり、なだらかな砂丘を降りて、みんなから見えない位置に移動する。


「それはいいけど、水を飲み過ぎるの止めてね、ユーイチ」


 ティーナにも注意されてしまった。気を付けよう。


「はーい」


 ふう。スッキリ。

 野外は、モンスターさえ気を付ければ、どうって事は無いんだよな。

 困るのは城の中とか、街の中。

 みんなにも確認したが、あろう事かこの世界は公衆トイレなるものは存在しない。


 なので、冒険者は基本的に街外れや物陰で致さないといけない。

 さすがに女子はそれはキツイので、店に頼んで済ませているようだが、料金も取られるのだろう。

 俺は男子だから、そこは気にせず、豪快にやっている。


 ステテコを整え、マナーとして砂を掛けて隠し、完了。


「ごめん、待たせた」


「いいけどね。他に、行きたい人は、今のうちに済ませておいて」


 ティーナが聞いたが、他に行きたい者はいなかった。水、飲み過ぎだな。反省。


「ほれ、クロ」


「ニー」


 クロを俺のローブのフードの中に入れてやり、再び歩き出して、間もなく。


「ニャ! 向こうに水が見えるニャ」


 リムの声に顔を上げると、もやもやと揺らめきつつだが、遠くに光を反射している大きめの湖が見えた。

 あれは多分、蜃気楼だな。水浴びしたい気分だが、あそこまで歩く気にはならん。


「ああ、アレは蜃気楼よ。追いかけても追いかけても、水は無い幻だから、騙されないで」

 

 ティーナも下調べして知っている。


「ニャニャ! それは面白そうニャ」


「あっ、こら、リム、待ちなさい!」


「ちょっと見てくるニャー!」


 リーダーのティーナの言うことも聞かずにダッシュして行くリム。この暑さの中で無駄に元気だなあ。俺は走る気力なんてねえぞ? 後でへばらなきゃいいが。


「ダメよ! 戻りなさい!」


「あかんよ! リム!」


 リサやミネアも鋭い声で叫ぶが、リムは聞こえたのか聞こえていないのか、止まらない。


「…あんのバカ猫。仕方ない、私もフォローしてくるわ。一人でモンスターに囲まれるとマズいし」


 リサが言うが、む、それが有ったな…。視界が割と広い場所だから油断してたが、砂に足が取られる分、移動速度が落ちるわけで……。


「ごめん、リサ」


 そこはリーダーの役割だと思ったか、ティーナが謝る。


「飼い主はちゃんと責任持ちなさいよね」


 などとリサが俺をチラッと見てから走って行くし。えー?


「いや! クロは俺の飼い猫だけど、あのバカは違うぞ!」


「どっちかというと、私の飼い猫よね、アレ」


 ティーナが肩をすくめてリムをアレ呼ばわりする。そんな位置づけで良いのか、リムよ。


「まあ、エサはティーナがやってるようなもんだしなあ」


「ふ。それで言うと、みんなティーナのペット」


 ミオが言う。確かに宿代を全部持ってもらったりしているので、正しいのだが、何となく卑猥な感じに聞こえる。


「ええ? みんなはちゃんとした仲間だから。違うわよ、もう」


「むっ! 何かあったようだぞ」


 それまでのんびり荷台に寄りかかっていたレーネが素早く立ち上がる。


「ええ?」


 向こうを見ると、リムがすり鉢状の砂丘の穴に落ちかけているようで、必死に四つん這いで駆け上がっている。

 笑ってやろうかと思ったが、すり鉢の真ん中に巨大な昆虫のハサミが見えた。


 うおっ、やばい。


「蟻地獄だ!」


 正体が分かったのですぐに叫ぶ。


「助けるわよ!」


 全員で駆け出す。

 だが、まずいな。魔法チームのMPは枯渇している。この砂漠最大の難敵だと言うし、戦闘は避けたいのだが。


「リム、掴まって!」


 リサがロープを投げてそれにリムが掴まった。ずり落ちは止めることが出来たが、小柄なリサの力ではリムをそこから引き上げられない。 


「待ってて! 今行く!」


 ティーナがそう言って全速力で走る。俺も全力で走ってるんだが、くっ、走りにくいなあ、もう。砂に足が取られる。ひい、ふう。

 最初にリサのところまで辿り着いたティーナがロープを掴んだ。続いてレーネも辿り着く。


「よし、代わる。リサはボウガンでアイツを牽制してくれ」


 レーネが指示する。確かに、すり鉢の中に降りて攻撃するのは危険だし、飛び道具が良い。


「分かった」


 ティーナとレーネが、ロープを引っ張りリムを引き上げに掛かる。近づいてくるハサミに向かって、リサがボウガンを打つが、砂の下に隠れている本体には届かなかったようだ。


「ダメね」


「どうしようか?」


 ロープを引っ張りつつ、ティーナが聞く。


「戦闘は避けましょう。わざわざ降りて戦う必要も無いし」


 リサが言う。


「そうね」


 そしてようやく俺も近くまで来た。足おっそ!


「はあ、はあ、ぜー、ぜー」


 しかも苦しい。とりあえず、アナライズ。



 蟻地獄 Lv 62 HP 24357/25478


【弱点】 炎、氷、水

【耐性】 風、雷

【状態】 飢え

【解説】 

 砂漠の狩人。

 すり鉢状の巣を作り、そこでじっと獲物を待ち構える。

 噛みつきと毒により攻撃。

 後方にしか歩けない。

 成虫に成長するとヘブンズ・ドラゴン・フライに変態する。

 レベルの個体差が激しく、Lv20~65まで確認されている。 



 わあ、これ、まともに戦ったらダメな奴だ。

 HP二万台って。

 クレイゴーレムよりちょっと少ないけど、レベルが高い。


「ええ? こんなに強いの?」

「むっ!」


 ティーナやリサも驚く。


「さすがにこれは、止めておいた方が良いだろうな」


 レーネもやるつもりは無いらしい。


「ニャー、危なかったニャ」


 張本人がようやく上がって、冷や汗を拭う。緊張感の無い奴。


「リム、後で反省会」


 ティーナが言う。


「ニャ、申し訳ないニャ…」


「ねえ、本当にやらないの?」


 エリカが不穏なことを言う。もちろん、蟻地獄の方だ。リムのお仕置きは必要だろうけどね。


「当たり前でしょ。私達が敵う相手じゃ無いわよ」


 リサが言う。


「でも、弱点が水、それにデスの呪文を使えば…」


 考え込むエリカ。危ないね。ちょっとやってみようかと俺も思っちゃったのが危ない。


「静寂になりて安息のまどろみに(いざな)え、スリープ」


 なので、エリカの後ろから眠りの呪文を、エリカに(・・・・)掛ける。


「あっ、何を、ユーイチ、クッ、覚えてなさ…」


 エリカが考え事で集中していたので奇襲成功、抵抗(レジスト)失敗。崩れ落ちるエリカを抱きかかえ、支えてやる。


「ヘイ、一丁上がり」


「良い判断だと思うけど、後で知らないわよ」


「むむ」


 そこはリーダーとしてなだめてくれよ、ティーナ。


「リム、負ぶって運んでくれ」


「はいニャ」


「じゃ、アイツの後ろに回らないよう、注意して離れましょう」


 無事、ロドルの荷台のところまで戻ることが出来た。

 エリカを起こすのは怖いので、そのまま荷台に乗せて引っ張らせる。


「ユーイチ、アレと戦うとして、どうやる?」


 リサが頭の体操か、聞いてくる。


「そうだな。まず目潰しセットの呪文と、眠りの呪文は仕掛けてみて、それからスリップで足止め」


「効くかしら?」


「さあ。効かない気もするけど、そのまま来られたら死ぬし。後はアイスウォールやストーンウォールで足止めかなあ」


「止められる気がしないけど、止められたら?」


「ファイアウォールかウォーターウォールで、持続効果の呪文でダメージを稼ぐってところか。デスも試してみるだろうけど、向こうの方がレベル高いしな」


「ええ。で、それまで前衛が()てば、なんとかなるかしらね?」


「あれは無理だぞ。昆虫のデカいのはやったことがあるが、まともには止められん。しかも62とか、私が見た中では一番の強さだ。アレは逃げるしか無い」


 いつもは強気のレーネも、まともに取り合わない。よっぽどだな。


「レーネが無理なら私も無理ね」


 ティーナも匙を投げた感じ。


「あたしも無理ニャ」


「うちも無理やね」


 リムとミネアも肩をすくめる。


「そ。じゃ、次に出くわしても逃げね」


 リサが言う。

 みんなも身の程は(わきま)えているようで、そこは安心だ。あとは、後ろの要注意エルフか。

 下手したらデスを唱えてくるし、チッ、どうやってコイツと戦おうかね。


 俺はエリカとの戦闘を真剣にシミュレーションしながら、砂漠を歩いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ